心の中で消した妻

心の中で消した妻

タイトル：（仮）心の中で消した妻

▼登場人物

●世和木 心（よわき しん）：男性。50歳。サラリーマン。勝子にほとほと嫌気がさしている。

●世和木勝子（よわき かつこ）：女性。49歳。心の妻。とにかく鬼妻でかなりの我儘。

●羽久野佳子（うくの かこ）：女性。35歳。マイに紹介されて来る。かなりの美人。

●剛木健太郎（ごうき けんたろう）：男性。50歳。佳子の彼氏。暴力団。本編では「剛木」と記載。

●須久巣（すくす）マイ：女性。30～40代。心の理想と欲望から生まれた生霊。

▼場所設定

●世和木宅：都内にある一般的なアパートのイメージでOKです。

●カクテルバー：お洒落なカクテルバー。マイの行きつけ。

●街中：会社帰りの道を含め一般的なアパートのイメージでOKです。

▼アイテム

●Erase in Your Heart：マイが心（しん）に勧める特製のカクテル。これを飲んだ人にとって、気に入らない人を心の中で打ち消し、その人をこの現実でも本当に見えなくする力を秘める。

NAは世和木 心でよろしくお願い致します。

イントロ〜

あなたは、付き合っている人と別れたい、

離婚したいなんて考えた事がありますか？

でも相手が人間である以上、

なかなか思うようにいかない事もありますよね。

結婚してれば慰謝料やその他の問題、

普通にカップルとして付き合っている場合でも

全く後腐れないように別れる事は難しいようです。

今回はそんな事で悩み続けた

或る男性にまつわる不思議なお話。

メインシナリオ〜

ト書き〈自宅〉

勝子「ふざけないでよ！こんな安月給のくせにアタシに指図する気！？全く口だけは一丁前なんだから！」

心「そんな…そりゃお前が高い買い物ばかりするからだろ？」

勝子「普通に生活品を買ってるだけです！」

心「だってこんなアンティークとか生活に必要ないだろ」

勝子「そりゃアタシが欲しいから買うの！ウダウダ言ってないでもっと稼げるようになりなさいよ！」

もう言ってる事がメチャクチャだ。

俺の名前は世和木 心。

今年で50歳になるサラリーマンだ。

妻帯者ながら子供は無く、毎日、夫婦喧嘩の嵐。

妻の勝子は結婚当初はまだしも、それから少しして本性を現し、

その横暴ぶりはまるで絵に描いたようにひどかった。

子供が居ないのをこれ幸いとして離婚も考えたが、

「別れたら慰謝料請求する」などと脅され、

なかなか踏ん切りがつかない。

それに体裁も悪くなり、自分の中でもまだ

離婚へのハードルを高いものにしていたのだ。

心「はぁ。どうすりゃイイんだろうなぁ。家に帰ってもこれじゃあ休める所もない…」

ト書き〈カクテルバー〉

そんなある日の事。

会社帰りに俺は飲みに行った。

もう家に帰るのも嫌で、顔を合わせたら喧嘩…

なんて不毛な生活は心底まっぴらだ。

心「この飲屋街にも最近よく来るようになっちまったなぁ。…ん、あれ？こんな店あったっけ？」

歩いていると全く見慣れないバーがあるのに気づいた。

結構綺麗で落ち着きもあったので俺はそこに入り、

いつものようにカウンターに座って1人飲んでいた。

すると…

マイ「お1人ですか？もしよければご一緒しません？」

と1人の女性が声をかけてきた。

彼女の名前は須久巣マイさん。

都内でライフコーチやメンタルヒーラーの仕事をしていたようで、

本業は「人生コンサルタント」と言う会社に勤めていると言う。

俺は別に断る理由もなかったので隣の席をあけ、

彼女を迎えて改めて自己紹介し、

それから世間話やいろんな話で盛り上がった。

喋っていて少し不思議に思った事がある。

「昔どこかでいちど会った事のある人？」

のような感覚がうっすら漂い、彼女の雰囲気がそうさせるのか、

心が和んで少し開放的になり、

自分の事をどうしても彼女に打ち明けてみたい…

悩みを聞いて貰ってそれを解決してほしい…

そんな気にさせられるのだ。

マイ「まぁ、奥様とのご関係がそんな形に…？」

心「ええ。もうウチに帰るのも嫌になっちゃって、あいつの顔見たら心が休まるどころか、また怒りの感情が湧いてきて喧嘩になっちゃうんですよ。と言っても、一方的にガミガミ言うのは向こうですけどね」

俺はこれまでの生活事情を全部彼女に打ち明けていた。

マイ「なるほど。それはお困りでしょうね」

心「ええ。もちろん離婚も考えましたが、なかなか…」

マイ「そうですか、分かりました。まぁここでこうしてお会いできたのも何かのご縁です。私が少し手助けして差し上げましょうか？」

心「え？」

そう言って彼女は指をパチンと鳴らし、カクテルを一杯オーダーした。

そしてそれを俺に勧めてこう言ってきた。

マイ「それは『Erase in Your Heart』と言う特製のカクテルでして、それを飲めばきっとあなたの悩みは解消されます。何事もまず信じる事が大切で、自分の未来が明るくなる事を祈り願ってみて下さい」

心「は…はあ？」

マイ「それともう1つ、こちらをご覧下さいな」

そう言って彼女はパンフレットのような物を差し出してきた。

マイ「それは私どもの会社でご紹介させて頂いている、派遣社員の形で来てくれる女性のリストです。まぁ社員と言ってもする事は家事やその他で、あなたの身の周りの世話をしてくれる良き理解者・相談相手となってくれるでしょう」

心「え？女性を紹介するって事ですか？」

マイ「フフ、ご心配なく。こちらでご紹介する女性は皆メイドの役割だけをしてくれる人達で、恋人関係にはなりません。まぁ仕事で来てるんですからそれは当たり前ですけどね」

心「は、はぁ…」（何となく聞いてる）

なんとも彼女は不思議な人だ。

普通ならそんなこと言われたって信じず、

そんなサービスもこれまで利用してこなかった俺なのに、

彼女に言われると心が素直になるのか信じてしまい、

そのサービスを受けてみようと言う気になってしまった。

心「で、でも僕は離婚する決意がまだ…。こんな状態でそんなサービスを利用してしまったら、妻に一体なんて言えば良いのか…」

マイ「ウフ、その点もどうかご心配なく。そのサービスを受けた時点で、あなたの奥様・勝子さんはあなたの前から消えるでしょう」

心「え？」

マイ「この事もどうか信じてみて下さい。私の言った通りになると、その時になれば必ず分かるでしょうから」

ト書き〈数日後〉

それから数日後。

会社から帰ってみると…

心「あれ？…勝子？おい勝子ぉ？」

妻の勝子がどこにも居ない。

この時間なら必ず家に居るのに。

アパート周りや、

妻が行きそうな場所を探してみても一向に見つからない。

心「…どこ行っちまったんだ…」

でも俺は久しぶりに1人の生活を満喫でき、心が安心し、

「別に妻が居なくてもイイや…このままで居よう…」

みたいな気持ちになってしまい、それから妻を探すのをやめた。

心「…そう言や、マイさんが言ってた通りになったのか…」

「あなたの奥様・勝子さんはあなたの前から消えるでしょう」

彼女があのとき言ったこの言葉を思い出し、

部屋の床にごろんと寝転んだ。

とその時…

佳子「すみません、世和木さんのお宅はこちらでよかったでしょうか？」

と1人の女性がドアをノックしてきた。

心「あ、はぁい」

と出て見ると、そこにはとても綺麗な女性が立って居る。

心「あ、あなたは…？」

佳子「私、羽久野佳子と申します。マイさんから言われて参りました。これから家の事や、あなたの身の周りのお世話をさせて頂きますので、どうぞよろしくお願い致します」

心「あ、君があの…！」

マイさんから紹介されて来た人だったらしい。

それにしてもなんて綺麗な人なんだ。

佳子さんは俺のもろタイプの人だった。

「元妻」なんて言えば気が早いかもしれないが、

あの勝子と比べればホント雲泥の差だ。

ト書き〈勝子の居ない毎日〉

それから勝子の居ない毎日が始まった。

勝子の代わりに佳子さんが毎日俺のそばに居てくれるようになり、

俺の人生は本当にバラ色に変わった。

心「いやあこの料理、ほんとに美味しいよ！君どこで料理習ってきたの？♪」

佳子「うふふ、有難うございます。お料理は独学で学びました♪」

心「へぇ〜凄いなぁ♪毎日こんな飯が食えたらホントに幸せモンだ♪」

佳子「まぁ♪」

俺は密かに彼女にアプローチするようになってしまい、

勝子の事はすっかり忘れ、今目の前に居るこの佳子さんに夢中になった。

佳子さんは毎日家に来てくれ、掃除から洗濯から料理まで

全部をしてくれている。

会社に行ってる間も家には佳子さんが居てくれて、

まるでこの歳で新婚生活を味わってるような

そんな信じられない程の嬉しさに俺は巡り会っていた。

心「ふんふ〜ん♪さあ仕事終わり♪今日も帰って、佳子さんとまったり過ごそうかな♪」

そうして帰っていた時、いつも通る公園横の道で…

心「あれ？あなたはマイさん？」

マイ「あら、世和木さん♪今お帰りですか？」

マイさんとばったり会った。

心「いやぁ〜あなたに紹介して頂いたあの彼女♪佳子さんはホントに素敵な女性で、僕の生活もすっかり変わりましたよ」

マイ「そうですか、それはよかったですね♪」

心「でも、もうずっと勝子は家を出て行ったきり見つからないんです。まぁ多分あいつの事だから、気まぐれに家を飛び出して実家かどこかへ帰っちゃったのかもしれないですけど…。もう探すのも億劫になってしまって…」

マイ「そうですか。でもそれならそれでイイんですよ？女性が2人居ると争いの元。これを機にあなたは勝子さんの事はもう忘れて、次の新しい第2の人生を歩むようにしてみて下さい」

心「は、はぁ…」（何となく頷く）

マイ「それともう1つ。あのとき言い忘れてた事があったんですが…佳子さんの事です」

心「あ、はい何でしょう？」

マイ「これは前にもお伝えしましたが、彼女は仕事であなたの所へ来ています。ですから妙な気持ちを起こし、その意味で彼女に迫るような事はないようにして下さいね？あなたの為を思って言ってます」

マイ「あなたはこの前、勝子さんとの生活に嫌気がさし、そこに心の救いを求めるような、そんな安らぎだけが欲しいとおっしゃってました。なので私はその願いを叶える為だけに彼女を紹介したんです。もし今私の言った事を破ってしまうと、あなたの身に大変な事が起きると思いますので、どうかくれぐれもこの事を忘れずに…」

少し怖い事を言われたようだが…

心「なんだ、そんな事ですかw大丈夫ですよ♪僕と彼女に限って、そんな無茶な事はありませんから」

ととりあえず軽く聞き流し、ほとんど問題にもしなかった。

それより俺にとっては

勝子が今のように居なくなった事が幸いだったのだ。

もう離婚後のゴタゴタに巻き込まれる事もないだろうし、

もしこのまま行けば俺に第2の幸せがやってくる…

そっちの希望のほうが大きかったのもある。

ト書き〈トラブルからオチ〉

家に帰るとやはり勝子はおらず、

佳子がいつものように俺を待っててくれた。

佳子「お帰りなさい♪」

心「ああ、ただいま〜♪おぉ今日も豪勢だなぁ〜♪」

食卓の上には佳子の手料理が一杯並んでた。

それを全部平らげた後、俺は前々から思ってた気持ちを

佳子に正直に打ち明けた。

佳子「え？い、いや、それはダメです、いけません！」

心「どうして！？俺達もう出会って少し経って、こんなに仲睦まじい関係になれてるじゃないか。俺、君の事が本当に好きなんだ」

佳子「あ、あなたには勝子さんと言う奥様がいらっしゃるでしょう！？」

心「勝子？ああ、前の妻か。ハハwなに言ってるんだい？君も今見てるように、勝子はもうこの部屋に居ないだろ？あいつはもう出て行っちゃったんだよ♪この部屋に帰ってくる事もないし、君さえここにずっと居てくれたら勝子の事なんてもうすっかり忘れる事もできるんだ」

佳子「そ、そんな事…！勝子さんはまだいらっしゃいますよ！」

「勝子がまだ居る」

なんて訳の分からない事を言ってた佳子だが、

俺はそんな事はもうどうでもよく、

とにかく佳子が欲しくて堪らなくなっていた。

そして、つい勢い余って押し倒そうとしてしまった時…

剛木（佳子の彼氏）「おい、テメェ誰の女に手ェ出してんだよ！w」

いきなり部屋に入ってきた男が居り、そいつが俺を突き飛ばし、

それから部屋にドカッと腰を下ろして…

剛木「ケッ！佳子はなぁ、仕事でここに来てんだよ。俺の女を押し倒そうとしやがって、こりゃアレだなぁ、慰謝料たっぷり貰わねぇと割に合わねぇかなw」

心「あわわわ…」

この男はどう見ても筋金入りのアウトロー。

佳子に今付き合ってる男が居たなんて…

それもこんな恐ろしい奴が…

と次の瞬間…

勝子「誰よその女は！！私がちょっと留守にしてた間にそんな泥棒猫みたいな女連れ込んでぇ！これで離婚する理由もできたわ！慰謝料請求してやるから覚悟おし！！」

心「お、お前…居なくなったんじゃ…」

勝子「はあ？何言ってんのよ！私はずうっと居ましたよ！アンタが無視し続けてただけでしょう！それが嫌で旅行に行って帰ってみたらこのザマ！アンタは本当にどうしようもない亭主だね！」

心「ひ…！ひぇええぇ！！」

ト書き〈アパートを外から眺めながら〉

マイ「ふぅ、結局こんな事になっちゃったか。私の言った事をちゃんと守ってたら、佳子さんといつまでも穏便な暮らしが出来ていたのに」

マイ「私は彼の理想と欲望から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れた。私があのとき彼に勧めたカクテル『Erase in Your Heart』は、気に入らない人を心の中で打ち消し、その人をこの現実でも本当に見えなくする力を秘めていた。勝子が居なくなったと思えたのはその為よ」

マイ「それに夢に酔わせる力も持っていたから、私の言った事さえちゃんと守ってればいつまでもその理想に酔い続け、あの暴力団の男や勝子とこうして再会する事もなかったのに。暴力団と勝子の2人から慰謝料請求されちゃうなんて、二重の苦しみを負う事になっちゃったわねぇ」

マイ「まぁ夢はいずれ覚めるものとも言うけど、自分でしでかした事の罪は、自分でちゃんと尻拭いしなきゃね。第2の人生の幸せは今後、自力で見つけていくことね」

動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=XOeOijkAr3o