作家のリアリティ

天川裕司

作家のリアリティ

タイトル:(仮)作家のリアリティ



▼登場人物

●伊勢木夢乃(いせぎ ゆめの):女性。35歳。独身。女流作家。

●担当者:男性。30歳。夢乃の担当。時々夢乃の自宅へ原稿を貰いに来る。一般的なイメージでOKです。

●江渡須加(えとすか)レイ:女性。30代。夢乃の理想と欲望と良心から生まれた生霊。


▼場所設定

●夢乃の自宅:都内のアパートから郊外の(大き目な)一軒家へ引っ越す。

●Madness of Reality:都内にあるお洒落なカクテルバー。レイの行きつけ。本編では主に「カクテルバー」と記載。


▼アイテム

●Bridge to Dreams:レイが夢乃に勧める特別の錠剤。これを飲むと心が豊かになって活性化される(想像力も膨らまされる)。ただし3ヶ月分。

●Weapon of Dreams:レイが夢乃に勧める特別の錠剤。これを飲むと夢を叶える為に手段を択ばなくなる(現実と夢が混同してしまう形)。


NAは伊勢木夢乃でよろしくお願い致します。



イントロ〜


あなたには夢がありますか?

小さい頃にはいろんな夢を見たりするもので、

その夢に向けて将来を歩いて行くもの。

でもその夢が現実に通用するかどうか、

つまり現実に許されるものかどうなのか?

それについては考えた事があるでしょうか?

今回は、そんな夢に取り憑かれてしまった

ある女性にまつわる不思議なお話。



メインシナリオ〜


ト書き〈自宅の書斎〉


私の名前は伊勢木夢乃。女流作家だ。

今日も自宅の書斎で小説の執筆に取り組んでいる。


夢乃「あ~ダメだわ!ダメ!こんなんじゃ全然自分の書きたいものが書けてないわよ!」


また書きかけ原稿をクシャクシャに丸めゴミ箱へポイ。

今、私はどうしようもないスランプだった。


夢乃「はぁ〜ちょっと気分転換でもしようかな」


最近では副業でこんなシナリオ執筆をしている人も多いけど、

私の場合はこれを本業としている事もあり、生活費を賄う為の大きな仕事。


小説家になるのは昔からの夢だった。

子供の頃からの夢で、将来は必ずその小説で成功する事…

こんな過去があったのもあり、

今その仕事を変える事は絶対したくない。

そんな葛藤に苛まれ続けていたのである。


とりあえず、締め切り間近の原稿は横へ置き、私はその日飲みに行った。


ト書き〈カクテルバー〉


行きつけの飲み屋へ行こうとしていた時…


夢乃「ん、あれ?こんなお店あったっけ?」


普段通っていた飲屋街に、全く知らない店がある。

名前は『Madness of Reality』。

なんだかとても綺麗な外観で、内装も落ち着いてたから

私はふと立ち寄り、カウンターについて1人飲んでいた。

すると1人の女性が声をかけてきた。


レイ「こんにちは。お1人ですか?もしよければご一緒しませんか?」


彼女の名前は江渡須加レイ。

都内でヒーラーの仕事をしていたようで、

その変わった名前も自分で付けたものだったらしい。


でもなんだか彼女には独特の魅力のようなものがあり、

初対面に関わらず、一緒に居るだけ…喋っているだけで

なんだか心が落ち着いてきて、その和んだ空気の中で

ふと「もっと彼女と一緒に居たい」そんな気持ちにさせられ、

私は隣の席を空けて彼女を迎えた。


さすがに彼女はヒーラーの仕事をしているだけあるのか、

人の話を聞き出すのが上手い。


そんな状況から私は

今の自分の悩みを全て彼女に打ち明けてしまい、

その悩みを解決する為の方法を彼女から聞いてみたいと、

なんだか悩み相談のような形になってしまった。


レイ「へぇそうなんですか?あなた小説家?」


夢乃「ええ。まぁ一応、女流作家で名は通ってます。でも先ほどもお話しした通り、私は今全くのスランプで、もうその仕事も続けられないかな…なんてちょっと思ってるんです」


今のスランプの事。

書きたいものが書けなくなった事。

何のアイデアも生まれなくなってしまった事。

だから仕事も変えなきゃならないかも。


そんな事を1つ1つ丁寧に切々と、いや…

「今のこの悩みをどうにか絶対に解決してほしい!」

そんな心の叫びを全部彼女に訴えていた。


すると彼女は…


レイ「なるほど。今の時代、あなたのように女性が独立して自分の夢を追い駆ける仕事、それを本業にしている方も実に多いものですよね。実は私が開業しておりますヒーラー教室にも、あなたのような方が何人か居られて、あなたと同じように相談を持ちかけて来られる方も多いんです」


夢乃「そうなんですか」


レイ「良いでしょう。ここでお会い出来たのも何かのご縁です。私がそのお悩みを、少しでも軽くして差し上げましょう」


そう言って彼女は持っていたバッグから

空瓶入りの錠剤のようなものを取り出し、

それを私に差し出してきた。


夢乃「なんですかこれ?」


レイ「それは『Bridge to Dreams』と言うまぁ心の栄養剤のような物でして、それを飲めばきっとあなたの心はいろんな刺激に活性化され、小説を書く為の様々なアイデアも生まれてくるでしょう」


夢乃「…は?」


レイ「つまり心が多感になって、日常のちょっとした事からもアイデアを生み出せるようになり、それをいろんな脚色をもって1つの小説に仕上げる。おそらくあなたの仕事はそういう事の繰り返しかと思いますから、その時でも必ずその薬は役に立ってくれます。フフ、何事も信じる事が大事ですよ?まぁ騙されたと思っていちど試してみて下さい。もちろん騙しませんけど」


話を聞いている内にやはり彼女は不思議な人だと思った。


全く信じられない事でも、

彼女に言われると何となく信じてしまう。

「そんなものかな」と言う気にさせられてしまい、

私はその錠剤を手に取り1粒飲んだ。


しかも代金は無料。

彼女はこういった仕事をボランティアでしていたと言うのもあり、

その無料と言うのも仕事を失くしてしまうかもしれない私にとっては魅力だった。


ト書き〈数日後〉


それから数日後。

私は本当に変わっていた。


夢乃「よし書けた!もう時間ないから原稿のままで持ってって!」


担当者「有難うございます!それでは原稿頂きます」


締め切り間近だったあの原稿も

私は瞬く間の内に書き上げてしまい、

その日うちにやって来てくれていた編集担当者の人にも

何とか間に合う形で原稿を手渡す事が出来た。


あの錠剤を飲むようになってから、

それまで眠っていたかのような創作の心が目を覚まし、

いろんなアイデアが浮かぶようになって

脚本から演出から何もかも、思い通りに描けるようになったのだ。


夢乃「フフ、なんだか私すごいじゃない…あの錠剤の効果、やっぱり本当だったのかも」


それから私は何本もの小説を書き上げ、

編集者や出版社の人からもこの上ない絶賛を受け、

私が書いたその小説は瞬く間の内に売れていった。


ト書き〈カクテルバー〉


それから私はまた数日後。

あのカクテルバーへ飲みに行った。

するとあの日に会ったレイさんが、

前に座っていたのと同じ席に座って飲んでいた。


夢乃「レイさん!本当に有難うございます!あなたにあの日アドバイスを受け、あんな素晴らしいお薬を貰った事で私、すっかり見違えるように変われたんです!創作の為のアイデアが本当にどんどん湧いてきて、感謝な事に、書いたものが本当に全部売れるようにまでなってくれました!有難うございます!」


私は何度もお礼を言い、心の底から彼女に感謝していた。

それを聞いた彼女も心の底から喜んでくれ、

まるで自分の事のように私の将来を祝福してくれた。


でもこの時、少し気になる事を彼女は言った。


夢乃「え?そうなんですか?」


レイ「ええ。あの瓶入りの錠剤『Bridge to Dreams』は少し依存性が強いところがありまして、どなたにオススメする時でも1回限り、と言う約束でお渡ししております」


レイ「それでもまぁあの瓶には90粒の錠剤が入っておりますから3ヶ月分という事になり、その間にあなたは今の経験をバネにして、それ以降は自力で小説を書く為のアイデア・脚本を練り出す事も出来るでしょう」


少し心許なくなってしまった。

私はてっきりあのお薬を延々貰えるものだと思っていた。 

手元に無くなればまた彼女に言ってあの薬を貰い、

スランプにならない為の

架け橋のようなものにしようと思っていたのだ。


でもそれが出来なくなった。


夢乃「ど、どうしてですか!?依存性が強いって…でも私あのお薬がないと…」


レイ「申し訳ありません。あのお薬は元々そういうものなので。ですがあなたも小説家なら、自分の力を信じて創作に打ち込み、骨身を削る努力をしながらその夢を叶え続けなきゃならない、そんな事も覚悟してこの道へ入られたんじゃなかったのですか?それならその努力を忘れちゃなりません」


夢乃「え…?」


レイ「あのお薬は確かにあなたが経験なさったように、確かな効果を持つもので、飲むだけでその夢を叶えてくれます。ですがそれではその人に本来の努力を忘れさせ、現実で夢を追い駆ける為の自分本来の力を損わせてしまうのです。ですからあの薬を飲むのは誰でも1回限り。3カ月間を過ぎれば、あとは自力で夢に向かう努力を養い直さなければなりません」


確かに彼女の言葉を1つ1つ聞いているとその通りだと思った。

でも今の私には自信が無い。

あの薬が無くなれば、私はまた前の自分に戻ってしまう。

その確信だけを私はこのとき持ってしまった。


ト書き〈3ヶ月後〉


それから3ヶ月後。

私は自分の思っていた通り、また何も書けなくなってしまった。


夢乃「はぁ、ダメだ。また何にもアイデアが浮かんでこない…」


担当者「夢乃さん、原稿はまだでしょうか?もう締め切りが迫ってるんですけど」


夢乃「す、すみませんがもうちょっと待って頂けませんか!?」


担当者「まぁ少しは待ちますけど、来週までに仕上げて頂けなければウチも困ってしまいますので」


今後の契約が打ち切られるかもしれない。

そんな窮地に私は立たされていた。


ト書き〈カクテルバー〉


そして私は又あのカクテルバーへ行き

レイさんに会っていた。


夢乃「レイさん!お願いです!あのお薬、また私に下さい!あれが無いと私もう何にも書けなくてダメなんですよ!もしかすると私、本当に仕事を失くしてしまうかもしれません!レイさんが言った通り、私やっぱりここで自分の夢を諦めたくないんです!何とかしてもう1度、自分の書きたいものを書けるようになりたいんです!お願いします!何とかあのお薬をもう1度だけ私に下さい!」


依存したって、あの薬が無ければ何も書けなくなったって

もう何でも構わない。

とにかく今のこの窮地を脱する為に私は必死だった。


そして土下座する勢いで何度も無心していたら

彼女も漸く折れてくれたのか。

私のその願いに応えてくれた。


レイ「ふぅ。仕方がないですね。あのお薬をお渡しするのは前にも言いましたようにもう出来ませんから、別の方法で今のあなたの悩みにお応えしたいと思います」


夢乃「え?」


そしてまた彼女はバッグから

前と同じような瓶入りの錠剤を取り出し

それを私に勧めてこう言った。


レイ「これは『Weapon of Dreams』と言う心の強壮剤のようなものでして、前にお渡しした薬と同じような効果を持つ上で、更にあなたの心を夢に向かって強く歩ませ、今あなたが抱えておられる悩みを全て解決してくれるでしょう」


夢乃「え?そ、そうなんですか…」


レイ「ええ。でもその効果は余りにも強く、現実と夢の混同を起こさせる事もあり、その人の身に破滅を招いてしまう事もあるのです。ですからこれをお勧めするのは私の本心ではありません。ですがどうしてもあなたが今の悩みを解決し、この窮地を脱したいと強く思われるなら、こちらを差し上げるしかありません。あなたの人生です。あなたにお決め頂くしかないのですが、その事への覚悟があるのならまぁどうぞ…」


結構、怖い事を言われているように思えたが、

それでも私は今の自分のこの夢を諦めず

今後も小説家としてやっていくなら今、彼女に差し出されたその選択肢を取るしかない。


そう思い、私は又「無料で結構です」

と言われたその瓶入りの錠剤を手に取り、

その場で1粒飲んでいた。


ト書き〈数日後〉


それから数日後。

また私は変わっていた。


前と同じように創作意欲がどんどん湧いてきて、

実際に小説を何本も書き上げる程のアイデアも湧き、

書くもの全てがまた絶賛され、瞬く間に売れていった。


2度目の薬を貰ってから書き上げた小説は7本。

その7本全てが「リアリティ満載の傑作!」と謳われ、

私はこの業界で「リアリティの女王」

なんて特定の人から呼ばれたりもした。


夢乃「フフ。ウフフ…私はリアリティの女王。そのリアリティを小説に全て書き上げ、作品を通して読者に夢を見させる…。これよ。これが私の本当に書きたかったもの…。昔からの夢を、私は今叶える事が出来たんだ…」


そう言いながら、

私は自分の部屋のクローゼットのドアをバタンと閉めた。


私はあれから引っ越して、

郊外にあるかなり大きな家に住んでいる。

部屋の間取りは大きく、創作スペースもかなり広い。

暫くはここでやっていける。


ト書き〈カクテルバー〉


それからまた久しぶりに私はあのカクテルバーやってきていた。

するとまた同じようにしてレイさんがいつもの席で飲んでいる。


レイ「すっかり見違えたようになりましたね、夢乃さん」


夢乃「フフ♪そうですか?前と変わりませんけど?」


レイ「いえいえ、その表情からは大胆不敵と言うか、これまでには無かったような強靭な作家の強さが備わっているようですよ?」


夢乃「アハwそれは作家として成長した…と言う事でしょうか?お褒めの言葉として受け取っておきます」


夢乃「さぁそろそろ帰らないと、晩御飯のおかずを沢山買わなきゃならないので…」


レイ「そうですか。では私もそろそろ帰るとしますか。途中まで一緒に参りませんか?」


そうして私とレイさんは店を出て、

一緒にスーパーへ行き買い物をした。

レイさんも晩御飯のおかずを買い、

スーパーを出てから別々の帰路へつく。


レイ「へぇ。そんなに買い込まれるんですねぇ?今夜は誰かとパーティですか?」


夢乃「え?いや、アハハw私こう見えて結構沢山食べるほうなんですよ♪」


そして私はレイさんと別れ、自宅までの道を歩いていく。

その私の背中を見てレイさんは呟いたらしい。


レイ「…ウソおっしゃい。さっき買い込んでいた沢山の食料はただのエサ。そのご馳走に釣られてやってきた人達を小説のネタにして、あなたはリアリティ満載の小説を書いてるのよね。どおりでこの辺りの浮浪者の数も減った筈。最後の薬を飲んでから7本の小説を書き上げたから、少なくとも7人の犠牲者が出ているようね。彼らの遺体はあのクローゼットの中に仕舞われている…」


ト書き〈警察に連行される夢乃を遠くで眺めながら〉


レイ「全く彼女の場合は、夢と犯罪が背中合わせのようにあったのね。彼女はそこら辺の浮浪者を自分の家に招き入れ、彼らを実際に殺害してサスペンスドラマを書き上げていた」


レイ「お腹を空かせた浮浪者達に『ご馳走してやる』と言って誘惑し、飲ませた物に睡眠薬を入れて彼らを眠らせ、縛り付けて彼らが目を覚ました時、その状態のままで拷問しながら彼らを殺し続けた。その時の自分の感情や事の経過を一部始終メモしておき、その通りの事を各小説のクライマックスに描き続けた」


レイ「リアリティ満載になる筈よね。犠牲にするのは浮浪者だから、身元も分からず、その失踪から自分にアシがつかないと思っていた彼女。でもそんな事が現実に通用する筈はない。私が警察に通報しといてあげたわ」


レイ「私は夢乃の『理想と欲望と良心』から生まれた生霊。彼女の夢を叶える為だけに現れたけど、良心から生まれているのもあって、その罪を覆い隠す事はできず私は警察に通報した。まぁ彼女が無意識に持つ、罪の意識の成れの果てってヤツかしら?」


レイ「警察に捕まるのは時間の問題だったという事ね。作家は架空の中で現実を創り上げてこそ、その本業を果たした事になる。それから言えば、夢乃はその架空を現実に見なければ何も描けず、眠らせ続けた創造力を起こす事が出来ないでいた」


レイ「この時点で『作家失格』だと気づけなかった彼女にこそ、悲劇を招く引き金があったのよ」


レイ「これからは独房の中で、自分がした事をリアリティ満載の小説に書き上げてみなさい。7人も犠牲にしたのだから極刑は避けられない。その僅かな時間で、果たして書き上げる事が出来るかしらね?」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=fY31auqA55Q&t=59s

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作家のリアリティ 天川裕司 @tenkawayuji

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