最も距離の離れた遠距離恋愛
天川裕司
最も距離の離れた遠距離恋愛
タイトル:(仮)最も距離の離れた遠距離恋愛
▼登場人物
●奥戸(おくと)カケル:男性。30歳。独身サラリーマン。フィアンセのレコが居る。レコとは遠距離遠距離中。
●花多(はなた)レコ:女性。30歳。独身OL。カケルの彼女で婚約者。ストーリー途中で強姦魔に襲われ自ら他界していた。
●レコの両親:主に母親だけ登場(セリフありで)。一般的なイメージでOKです。
●漬実(つけみ)ルコ:女性。30代。カケルの助けを求める心から生まれた生霊。
▼場所設定
●某会社:カケルが働いている。こちらも都内にある一般的なイメージでお願いします。
●街中:こちらは必要ならで一般的なイメージでOKです。
●喫茶店:こじんまりした静かなお店。カケルとルコの行きつけ。
●避難所シェルター:郊外のオフィスビルの中にあり少し薄暗いイメージで。
NAは奥戸カケルでよろしくお願い致します。
イントロ〜
あなたはこれまでに、遠距離恋愛をしたことがありますか?
今でも遠距離恋愛と言うのは後多くのカップルがしているもので、
なかなか会えない環境を共有しながら
彼らにとって最も貴重なものはプラトニックな恋愛。
どれだけ心の中で繋がり合えるか?愛し合えるか?
この心の姿勢が直接問われるのが遠距離恋愛…
と言っても過言じゃないでしょう。
今回はその遠距離恋愛にまつわる不思議なエピソード。
メインシナリオ〜
ト書き〈部屋でビデオ電話〉
カケル「…て事でさぁ、今度やっとまとまった休みが取れそうなんだ。だからまたその時にでも会える時間を持てれば良いね♪」
レコ「うん、わかったわ♪絶対会いましょうね」
俺の名前は奥戸カケル。
俺は今遠距離恋愛中で、彼女の名前は花多レコ。
俺達は都内の大学に通っていた時に知り合い、
それから今年で5年間、ずっと関係良好で付き合っていた。
そろそろ結婚の約束もし始めており、
2人で会った時には都内の式場へ下見に行ったり、
どんな家庭を築き合おうかとか、子供は何人が良いかとか、
早くも結婚後の生活を自分達なりに夢見始めていた。
俺はレコの事を心の底から愛していた。
レコも同じように俺を愛してくれていた。
ただレコの実家は都内から離れた他府県にあり、
両親の勧めもあって一旦実家に戻り、
向こうでとりあえず数年間就職した後、
そのひと時を家族水入らずの形で共に過ごし、
それから改めてまた結婚を機に都内へ戻ってくる。
そんな計画をお互い立てていたのだ。
そんな生活ながら、今俺達にとって1番幸せな時は
仕事を終えて家に帰り、LINEやSkypeなどのビデオ電話で
2人だけの時間を共有し合う時だった。
ト書き〈トラブル〉
でもそれから数週間したある日の事。
カケル「…あれぇ、っかしィなぁ、なんで出ないんだろ?」
いつものように電話をかけても、レコは一向に出なかった。
あれからレコは自宅近くのアパートを借り、そこに住んでいた。
アパートと実家の往復をしながら、
家族ともすぐに顔を合わす事ができる。
だから何も問題なく過ごしていた筈だったが、
ある日を起点にレコとは一切連絡が取れなくなったのだ。
もちろんレコの実家の方にも電話してみたが、
レコの両親も彼女の行方が分からないと言う。
カケル「…どういう事だよ」
俺はもちろん不安になり、とにかくレコの行方を探そうと躍起になった。
警察にも相談してとりあえず行方を追って貰ったがやはり見つからない。
「もしかして誘拐された…?」
「何かよからぬ事件に巻き込まれてしまった?」
そんな末恐ろしい妄想が
心をよぎるようになったのもこの頃で、
俺とレコの両親は段々焦り始めた。
そして警察も大々的な捜査をし始めた。
「お願い、すぐに帰ってきてレコちゃん!どこかに居るんでしょう?かくれんぼなんかしてないで早く出てきて!」
レコのお母さんはその只事じゃない雰囲気に
段々ノイローゼになり、お父さんに支えて貰いつつ、
とにかくレコの行方を自分達なりにも追うようになっていた。
俺は俺で時間を見繕いながら、
都内とレコが住む実家の界隈を往復し、
レコが行きそうな場所・心当たりのある場所を
しらみ潰しに探していた。
でも不思議な事に、それだけ探してもレコは一向に見つからない。
もちろん彼女がそれまで住んでいたアパートはずっと留守の状態。
カケル「警察の捜査にも引っかからないなんて、一体何がどうなってんだ…?」
レコとは結婚の約束をして、さぁこれからと言う時だったのに
こんな状況は余りにも不自然過ぎる。
「絶対何かの事件か事故に巻き込まれている」
そう確信した俺はそれから暫く会社を休み、
とにかく彼女を探す事だけに躍起になった。
ト書き〈喫茶店〉
そんなある日。
俺はいつものようにレコを探しながら街中を駆けずり回っていた。
そしてふと喉が渇き、喫茶店に立ち寄った。
カケル「ふぅ。ちょっと休んだら、またすぐに探しに行かないと…」
もう俺も気が気じゃない。
最近ずっとこんな気持ちで居たのもあり、
俺も彼女のお母さんと同じようにして
おそらくノイローゼ気味になっていたのだろうか。
その時…
ルコ「こんにちは♪すみません、ちょっと相席してもよろしいかしら?」
と言って1人の女性が俺の元へ来て、
俺が座っていた2人掛けの椅子に自分も腰掛けようとしてきた。
「他にも席が空いてるのに」
と少し不思議な気もしたが…
カケル「ああ、どうぞ」
と別に断る理由もなかったのでとりあえずOKした。
彼女の名前は漬実ルコ。
都内でこじんまりした心療内科を開業しており、
副業でメンタルヒーラーなんかもやっていると言う。
でも目の前に来たとき少し不思議に思ったのだが、
彼女は何となく昔から自分と一緒に居た人…?
のような気がしてきて、気づくと俺の心は
何となく彼女に安心めいたものを感じていた。
そしてもう1つ不思議だったのは、
彼女と一緒に居るだけで心が和むせいか、
その延長でなんだか自分の悩みを打ち明けたくなる。
気づくと俺はその時の自分の悩みを全て彼女に打ち明けていた
ルコ「彼女さんがどこかへ…?」
カケル「え、ええそうなんです。もう何日も家を空けたままで、連絡も一切なく…。こんなこと今までに1度もなかったからどうも心配し過ぎで狂っちゃいそうなんですよ…」
自分達がもう結婚の約束をしている事まで彼女に伝えた。
すると彼女はそれまで聴く姿勢だったのが急に表情を変え、
ひどく落ち着いた様子で俺に言ってきた。
ルコ「ここでこうしてお会いできたのも何かのご縁です。私に少し、お力にならせて頂けますか?」
そう言った後、彼女は特製のカプチーノを注文し
それを俺に差し出してきて、とりあえず落ち着くよう
それを飲むように勧め、
それから信じられない事を言ってきたのだ。
ルコ「実は私も、先程あなたが言われていた彼女さんが住んでる地域に住んでおりまして、同じく先ほど言われていたその彼女さんの特徴からして、おそらくその人の事を知っております」
なんとルコは、俺達がずっと闇雲に探し続けていた
レコの居場所を知っていると言う。
カケル「な、なんですって!?」
この時俺はもしかして、今目の前に居るこの彼女が
レコを何かの事件に巻き込んだ張本人じゃないか?
そう思い疑ってしまった。
ルコ「いいえ、私はそんな事しておりません。ただ彼女が事件に巻き込まれている所をおそらく目撃したのです」
ルコ「彼女、どうやらよからぬ野蛮な男に強姦されてしまったようで、その挙句、先ほどあなたが言われてましたように自分は結婚する身でもあり、そんな形で汚れてしまった自分を悲観する余り、誰の前にも姿を現せず、そのとき偶然見つけた避難所へ駆け込んで、彼女は今でもそこに居るようですよ」
なんでこの人がレコの事を知っているのか?
それが本当に疑問だったが、
彼女は何だか独特のオーラのようなものを持っており
そのオーラが俺の心に芽生えたその疑問を打ち消した。
つまり今彼女が言ってる事を俺は頭から信じさせられ、
彼女がそれから言った通りに行動したのだ。
ルコ「あなた、本当に彼女さんの事を愛してらっしゃるようですね?その愛が今後変わったりするような事はありませんよね?」
カケル「な、何言ってんですかあんた、そんな事ある筈ないでしょう。僕は彼女と本気で結婚の約束をしてるんです。だから会社も休んで、今こうして彼女を見つける事に全力をつぎ込んでるんじゃないですか!」
カケル「ルコさん、あなたさっき、レコの居場所をご存じだとおっしゃってましたね?そこへ連れてってくれませんか?それであなたが言った事が嘘か本当かわかると言うものですから」
俺は少し怒り口調で彼女を責めたが、
彼女の言った事を信用したのは本当だった。
するとルコは…
ルコ「良いでしょう。ただし彼女の心は今とても傷ついています。それは愛するあなただからこそ見せたくない心、その辺りの事も出来れば分かってあげて下さい。では今から参りましょう」
そう言って彼女は席を立ち、俺を連れて店を出た。
そして道すがら、もう1度俺に確認してきた。
ルコ「1つ約束してほしいのですが、今からレコさんの所へあなたを案内した後、あなたのこれまでの生活が一変する事も覚悟しておいて下さい。大丈夫ですね?」
いきなり出会って初対面の彼女がこんな事を言ってくる。
どこからどう見ても不思議な事だったが、
さっき飲んだカプチーノに
もしかしてアルコールでも入っていたのか?
俺は何だかさっきから少し酔ったような気分になっており、
彼女の言う事を全て心で受け留(と)めるようになっていた。
カケル「…もちろんですよ。さっきも言った通り、僕の人生は彼女あってのものです。彼女が居ない人生なんて抜け殻同然。抜け殻の人生なんて送りたくありません。だからどんな事があろうとも彼女に会わせて下さい」
ト書き〈オチ〉
それを聞き届けた後、ルコはもう何も言わず、
颯爽と俺を連れて歩いて行った。
連れて行かれた先はかなり郊外にあるオフィスビル。
カケル「こ、こんな所に彼女が…」
ルコ「ええ、居られます」
そのビルの中にはシェルターのようなものがあり、
どうやら理不尽な暴力を受けた女性達の避難所のようだった。
そして…
カケル「あ!レ…レコぉ!」
レコ「カ、カケル…!」
俺はそこでレコを見つけ、レコはそこへやってきた俺を見るなり
思いきり抱きついてきた。
カケル「なんでいきなり姿を消して、連絡の1つも寄越してくれなかったんだよ!俺…いや俺だけじゃなくてお前の両親も、本当に心配してたんだぞ!警察まで捜索してくれてさ…」
俺は泣きながら彼女を嗜め、
それでも再会できた事のその喜びを全身で彼女に伝えた。
そして、その俺達の様子を見ながら
隣に居たルコがこう呟いた。
ルコ「よかったですね、カケルさん。またこうして彼女と再会できて。でもカケルさん、ここでさっきまで言われていたあなたの覚悟を見せて頂く番です」
カケル「え…?」
ルコ「このシェルターはいちど入ったらもう出る事は出来ません。あなたはここで彼女と一生を共にする事を覚悟して、それを幸せと呼び、今後の生活を送っていかなければならないのです。それでもよろしいのでしたわね?あなたの覚悟はそう言ったものでしたよね?」
いきなり怖い事を言ってきたが、
そこでもやはり彼女は不思議な人だった。
俺は彼女に聞かれるまま、正直をその時伝えていた。
カケル「…ええもちろんです。僕はここで彼女とずっと一緒に過ごします。ここで結婚式を挙げ、彼女と明るい将来に向けて歩いて行きます」
ルコ「そうですか。よかったです。私も心からあなた達2人の将来をお祝いさせて頂きましょう。念の為、あなたの為に言っておきます。このシェルターから一方足を踏み出そうとしてみて下さい」
カケル「え?…今ですか?」
ルコ「ええ」
俺がそのシェルターの入り口から1歩足を踏み出した時…
カケル「う、うわっ!」
差し出した俺の足は消えてしまった。
そしてまた足をシェルター内に引っ込めた時、
俺のその足は電子で蘇生されるようにまた現れた。
カケル「こ、これは…」
ルコ「このように、もうあなたはシェルターの外に出る事が本当に出来ないのです。もし出てしまえばあなたの存在そのものが消えてしまうでしょう。この事はどうか覚えていて下さいね。それではカケルさん、レコさん、どうぞこれからお幸せにね…」
そう言ってルコはシェルターを出て行った。
ト書き〈シェルターを外から眺めながら〉
ルコ「フフ、私はカケルの助けを求める心と理想から生まれた生霊。私の出来る範囲で彼と彼女を助けてあげた」
ルコ「もうカケルも途中から気づいてたかもしれないけど、そう、レコは強姦魔に襲われた後、自ら他界していた。精神的苦痛が余りにも大きかったんでしょうね」
ルコ「あのシェルターは、この世から離れた場所にある、レコさんのように不条理な目に遭い、自らこの世を他界した人と現実とをなんとか繋ぎ止めるその場所。だからこの世には無い場所なのよ」
ルコ「途中から、カケルとレコの遠距離恋愛はこの世で1番距離のある恋愛になってしまっていた。でもその時間と距離を乗り越えてこそ、遠距離恋愛の醍醐味が味わえると言うもの。それをどこかでカケルはうっすら理解していたのでしょう」
ルコ「改めて2人とも、最長の距離を超えたその恋愛の結実を、これからじっくり味わい、どうか幸せになってね」
動画はこちら(^^♪
https://www.youtube.com/watch?v=QVuqqcuMPv8&t=61s
最も距離の離れた遠距離恋愛 天川裕司 @tenkawayuji
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