見えない理想

天川裕司

見えない理想

タイトル:(仮)見えない理想



▼登場人物

●有藤(ありとう)メイ:女性。17歳。受験生。そこら辺に居る女子高生のイメージ。

●有藤百合子(ありとう ゆりこ):女性。享年20歳。メイの姉。優秀。セリフなし。

●有藤房江(ありとう ふさえ):女性。50歳。メイと百合子の母親。教育ママ。

●有藤義男(ありとう よしお):男性。51歳。房江の夫。教育パパ。何かと百合子とメイを比べる。

●夢尾佳苗(ゆめお かなえ):女性。見た目は20代。メイの心から生まれた生霊。

●コピーメイ:メイのコピー人間。名前も年齢も容姿もメイと同じ。


▼場所設定

●メイの自宅:一般的な戸建てのイメージでお願いします。本編では「自宅」と記載。

●公園:メイの自宅から最寄りの公園。やや広い普通の公園で。

●カフェ:都内にある一般的なイメージでOKです。香苗の行き付け。


▼アイテム

●栄養ドリンク:心を落ち着けて鷹揚にしてくれる。期限は1か月。

●Place of Transparency:見た目は栄養ドリンクと同じ。飲んだ人の理想や夢を叶える上でその人を気化させ、透明になったその人の居場所をずっと守ってくれる。


NAは有藤メイでよろしくお願い致します。

(イントロ+メインシナリオ:ト書き・記号含む=5431字)



イントロ〜


皆さんこんにちは。

皆さんは今の生活が理想ですか?

理想通りの人生をこれまで生きてきた人など

おそらく1人も居ないのではないでしょうか。

それは大人だけじゃなく、子供や青少年にも同じく言える事で、

逆に自分の生活テリトリーを

確保できないその子供や青少年のほうが

そんな苦しみに耐え兼ねる事もあるようです。

今回はそういった悩みを抱える

ある女性にまつわる不思議なお話。



メインシナリオ〜


ト書き〈自宅〉


房江「メイ!あんたはホント何度言ったら解るの!ちゃんと勉強して、良い大学に入れってあれだけ言ってきたじゃないの!何なの今回のこの模試の成績は!!」


メイ「ご、ごめんなさい。母さん…」


義男「まったく出来の悪い娘を持つと苦労する。少しはお姉ちゃんを見習ってお前もちゃんと勉強して、自分の将来を明るいものに変えて行くくらいの努力はしろ」


メイ「は、はい…」


私の名前は有藤メイ。

今年17歳になる女子高生。

高校3年で、今年から来年にかけて受験が控えている。


私の家は信じられない程しつけが厳しく、

自称エリート家族の成れの果てを行くような、

過度の教育熱心を掲げ続ける家庭だ。


勤勉な百合子姉ちゃんといつも私は比べられ、

その出来の悪さを悉く罵倒され蹂躙される。


メイ「はぁ…なんでこんな家に産まれたんだろ…」


本当はもっと自由に伸び伸びできる家庭に産まれたかった。

子供は親を選んで産まれてくる事が出来ない。

そこに全ての悲劇があるなんて、

私は僅かこの歳でそう思い込んでいた。


ト書き〈公園〉


ある日の学校帰り。

私は直接家には戻らず、近くの公園に来ていた。


家に帰りたくない。

帰ったら又うるさくガミガミ言われる。

この公園は私の唯一の心のオアシスのような場所。


そこで佇んでいると…


佳苗「こんにちは。もう夕方なのにこんな所に1人で居るなんて、家に帰らないの?1人でポツンとこんな所に居たんじゃ悪い人達に絡まれちゃうかもよ?」


といきなり声をかけてくる人がいた。

ふと振り向くと、

ベンチの後ろに結構キレイな女性が立っていた。


メイ「え?あ、いや…」


佳苗「フフ♪怖がらなくて良いわ。私こういうお仕事してるの」


彼女の名前は夢尾佳苗さんと言った。

コンサルタント経営からライフコーチの仕事をしていたようで、

渡された名刺には家のロゴと花柄模様が載っていた。


メイ「あ、アタシ、もう帰りますので…」


何かちょっと怖い気もしたのですぐ帰ろうとしたのだが、

ずっと優しい笑顔を浮かべる彼女を見ている内に

何となく警戒心がほだされてゆき、

気づくと帰ろうとしていたその足を留(と)め、

もう少し彼女のそばに居たい…そんな気持ちになっていた。


本当に不思議な人だった。

彼女が発するオーラと言うのか。


そのぬくもりが私の心を包んでしまい、

何か「昔から一緒に居てくれた人」…

そんな気にさせられる内、

彼女にだけは自分の悩みを打ち明けられる…

次にその気持ちが芽生えてきた。


気づくと私は彼女と一緒にベンチに座り、

今の悩みを全て打ち明けている。


佳苗「悩みを打ち明けてくれて有難う。でもそうなのね。家ではそんな針の筵のような生活を繰り返してきて、自分が安心して居られる場所が無い。ずっと責め立てられる内、産まれた事さえ後悔し始めていると…?」


メイ「え、ええ、まぁ…」


全て包み隠さず彼女に打ち明け続けた。


すると彼女は持っていたカバンから

栄養ドリンクのような物を差し出しこう言ってきた。


佳苗「それ飲んでみるといいわ。心を落ち着かせてくれて、どんな出来事にも鷹揚な姿勢をもって対処できる。一種の強壮剤…いえ精神安定剤のような物かしら。もし今の状況を少しでも変えたいと思うなら、試してみる価値はあると思うわよ?」


メイ「は?」


渡されたそのドリンクは、

どこからどう見ても

市販されてるリポビタンDのような、

ただの栄養ドリンクにしか見えない。


当然そんなの信じられる訳なく、

私はすぐにそれを返してまた立ち去ろうとした。


でもここでもさっき覚えたあの感覚がやってきて、

私は心と足を留め、「試すぐらいなら良いかも…」

と思い返していた。


しかもそのドリンクは無料。

彼女はボランティアでライフコーチの仕事をしていたようで、

なんとそのドリンクを1ヵ月分も私にくれたのだ。


ト書き〈数週間後〉


それから1週間… 2週間と過ぎて行く。

その間にとても悲しい事が起きた。


房江「百合子ぉ、百合子ぉおぉ!」


義男「百合子…!」


なんと百合子姉ちゃんが事故に遭い、そのまま他界した。

学校帰りの僅かな距離の道で、

信号無視したトラックにはねられた。

いつも優秀だったお姉ちゃんの事を思うと、

本当に信じられないような結末だった。


そしてお葬式を終え、ひっそりした私達の家庭。

その時からお姉ちゃんに向けられる筈だった両親の期待は

私だけに向けられるようになってしまった。


「頼むから百合子のように優秀になってくれ」


その言葉が無言の内に飛び交ってくる。

悲しみ続ける親の手前、私は「うん」と頷くが…


メイ「私はお姉ちゃんじゃない!私は私なの!これ以上、誰かと比べるなんてもうやめて!」


と心の叫びはどんどん大きくなり始めていく。


メイ「はぁ…。前より親からの期待がもっと大きく…」


私は1人になるとよくその事で悩んでしまい、

そのたび佳苗さんから貰ったあのドリンクを飲んでいた。


そのドリンクを飲み始めて暫く経った時、

私の中で更なる変化があった。


メイ「何だろう…今まで思ってきた悩みが全部消えてゆく…?」


そうなのだ。

あのとき彼女が言ったように、心の中がひどく鷹揚になり、

小さな事では悩まない、そんな大らかな自分が顔をもたげ始めていた。


房江「メイ!今日の勉強はやったの?今度の試験は大丈夫?」


義男「もうウチに百合子は居ないんだから、お前が父さんと母さんの期待を背負って今後、立派な社会人になれるよう努力して行かなきゃならないんだぞ」


そんなこれまでと同じような事を言われても私は…


メイ「うん分かってるわ♪ちゃんとお父さんとお母さんに恥ずかしくないようにしっかり勉強して、生活態度も直していって、立派なキャリアウーマンになれるよう努力するから、どうか安心して」


そう応え、父さんと母さんをとにかく安心させるよう努めていった。

今までの私なら絶対しなかった事だ。


でも自分の実力はそれほど変わらず、

幾ら期待に応えようとしてもテストの点はそれほど良くなく、

入れそうな大学も二流大学止まりになっていた。


それでも心の中はずっと明るい。

心が悩まなければ表面にも現れず、

全ては大した事ない…

この一言で終わらせていく事が出来るのだ。

この事も私は今回のエピソードを通して大きく学んだ気がした。

まぁ親はずっと心配し続けていたが。


でもそれから更に日が経ち、

佳苗さんにあの公園で会ってから1ヵ月が過ぎようとした時。


メイ「あ、もうドリンクが無い」


そう、このドリンクは1ヵ月の約束で貰っていた物。

また彼女に貰いに行かなきゃならない。

そう思い、私は渡された名刺に記載された番号に電話して、

その事を彼女に伝えた。


ト書き〈カフェ〉


でも…


佳苗「ごめんなさい。あの時は言いそびれてたんだけど、そのドリンクもう無いのよ。誰にでも1回限りの代物でね、生活リハビリ用の物だから、飲んで心が満たされている内に自力で生活する為の力を身に付けて貰う、そんなドリンクだったの」


メイ「え?そ、そうなんですか」


困った。

私はてっきり新しいのを貰えると思ってた。

「言いそびれてたんだけど」じゃ済まない。


「どうしてくれるんだ!」

この気持ちをもって私は更に彼女に食い下がっていた。


メイ「そんな困りますよ、いきなりそんな事言われたって私、あのドリンクのお陰でここまでやってこれて、漸く落ち着きを取り戻してきた所なんですから!それに佳苗さんが私にアレを飲ませたから、私は今こうなってるんじゃないんですか!?」


「悩み相談に乗ってくれるんなら最後まで責任をとって下さい」

そんな事を言いながらどんどん言葉と心に勢いを付けていく。


でも佳苗さんは…


佳苗「確かにあなたの言う通りです、ごめんなさい。ほんと中途半端な形になってしまって」


佳苗「でもメイさん。あのドリンクを飲んだ事でこれ迄のあなたの心は『どんな風にすれば自分が生活できるか?』『広い心を持つ為にはどんな事を思い実践すれば良いか』その辺りの事に自ずと気づいた筈です。いつまでも薬のような物に頼った生活と言うのは、誰にとっても勧められないものでしょう?」


メイ「そ、それは…」


佳苗「先の事は確かに謝ります。謝りますが、ぜひあなたには自分の力で生活を守っていける…いえ、自分の居場所を守っていける、その強さを心の中に芽生えさせてほしいのですよ」


そう言ってきて、

飽くまであのドリンク無しで自分の生活を守る事、

自分の居場所を確保しそれを土台に明るい将来に向かっていく事…


この事を何度も嗜めるように言ってきた。


ト書き〈Place of Transparency〉


そして、あのドリンク無しの生活が始まって数週間後。


メイ「や、やっぱりダメだわ…!私アレが無いともう…!」


変わらない両親の責め立てる声に堪え兼ねる私。

その度に心が傷つき、私の居場所が傷つき、

私はどんどん自分の存在価値を見失ってしまった。


そして結局また佳苗さんに電話をかけてしまい、

今度は何がどうでも助けて欲しい!助けて貰えるまで帰らない!

と言った姿勢で彼女のそばへ行ったのだ。


(公園で)


佳苗「メイさん、どうしても自力で今のハードルを乗り越える事は出来ないのですか?」


メイ「ダメなんですよぉ!アタシぃ!ああゆう心の補強材みたいな物が無いと、もう自分で生活する事が…あの家じゃアタシの居場所が無いんです!!…このままじゃアタシ…お父さんとお母さんをこの手で…」


そこまで言った時、佳苗さんはそれ迄の姿勢を180度変え、

全面的に私の味方をしてくれるようになっていた。


佳苗「そこまで追い込まれて、両親をその手に掛けるなど、あってはならない事ですね。…分かりました。そこまで言われるなら今のあなたを救って差し上げましょう」


そう言って彼女はまたバッグから

新しい瓶入りのドリンクを私に差し出し…


佳苗「これは『Place of Transparency』という医薬品で、前のドリンクのようにもう飲み続ける必要はありません。この1本限りで充分です。それにその効果は永久。もうあなたは今までのように、同じ事で悩まされ続ける事も無いでしょう」


メイ「え…?ほ、ほんとに…」


そして彼女は携帯を取り出し電話して

1人の女性を呼び、私達が今いるこの公園に来させた。

その女性を見て私は心底驚いた。


メイ「こ、この人って…あ、アタシにそっくり…」


いや、私そのものだったのだ。

私が分身したような女性がそこに居り、

彼女は私を見て微笑みながら…


コピーメイ「ウフフ、メイちゃん。どうか安心して。あなたの嫌な生活の部分は全部私が引き受けるから、あなたはこれから自由に暮らしていって良いのよ」


そう言って、その優雅な身のこなしで私を安心させた。


メイ「か、佳苗さん、これって…」


佳苗「メイさん。どうしますか?あなたの人生です。あなたが決めて下さい。今このドリンクを飲めば、ここに居るあなたの分身のメイさんがその後の生活を引き受け、家庭内でのあなたの悩みを全て消してくれるでしょう。信じる事が大切ですよ?あなたは自由になれます。悩みも何もない、自由な生活…」


そこまで聞いた時、

私の心はまた佳苗さんのオーラのようなものに包み込まれた。

そしてドリンクを手に取り一気に飲んだ。


ト書き〈自宅〉


房江「メイちゃ〜ん♪あら!まだお勉強中なの?ウフ♪ほんとやれば出来る子なのよね♪どう?お勉強はちょっと横に置いて、おやつでも食べない?母さんメイちゃんの為に蒸しパン作ってあげたから♪」


コピーメイ「うんお母さん♪」


あの日、私の前に現れたコピーのメイは、

それから私の生活を引き受け、

優秀な娘を見事に演じ続けてくれている。


義男「本当にメイは変わったなぁ♪学校の成績も良いようだし、このまま行けば一流大学も狙えるんじゃないか?」


お父さんもお母さんも大喜びだ。


そして私は、自分の部屋の天井辺りから

父さん、母さん、そして私の分身のメイの生活模様を

ずっと見下ろすように眺め続ける。


空気になったメイ「うふふ…よくやるわね、あのコピーのメイも。まぁ私の為に一生懸命やってくれてるんだから感謝しなきゃいけないか♪ウフフ…私は自由…もうなんにも私の生活を邪魔するものは無いわ…ウフフ」


ト書き〈自宅を外から見上げながら〉


佳苗「ふう、メイちゃん。結局、あなたは透明な空気になってしまった。そこが居心地良いんならそれでも良いけど」


佳苗「私はメイの『心の奥底に隠れた理想と夢』から生まれた生霊。その夢と欲望を叶える為だけに現れた。メイは初めからあの家庭での生活を諦め、自分のコピーであるあのメイに、全ての生活を明け渡すのをためらわなかった。まぁこれはあの親のせいでもあるわね」


佳苗「あのドリンク『Place of Transparency』はね、その人の理想を叶える上でコピー人間を作り出し、本人を空気中に気化させる上、その人生を明け渡すものだったのよ。それでも本人は空気となって生きているから、その居場所だけは守る事が出来る」


佳苗「これがメイにとって幸せだったかどうか、それは他人には多分解らない。本人がそれで幸せだと思えば幸せになるし、その思いのまま人生を終えればそれで良い。今のメイを見ればそう言える。出来れば自力で生活を変えて欲しかったけどね」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=Pm6Su2d6YDM&t=78s

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見えない理想 天川裕司 @tenkawayuji

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