架空の純愛

天川裕司

架空の純愛

タイトル:(仮)架空の純愛



▼登場人物

●国宇鹿 牟寿男(くにうか むすお):男性。37歳。独身サラリーマン。奥手。長年レミに憧れてきた。

●河合(かわい)レミ:女性。享年27歳。佳苗が霊として引き寄せこの世に存在していた形。アイドルの様に可愛らしい。もともと芸能関係の仕事をしていた。

●夢尾佳苗(ゆめお かなえ):女性。20代。牟寿男の本能と欲望から生まれた生霊。


▼場所設定

●街中:牟寿男の行きつけのビデオ屋や飲み屋街など含め一般的なイメージでOKです。

●Fictional World:お洒落なカクテルバー。牟寿男の通勤路にある。佳苗の行きつけ。本編では主に「カクテルバー」と記載。

●牟寿男の自宅:都内にある一般的なアパートのイメージでお願いします。


▼アイテム

●名刺:佳苗が牟寿男に差し出す自分の名刺。裏にレミの電話番号を記載した。


NAは国宇鹿 牟寿男でよろしくお願い致します。



イントロ〜


あなたには今、恋人は居ますか?

もし居ない人は、欲しいと思いますか?

まぁ男女ともに、自分を愛してくれる人、

自分が愛せる人を欲しがるのは当然のことかもしれません。

でも好きになったその相手にもし特殊な事情があったら…

今回は、禁断の愛に踏み切ってしまった

ある男性にまつわる不思議なお話。



メインシナリオ〜


ト書き〈ビデオ屋〉


牟寿男「はぁ…イイなぁ、レミちゃん。こんな子が俺の彼女になってくれたらなぁ」


俺の名前は国宇鹿 牟寿男。

今年37歳になる独身サラリーマン。


俺は生まれてこのかたまともに恋愛した事がなく、

今でも彼女はおらず、結婚なんて夢のまた夢…

そんな状態になりかけていた。


俺はもともと器量が悪く、性格も奥手で、

女性との接点なんてほぼ皆無でやってきたのだ。


だから今日もビデオ屋へ行き、ずっと前からファンだった

河合レミちゃんのビデオを借りて家に帰り、

それを見ながら1人自分を慰めている。


とは言っても俺は彼女を純粋に心から愛しており、

たとえ彼女じゃなくても、

彼女に似た人となら本気で恋愛してみたい…

そう思う心は誰にも負けなかった。


でもまぁこんなこと人には言えない事だから、

俺はいつも自分で自分を慰めるだけになる。

本当はこんな事も、もうしたくないのだ。


ト書き〈カクテルバー〉


会社帰りにそのビデオ屋へ寄り、いつもそんな繰り返しの日々。

でもやっぱりそうし続けている自分に虚しさを覚え、

俺はある日、久しぶりに飲みに行く事にした。


それまで通い続けていた飲屋街。

久しぶりに行ってみると何となく雰囲気が違っていた。


牟寿男「あれ?こんな店もあったんだ」


いろいろ新装開店している店の中に、

ちょっと目を引くカクテルバーが建っていた。

その店の名前は『Fictional World』。


普通のカクテルバーにしては結構珍しい名前で、

外観から店の中を見てみると結構落ち着いており、

俺は何となくそこが気にいって店内へ入り、

いつものようにカウンターにつき1人飲んでいた。


牟寿男「ふぅ。周りの奴らはみんな結婚していく。俺だけが残されていく。この状態、どうにかなんないかなぁ…。はぁ。ほんと、あんなレミちゃんみたいな人が俺の前に現れて、付き合う事ができたらなぁ…結婚前提で…」


いつものようにまた愚痴りながら飲んでいた時…


佳苗「こんばんは♪お1人ですか?もしよければご一緒しませんか?」


と1人の女性が声をかけてきた。

振り向いて見ると結構キレイな人。


彼女の名前は夢尾佳苗さんと言い、

都内でライフコーチや

メンタルヒーラーのような仕事をしていると言う。


牟寿男「へぇ、ヒーラーさんなんですね?」


佳苗「ええ♪今けっこう流行(はや)りのお仕事なんですよ」


そんな感じで談笑しながら彼女と一緒に座っていた時。

少し不思議な感じがしてきた。何か…


「昔どっかで会った事のある人?」


のようなイメージがまず漂ってきて、それが理由で心が和むのか。

次に自分の事を無性(むしょう)に彼女に打ち明けたくなる。


それにこんなに綺麗な人なのに、恋愛感情が全く湧いてこない。

ただ心の拠り所として彼女が居てくれたらそれで良く、

俺はその後もずっとこうして彼女と会う事ができたら…

そんな事をひっそり思っていた。


そして話は次第に悩み相談のような形になっていったのだ。


佳苗「ご結婚…ですか?」


牟寿男「ええ。…いやお恥ずかしい話、僕はこれまで1度もまともに女と付き合った事がなくて、周りはみんな結婚していくのに僕だけが取り残されて、いっつも自分で自分を慰める毎日なんです。…あはwすいません!こんな事あなたに話すような事じゃないですよね」


でも彼女は真剣に聞いてくれた上、アドバイスまでしてくれ、

そんな俺を本気で助けようとしてくれたのだ。


佳苗「今のこの時代、実はあなたのようにそんな事で悩まれている方は本当に多いんですよ?結婚したくてもできない、条件が合わない、出会うタイミングが全くない…他にもいろいろ理由はありますが、どうしても理想の人と出会う事ができずそのまま婚期を逃してしまい、結局、独身生活でその生涯を終えてゆく。これも現代人の多くが抱える心の悩み・人生の悩みになってるんじゃないでしょうかね」


牟寿男「はぁ…」(何となく聞いてる)


佳苗「良いでしょう。ここでこうしてお会いできたのも何かのご縁です。私が少しお力になり、あなたをその悩みから救って差し上げましょうか?」


牟寿男「え?」


そう言って彼女は持っていたバッグから自分の名刺を取り出し、

その裏に電話番号のようなものを書いて俺に差し出してきた。


牟寿男「な、何ですかこれ?」


佳苗「もしよければその番号に電話してみて下さい。それであなたの人生は大きく変わる事になるでしょう。つまり夢が叶うと言う事です。これまでまともに恋愛できなかった自分、今も今後も結婚できないかも知れない自分、そんな自分の悩みをきっと、全て変えてくれるきっかけになることでしょう」


牟寿男「…は?」


いきなりそんな事を言われても当然信じられない。

でも彼女はそんな俺に向かい…


佳苗「フフ、牟寿男さん。何か新しい事を始める時には、今の自分と、その将来の幸せを信じる事が必要です。自分は絶対幸せになれる、そう信じきる心は時に何よりも強く、本当にその後の人生を変えてくれる大きな土台になるものです。新しい一歩を踏み出したいなら、どうか今、あなたの内側に眠っているその力と、その力によって開拓できる未来の幸せを信じて下さい」


やはり彼女は不思議なオーラを持っている。

普通なら絶対信じないような事でも、

彼女に言われると信じてしまう。


俺はその場で名刺を貰い、裏に書かれたその番号に電話してみた。


すると…


レミ「こんにちは♪電話してくれてどうも有難う。レミとっても嬉しいわ♪」


牟寿男「え…?えぇ!?いや、あの、もしかしてキミ…」


驚いた。

電話の向こうから聞こえたその声は、

普段からずっと聞き慣れていたその声。


そう、俺がずっとこれまで憧れ続けてきた

あの河合レミの声そのものなのだ。


「嘘だろう…」と思いつつ

横で聞いていた佳苗さんのほうを振り向いてみると、

彼女はうっすら微笑みながら、

「どう?これで分かったでしょ?」

みたいな顔してこちらを見ている。


レミ「今度ぜひそのカクテルバーで、佳苗さんも一緒にお会いしましょうね♪」


電話の相手は紛れもなく河合レミ本人だった。

そして彼女はまた後日、佳苗さん込みで

このカクテルバーで会おう…と言ってきたのだ。


とりあえず電話を切った俺はまた佳苗さんのほうを見…


牟寿男「こ、これ一体どういう事…?」


と聞いてみた。

すると彼女は…


佳苗「今あった出来事の通りです。そうですねぇ、3日後の土曜日なんかどうでしょう?3人でここで又、お会いしませんか?あなたの憧れの人、レミさんもここへ来られますから」


と言ってきて、俺達は本当にそれから3日後。

このバーで会う事になったのだ。


ト書き〈3日後:カクテルバー〉


そしてその3日後の約束の日。

俺は会社帰りに又すぐこのカクテルバーへ立ち寄っていた。


レミ「こんばんは♪こうしてお会いするのは初めてですよね?これからもどうぞよろしく♪」


牟寿男「こ、こちらこそ!どうぞよろしく!」


本当に驚きの連続。

あの憧れの河合レミが今俺の目の前に座って居る。


ビデオでずっと見てきた通り、

彼女はとても美しく可愛らしく、上品で、

その朗らかさは俺の全てを包み込むほど。


佳苗「フフ♪いかがですか?私もあなたに彼女をご紹介できて本当に嬉しいですよ」


牟寿男「は、はい!ぼ、僕もとっても…」


それから3人で談笑し、俺達は良いムードになっていた。


でもそれから佳苗さんはトイレに行くと言って席を立ち、

そのとき目配せするように俺に合図して、

佳苗さんは俺を連れて、レミさんから少し離れた場所へ行った。


(トイレ前:カウンターから死角になる場所)


佳苗「牟寿男さん。彼女をご紹介させて頂いた上で、1つだけお願いがあるのです」


佳苗さんはそこでいきなり俺にそう言ってきて、

確認するように、1つ約束してほしい事があると言った。


それを聞いて俺は無性に残念がった。


牟寿男「え…?ど、どういう事ですかそれ…。彼女とまともに付き合っちゃいけない…って、そう言う事なんですか!?」


佳苗「フフ、まともに付き合うなと言うより、一線を越えないで付き合って欲しい、と言う事です。『一線』って分かりますよね?そう、男女関係を持つ事です」


佳苗さんはこんな形でレミちゃんを俺に紹介しといて、

そんな事を言い、あらかじめ線引きする形で

俺達が普通に恋愛していく事を引き止めたのだ。


牟寿男「な、なんで又…そんな事を…」


佳苗「良いですか?彼女には実は、まだあなたが知らない隠された秘密があるのです。その秘密を知ればあなたはきっともっと悲しみ、今の自分の人生を失うくらい、彼女のあとを追って行こうとするでしょう」


佳苗「今はこう言ってもあなたにはまだよく分からないかもしれませんが、その内きっとあなたにも分かるようになります。彼女と普通に接していくだけで。ですから彼女とはこうして街中で友達として会うか、ビデオ電話や普通の電話で会話する程度に留めておいて欲しいのです」


余りに一方的にそんな事を言われたのもあり、

当然、俺の心は反発していた。


「今になって何を言い出すんだこの人は!?」

そんな怒りのような気持ちと共に

どうしても今彼女が言っている事を軽く受け止め、

「そんなこと絶対に嫌だ!」

と言う気持ちのほうが勝ってしまう。


でもやっぱりここでも佳苗さんは不思議な人で、

彼女にそう言われている内

俺の心はとりあえず素直に聞き従ってしまい、

「…わかりました、そうします」

と一応の形で頷いていた。


ト書き〈数日後〉


それから数日後。


俺とレミはとりあえず佳苗さんに言われた通り、

ビデオ電話や普通の電話で連絡し合い、

街中で会う時も一線を越えないよう心を引き止め、

何とか純愛の形でプラトニックな恋愛を続けていた。


でも、そんなある日の夜。


レミ「…このままこうしてあなたと会っていても、きっと私、あなたの心をもっと傷つける事になっちゃうのかも…」


俺はその日…


「どうしても君と普通に恋愛したい」

「俺の奥さんになってほしい」

「佳苗さんから聞いた君のその秘密を、どうか俺にも教えて欲しい。その上で君と二人三脚の形で人生を歩んでいきたい」


そんな事を彼女にポロッと話してしまっており、

初めははぐらかすように別の会話で彼女も笑っていたが、

そのうち俺がその事ばかり言うようになったので

もうはぐらかすのをやめ、

彼女も真剣にその事について話してきたのだ。


そして彼女は、

「自分とまともに付き合うようになれば、きっと俺の事をもっと傷つける事になってしまう」

とそう言った。


牟寿男「なんでだよ?…なんでそんな事…。君のその秘密って一体、本当に何なんだ?人には誰だって秘密の1つや2つぐらいあるよ!俺にだってまだ君に言ってない秘密だってあるんだから!」


実は彼女はもうとっくにメディア業界から身を引いており、

新しくビデオを撮る事もなく、

いわゆるアイドル界・特定のファンだけが知る芸能界からも

ずっと引退したまま表舞台には出てこなかった。


つまり一般人に戻ったから彼女はこうして一般人の俺と会い、

普通に恋愛する事もできるようになった…

俺は勝手にそこまでを心密かに思っていたのだ。


彼女がその業界から引退したのはもう数年前の事。

確かに引退してからこれまで、

彼女がどこでどう過ごしてきたのか俺は知らなかったが、

でもこうして元気な彼女と会えた事で

それまで彼女も自分なりに生活を守ってきたんだろう…

そう思い、俺は彼女との出会いを本当に心から喜んでいたのだ。


まるで夢のような出会い…

この出会いを無に帰(き)したくない。

そんな強情な気迫も確かにありながら。


そんな思いをずっと訴え続ける内に

彼女も漸く心を開いてくれたのか。


レミ「…私も、あなたとずっと一緒に居たいわ。…でもあなた本当に、私の世界でずっと一緒に住んでくれるの?本当にそうしてくれるって信じて良いの?」


彼女は俺に確認するようにそう聞いてきて、

俺と一緒になる事に何となく賛同してくれたようなのだ。


「私の世界」というのが良く解らなかったが、

きっとこれまで特殊な業界で住んできた彼女の事だから

その辺りの習慣が出て今俺にこう言ってくれてる…

そう思い、

「当たり前だよ。俺はいつどこでも君と一緒に居たいんだから」

と応えていた。


そしてその夜、

俺達はずっとこれまで続けてきたそのビデオ電話をやめ、

街中でも友達としてだけ会う事も一切やめて、

2人手に手を取ってホテルへ駆け込み、

そこで愛し合う男女として当たり前の営みをした訳である。


佳苗さんの言っていた「一線を越える事」。

俺とレミは間違いなくそれをした。


でもこれは当たり前の事で、

愛し合う男女がした事なら誰に責められる事も

咎められる事もない。


(ホテル)


牟寿男「レミ、俺達ずっと一緒だよ」


レミ「嬉しい…」


ト書き〈牟寿男のアパートの部屋からオチへ〉


そしてとりあえず俺達は一旦その夜別れ、互いの家に戻った。


レミはとりあえずこれからそれなりの準備をして、

俺のこの部屋で一緒に住む事になるのだろう。


もう万々歳で、

俺は夢の世界に漂っているかのように浮かれていた。

とにかく嬉しかったのだ。


でもそうして部屋のベッドで1人、寝転んでいる時だった。


ハッと気づくと、俺の枕元に佳苗さんが立っている。


牟寿男「うおわ!?」


俺はびっくりして跳ね起き、部屋のドアと窓を確認した後、

その佳苗さんの姿をマジマジと睨むようにして見た。


ドアも窓も閉まっている。

開いた音も聞こえなかった。

なのになぜこの人がここに居るのか?

どうやって入ったのか?


追いつくようにそんな事を考えながら

今目の前にあるこの現実を見て

俺の心は膨大な恐怖に囚われ始めた。


牟寿男「あ…あんた、一体、な、何者なんだ…」(遮るように佳苗が喋り出す)


佳苗「牟寿男さん。あなた、私との約束を破りましたね?あれだけ言っておいたのに。レミさんとは一線を越えず、純愛を貫く形で、その後も一緒に居る事だけに幸せを求めるようにと」


佳苗「残念ですが、あなたはもうこれまでの生活に帰る事は出来ません。それなりの責任を取って頂きます」


そう言って佳苗がパチンと指を鳴らした瞬間、

俺の意識は飛んでしまった。


ト書き〈ビデオ屋にレミと牟寿男のビデオが隣同士で並んでいる〉


それから後日。

俺はこの現実から姿を消して、

どうやらビデオの中にだけ住む住人となっていたらしい。


レミがこれまで出してきたようなスナップビデオと同じく、

俺も自分のスナップビデオを出していた。

レミのビデオのその横に俺のビデオも並んでいる状態。


そしてそのビデオの世界から、

俺は再び出る事がなかったのである。


ト書き〈ビデオ屋でその2人のビデオを眺めながら〉


佳苗「レミはね、実は数年前に自らこの世を去っていたのよ。理由はまぁいろいろあったみたいだけど、何かの不祥事であの業界を去らなきゃならなくなった事、これが大きな原因になっていたようね」


佳苗「牟寿男は彼女のそんな隠れた事情を全く知らなかった。もう少し調べてみるべきだったわね、彼女の事。レミが言ってた『私の世界』と言うのは文字通り、ビデオの中の世界の事。レミは今、それまでファンだった皆のメモリアルとしてあのビデオの中だけで生きている。そんな彼女と永遠の愛を誓い、一緒になると言う事は、彼女と同じようにして、そのビデオの中にだけ住む住人となる事…」


佳苗「私は、牟寿男の本能と欲望から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れた。本当なら現実で幸せを手にして欲しかったけど、やっぱり無理だったわね」


佳苗「まぁこんな形でも『彼女と一緒になりたい』と言う夢が叶ったんだから、牟寿男にとっちゃ幸せには違いないかな」


(牟寿男のビデオを手に取るがまた棚に置く客。そしてレミのビデオのほうを借りて行く客の姿を見ながら)


佳苗「…でもレミはまだファンからの需要があってそのビデオの世界の中で生きていけるけど、牟寿男はどうかしらね?もし全く需要がなくて廃棄処分にでもされちゃったら、牟寿男はもうそのビデオの世界にすら居る事ができず、永遠に闇の中へ葬られてしまう。あとはそうならないように祈らなきゃね…」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=uHdygY4NXfM&t=166s

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架空の純愛 天川裕司 @tenkawayuji

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