rab_0529

@rabbit090

第1話

 やっべぇ、まじやっべぇ。

 焦り過ぎたのか、体中からひんやりとした感触があらわれる。

 ちょっと、落ち着こう。

 「ごめん、いい。あのさ、俺、退学になるって、誰から聞いたの。」

 「…いや先生がお前がもう学校に来ないって言ってて、違うの?俺ら知らないけど、あれだろ?あいつのせいだろ?」

 「多分…。」

 「まあ、うん大丈夫じゃないか?あいつのせいだって、証明できれば…。」

 友達は、言葉を濁す。仕方ない、分かってる。

 「まあ、できれば、だよな。」

 そう言って、俺は職員室へ向かった。あそこには一人、話しが通じる奴がいる。

 きっとそいつが、庇ってくれる。

 はずだったのに、

 「悪いな、今回ばかりは無理そうだ。私もお前は悪くないって知ってるんだけど、手に負えないんだ。脱法っていうか、ああいう奴のことはどうすればいいのか、誰も分からん。」

 「…そうですか。」

 高校一年の時の担任を務めていた教師に、なんとか手を打ってもらおうとしたけれど、ダメか、やっぱり。

 だって、正当になれば、俺はあいつを傷付けた張本人、ということになる。だがあんな奴に話が通じるとは思えない。だが、だが。

 ずる賢い奴とはいるものだ。

 あいつは、俺のことが好きらしい。しかし俺はあいつのことが嫌いだった。だから、振ったんだ。

 そしたら、ありもしないこと(俺があいつの下着を盗んだとか。あいつに暴言を吐いたとか、でっちあげばかり。)を、言い続けて今に至る。

 見た目が、悪いんだと思う、あと行いも。俺はどっちかって言うと不良だけど、あいつは、とにかく小さくて可愛らしく、優等生だから。

 だから、嫌いなんだ。

 そういうタイプの女は、やっかいだから。

 

 「ねえ、いい加減謝ったら、だったら許してあげる。」

 「俺が、お前に許されなきゃならないことなんて、ないっつうの。」

 「はあ、分かってないわね。あたしは、あんたの生殺与奪権を、握っているようなもの、どうとでもできるんだってば。」

 「お前こそ、分かってねぇよ。お前は、俺の何もかもを、絶対、関与できない。」

 「………。」

 じっと見つめられると、背筋がゾクりとする。次は何を、何を企んでいるのだろうか。

 「もう、いい。学校なんて、辞める。」

 あいつは、絶対そんなことになんかならないって顔で、笑っていた。

 悲しい、と思った。

 そこにしか居場所がない、そんなことはあり得ない。逃げればいい、生きたいところに、行けばいい。

 だってどこへ行っても、俺はさ、一人なんだから。

 

 「ただいま。」

 「………。」

 誰も何も答えない、高校生だけど、家族はいない。

 家族、と呼べる人間は、いるにはいるけれど、もうずいぶん前に彼らは家族ではない、ということに気付いてしまった。若気の至りで飽き性の人間が犬を飼ったとして、きっとその内、顔を見るのさえ嫌になるはずだ。

 だから自然に、関わらなくなる。それが、今の俺だった。

 絶望、は通り越したように思う。

 俺はただ、息をすることしかできないのだから。

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