トップレベルな初級者

少年

第1話 終わりと始まり

科学技術が発展し、ありとあらゆるものが自動化された時代。


スポーツや学校教育、仕事効率までもが技術的にも進化している。


そんな世の中で今、世界中で流行しているものがある。


それはフルダイブ型VRMMORPG、【ライフ】というVRゲームが世界的人気を博している。


年齢層関係なく、【ライフ】は現実のように身体を操作できる技術だけではなく、RPGとしても評価が高くプレイヤーの能力値やスキルといった力をレベルアップさせることで、現実以上に楽しめて動けるといった、第二の人生とも呼ばれるほどの完成度だ。


ゲーム空間で毎日過ごす者や、交流を図ったり教育実習の一環としても使用される【ライフ】。

そのゲーム性はRPG要素だけにはとらわれない。


【ライフ】というゲームは既に、生活の一部として取り入れ始められている。


ゲームには勿論NPCやモンスター、そしてモンスターを狩るプレイヤーが存在する。


プレイヤーはステータスと呼ばれる能力値を上げながら、強くなるモンスターを倒して経験値を奪い、レベルアップする。


プレイヤーが強くなるのと対比し、モンスターはゲームマップのエリアごとに強くなっていく。


【ライフ】は定期的にアップデートが行われ、RPG要素を楽しむプレイヤーや仮想空間で生活するプレイヤーを飽きさせないように、新しい要素を追加したり“迷宮“を追加したりと、マップのエリアがどんどん解放されていく。


最前線で戦うプレイヤーたちも、未だコンテンツを遊び尽くしているとは言えない。


そんなゲーム、【ライフ】がリリースされてから早二年。


トッププレイヤーと呼ばれているプレイヤーがいた。


そのプレイヤーの情報は他プレイヤーと比べると出回っている情報はごくわずか。

謎多きプレイヤーだが、そのプレイヤーは同じプレイヤーとはパーティを組まず、NPCとパーティを組んで戦う、変わったプレイヤーだった。


誰一人顔を見たことがないと噂のプレイヤーがある日突然、消えた。


その出来事はニュースになるほどで、数多くの憶測がSNS上で飛び交った。


しかし、誰も彼を知る者などおらず、その実態は不明のまま。


ただ一人、その原因を知る者がいた。


その者の本名は多田遊戯ただゆうぎ


【ライフ】において最も謎が多いとされているトッププレイヤーのその人だ。







ずぼらな格好で買い物に出かけていた遊戯は食料品の調達を済ませ、帰り道を歩いていた。


「にしても今日は暑いなぁ......」


季節は夏。

多くの女性の天敵、紫外線が酷く太陽から浴びせられる。


食材も暑さで悪くなる前にと自宅へ急いで帰る遊戯。


「早く家に帰って涼しい風に当たりながら【ライフ】をプレイしよう」


強い日差しに当たりながらも無事自分の家であるマンションへ帰還した遊戯は食材を冷蔵庫にしまい、早速自室へ向かう。


部屋には大人一人がすっぽりはまるような大きなカプセルマシンやベッド、パソコンなどが配置されている。


その大きなカプセルマシンこそ、フルダイブ技術が備わった専用機だ。


「腹ごしらえする前に一度ログインしよ」


やり残していた作業があったな、とカプセルマシンの中へ入る。


専用のヘッドギアを装着し、カプセルマシンを閉じるとマシンが起動する。


内部のファンが回る音と共にヘッドギアから伝わる信号が意識を現実から仮想現実へと切り替えられる。


瞑っていた目を開けると、仮想空間を思わせる光景が広がり、ゲームが正常に起動したことがわかる。


カプセルマシンに内蔵されたランチャー画面のウィンドウが表示され、【ライフ】を選択する。


いつものように自分のキャラクターを選択してゲームを始めようとゲームウィンドウが立ち上がった時だった。


「......あれ?」


バグかな、と一度ゲーム画面を再起動させ開き直しても見た光景は何も変わらなかった。


「......なぜ?」


開いた口が閉じないとはこのことか。


何度見ようとも自分のキャラクターのセーブデータが表示されていない。


「流石にバグ、だよな?メンテナンスとかそういうやつかもな」


一度カプセルマシンを出て、腹ごしらえを一度済ませることにした遊戯は食事中にSNSで同じ現象のプレイヤーがいないか調べたが事例が見つからなかった。


そして再び【ライフ】にログインしようと、カプセルマシンに入り確認した。


だがしかし、そこにはやっぱり何もなかった。


「嘘、だろ?」


終了のお知らせとはこのことか。


リリース当初から地道に積み上げてきたセーブデータが、半日にしてその生を全うした。


「そんなのあんまりだ!」


運営に問い合わせようと問い合わせページへメッセージを送った。


「返信が帰ってくるまでしばらく待つか」


カプセルマシンの機能の一つとして、動画配信サイトなどのサービスが備わっており、暇つぶしとして動画を鑑賞した。


それから二時間は掛かっただろうか。

遂に運営から返信のメールが届く。


「なあ?そんなわけあるかよ......」


メールに記載されていた内容は、正常な状態でアカウントの初期化が行われたとのこと。

不正アクセスやバグなどのデバックログは発見されていないという。


納得がいかない遊戯は何度も運営に問い合わせるが結果は変わらず。


自分から初期化をした事実は一切なく、何らかの目的で高度なハッキング技術でアカウントを乗っ取り、アカウントを初期化したと考えられる。

それしか考えられないと思った遊戯はこれからどうしようかと葛藤する。


【ライフ】は既存アカウントをひとつまでしか持つことができない。

その為、サブアカウントを使ってプレイするというのができなかった。


また、既存アカウントを初期化し新たなスタートを切ることができるのだが、二年間とい年月を費やしたゲームをまた1からやるというのも、まだモチベーションが上がらない。


どうしたものかと考えていると、ある人物からの電話がかかる。


「もしもし?」


「よ、久しぶりだな。浅田だ」


「浅田か。どうした?」


「どうしたもクソもあるか!さっきフレンド欄見てたらお前の名前消えてやんの!俺のフレンド消しやがったろ、この裏切り者め!」


浅田翔平あさだしょうへい

高校の時の同級生で、今も繋がりがある数少ない友人の一人。


浅田も【ライフ】をプレイするプレイヤーの一人で、遊戯のキャラクターを知る限られた一人。


「それが、俺のアカウントハッキングされたみたいでさ。そのせいで初期化されたみたいだ」


「初期化されたみたいだってお前...。じゃあ、今までのセーブデータが消えたってことかよ!?」


「そうなるな」


「...悪かったないきなり。状況も知らないで言いたいこと言って」


「気にしてないから安心しろ。ただ、これからどうすっかなって悩んでたところだよ」


申し訳なさそうな声が電話越しでも聞こえ、気にしてない様子を伝えるがしばらく沈黙が続く。


「......もちろん、やるよな?」


「え?」


「【ライフ】やるよな、って。お前のプレイスキルは正直、他のトッププレイヤーよりも遙かに上だ。そんな才能をこれっきりで終わらせるなんてもったいねぇよ!」


怒鳴るようにも聞こえるその荒げた声は、本気でそう思っているということであり、やめないでほしいという欲望が混じり合っていた。


遊戯は少し、考える様子を見せ言葉を紡ぐ。


「やめようだなんてこれっぽっちも思っちゃいないよ。ただ、少し時間が欲しいだけだ」


その言葉には紛れもない本心が込められており、しばらく落ち着く期間が欲しいだけ。


「俺はいつまでも待ってるからな。何なら、パワレベでもやるか?」


「それじゃあ面白くないだろ?俺らが次会うときは、俺がお前よりも強くなってからだ」


「言ったからな?もし会った時、ワンパンで死ぬような雑魚だったらお前との仲も絶交だからな!」


「望むところだ!」


二人の再会の誓いの契りが交わされ、電話は終わりを迎える。


さっきまで葛藤していたのが噓のようだ。


トッププレイヤーに近い浅田の実力は1から始めるとしてもその差は歴然だろう。

数か月で実力が追いつくとも限らない。


だが、やってやると心に誓う。

いずれトッププレイヤーとして返り咲いてやると息巻いた遊戯は、早速カプセルマシンを出てブラウザで攻略サイトや持てる知識を使って計画を立て始める。


確実にトッププレイヤーの座を奪い返す為に―――。





そしてそれから数週間後。


攻略知識と計画を頭にインプットし、元トッププレイヤーが再び【ライフ】へログインをする。


それは1から頂点までの挑戦。

果てしない時間を費やしても尚たどり着けぬ頂へ、再び返り咲くために。


「始めるか」


カプセルマシンはファンの高速回転と共に起動されていく。

第二の人生と呼ばれる、最高峰のVRMMORPGの世界へと舞い戻る―――。

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