コスプレした私は最推しの女帝ミアに成り代わっちゃった

ハチニク

プロローグ

 今や国際的な人気を誇る日本のアニメ文化。


 アニメやマンガの経済効果はここ五年で約八兆円に上り、日本経済の中心とされた。


 政府は更なる国内の学力向上の促進を目指し、驚くべき教育方法を編み出した。



それは……アニメを教育に導入することだった。




 具体的に説明すると、


人気アニメ作者、数十人とアニメ制作会社、数社が教科書の代わりとなり、全ての科目をアニメ化した。


 中でも人気な「歴史」科目は、歴史的な出来事や歴史上の人物をアニメ化させ、頭に入りやすくさせる工夫をした。


 織田信長をイケメンにさせたり、豊臣秀吉をシックでダンディーな男に仕立て上げたりした。





 これこそが『アニメドュケーション』、通称「アニメドュ」


 斬新で画期的な《アニメ教育方法》なのである。




 結果として、


 「アニメドュ」は異様なまでに学力向上に貢献し、世界最高水準の教育として日本は世界中から一目置かれるほどに、教育のトップに君臨した。


 ただ、この教育方法は予想だにしない方法で日本政府は一挙両得することとなる。




 《歴史上の人物の推し活である。》





 空前絶後の歴史的人物の推し活が大流行を見せ、今ではそういった人物像のコスプレも珍しいことではない。



 世の中は全て、アニメ、アニメ、アニメが中心の時代となった。



◇ ◇ ◇



 私、片岡美亜カタオカミアも現在進行形でその時代を生きている一人。



 中学生の頃、私はごく普通のアニメオタクだった。

髪を三つ編みにしていた。

目が小さくなるほどに度の強いメガネをつけていた。

いわば完全無欠の陰キャオタク。



 中学三年生の時に初めて導入された「アニメドュ」はとにかく衝撃的だった。


 

 ただただ教科書を映像化させたアニメではなかった。

話が面白くて、これが全て実際の出来事だなんて信じられなかった。



 賢くなったのは確かで、そのまま史学を学ぶために都内の国立大学に進学。

年を取るたびに、どっぷりとアニメ教育の虜になっていった。


 大学一年生になった私は、本格的に歴史の研究をしてる。

光栄なことに歴史アニメオタクの自称、最高峰と成り上がった。

(うれぴっ)





 世間的に「アニメドュ」で人気を博した歴史的人物。

織田信長、アーサー王物語のアーサー王、ジャンヌ・ダルクといった所だろうか。


織田信長は、ちょんまげを結っている訳ではなく、アニメ化された際にサラサラロングヘアーで登場した。

ある意味、人気が出たのだと。


私は到底、理解できないが……


 


ただ、別格の人気を博す歴史的人物がいた。




《女帝ミア》




 中世後期ヨーロッパ諸国の圧倒的支配者だった彼女。

世界で最も美しくて、気品高かった。


 綺麗な顔立ち。

キリッとした引き込まれる目。

金色に輝く髪。

濃紺色と金色の鎧を着ても分かる圧倒的なスタイル美。


 〔デルツ帝国〕の君主でありながら、当時では最大の軍事力を兼ね備えていたデルツ軍の総督を務めた。


 クレオパトラ、楊貴妃、小野小町に並ぶ世界四大美女の一人でありながらも、常に鋭い目つきで舞うように敵をなぎ倒す姿に惚れないものはいなかった。





 初めて女帝美亜に出会ったのは、中学三年の冬。

歴史の授業で中世ヨーロッパの単元を勉強していた時のこと。

彼女は画面に突然姿を現した。


 彼女が初恋だった男子も少なくはなかったはず。

いや、女の私でも虜になってた。



 彼女の魅力はその見た目だけではない。


 《デルツ軍を率いるカリスマ性と天才的な頭脳》


 私はそれに一番惹かれた。




 そんな調子で私は、女帝ミアを五年も推していて、

今では大学で彼女の生きた証を研究している。


もちろん大学では、私と同族が存在した。

女帝ミアだけでなく、それぞれの歴史上の人物を推す変わり者。

私の通う史学科には歴史上の人物のリアコ勢は…………少なくなかった。



 大学の「アニメドュ」サークルに入部した私。


 都内で開催されているアニメドュのイベントに行ったり、

推しのコスプレをしたり、

普通のオタ活をしてた。



 そして、今日、人生初のコミケに来てる。

こう見えてもテンションはピークを達してる。


今までは陰キャでコミケに行く友達もいなかったけれどなんて行ったことがなかった。

ただ今年は違う。

サークル仲間と堂々と行けるコミケ、

テンションがピークに達するのも無理はない。


◇ ◇ ◇



 【コミケ】正式名、コミックマーケットは日本最大級の同人誌即売会。

同イベントも「アニメドュ」の影響を受け、

歴史的人物の二次創作が売られていたり、

コスプレをしている人が年々、増加している。


 その中でもやはりと言うべきか、女帝ミアの人気度は圧倒的であって彼女専用のエリアが会場の1割を占めていた。




 専用エリアについた美亜は一緒に来ていた三人のサークル仲間と、卓に並べられた女帝ミアの二次創作本がズラーっと並べられていたのを見て、


「天国だ……」と呟いた。



「えー、これ全部買いなんですけどっ!」



と冗談抜きで、置いてあったを買おうとしていた美亜。

が、コミケに売られる本は大体、千円以上とちょっぴりいい値段がする。


 大学生にとっては流石にそのような大人買いはできなかった。

一冊だけ買うことにした彼女は、結局、


女帝ミアと彼女の右腕と呼ばれるシド軍団長の『ラブラブ青春物語』を買うことにした。



「千二百円でーす!」


「はーい。」


 美亜は千円と500円玉硬貨を販売者さんに渡す。

そして、「あ、お釣りいらないです。」と相手にリスペクトを込めてそう言った。



「どんなとこでカッコつけてんのよ、あんた……」


美亜のサークル仲間は呆れて言った。


◇ ◇ ◇



——買い物を終えて、ついに私にとってのメインイベントが待ち構えていた。

いや、待ち構えてはいないけど。



そう、コスプレ。



そして、今日がなんと私にとってコスプレデビュー。


 ちゃんとそのデビュー記念を素晴らしいものにしたくて、

衣装やウィッグは全て自分で一から作った。



 コミケの五ヶ月前から準備を始めて……何度も挫折しかけたけど、今日やっと世の中に見せられる!


 とは言っても、なんだか緊張してきた……私のコスってもしかしたら全然クオリティー低いのかな?



 そう思いながらも、美亜はコミケの女子更衣室で黙々と着替えた。

もちろん、彼女は最推しの女帝ミアのコスプレをするが、なんだか自信を失ってきたようだった。



——めっちゃ緊張するぅぅ。

まあ、別に今日がコスプレデビューだからねっ……



「……どうかな?」


 更衣室を出た美亜は、コスプレに着替え終わったサークル仲間とコスプレエリア付近の待ち合わせ場所に集まって彼女らにそう言った。




「……え、やば」





「……んー、やっぱダメだよね。なんか私も着替えてる時に自信なくしちゃってさー」



「めっちゃいいんだけど……」


「だよね……次はもっと衣装作がんばるっ…………って、え?」






「めっちゃすごいんだけど! なんでこんなに、ミア様そっくりなの!」





「…………えええ!?」



 美亜は自分の才能に気づいていなかった。

彼女はアニメ版の女帝ミアに瓜二つのコスプレ衣装を作っていた。


 鎧の濃紺色と金色のバランスと材質。

細部まで再現されていた鎧と衣装はサークル仲間を仰天させた。

それに限らず、彼女のきめ細かいメイク技術、

まさに女帝ミアそのものだった。


「本当に?」


「うん! こんなすごいコス初めて見たよ!」



そんな会話をしていると、男性が遠くから美亜に駆け寄ってきて話しかけてきた。


「あのー、もしかして女帝ミアのコスですか? お写真撮らせていただきたいんですが、構いませんか?」



「え、え、え」


 戸惑った彼女だったが、サークル仲間たちから「撮ってもらいなよ」と言われ撮影を始めた。


 コスプレのクオリティーの高さを噂に聞きつけ、次から次へと撮影者が未亜のもとに駆けつけた。

結果、長蛇の列が彼女の撮影を待ち望んでいた。


 初めてのことだったため、

美亜はカメラマンを喜ばせるために、女帝ミアのクールビューティーさを色々な表情で表現した。




 八月の記・録・的・猛暑だったこの日。

レイヤーにとって邪悪な存在なのは、間違いないが、

今日が初コスだった美亜は、コスプレ撮影に休憩の概念があることを知らずにいた。

そして猛暑の中で、彼女は二時間ぶっ通しで撮影を続けた。


 それなのにも関わらず、列はとどまることを知らず、どんどん長くなっていった。


 美亜の邪魔をしてはいけないと思い、別の箇所でコスプレ撮影会をしていたサークル仲間たち。

二時間経って戻ってくると、美亜の顔の赤さに気づき撮影を一時中断させた。


「一旦、休憩入りまーす!」


 とサークル仲間が、カメラを手に持つカメラマンたちに向かって言う。美亜の腕を掴み、ペットボトルに入った冷たい水を彼女に渡してすぐさま室内に入ろうとした。



 しかし、事態は既に手遅れだった。



 美亜の意識は朦朧とし、フラつく彼女は貰ったペットボトルを上手く掴めずに、地面に落としてしまった。


(あれっ……)



そして、同じように、彼女も日で熱くなった地面に倒れ込んでしまった。


「バタっ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る