アールグレイの雨が降り、白い太陽が沈む日

カッコー

第1話

  【アールグレイの雨が降り、白い太陽が沈む日】



   『1』


古い橋は今はもうない。数年前に新しく架け替えられていた。その新しい橋はその川に架かる幾つかの橋の中にあってひと際綺麗に目立っていた。でもその佇まいは何処となくその川や周りの景色とはそぐわない様に見えた。そんな時ふと、以前あった古い橋のことを僕は思い出した。

記憶の中では曖昧なのだけれど、切石を組み合わせてできていたように思う。確かな事はやけに古びていて、欠けた部分があったり、割れ筋が入っていたりしていて、あちらこちらを雑草が繁り、時間の片隅に捨てられてしまったようで、何よりも大雨が降ってその川の水が増すと、まるで神隠しにあったみたいに忽然と姿を消してしまう事だった。その様子は不気味で怖かった。ある時その橋の岸辺で縄文式時代だか、弥生式時代の遺跡の跡が見つかって、発掘調査が行われていたりもした。しかしその場所は気づくと何時の間にか平地になっていた。きれいな水が流れ所々に深場をつくっていた。深場には小魚の群れの姿があった。川の淀みの辺りにはオランダガラシが群生していた。そして視線を少し上げると、何にも遮られない富士山が晴れていれば悠然と見えた。

近くのスーパーマーケットに行くときなどに気が向くと、僕は少し回り道をしてよくその橋を渡った。その辺りの川幅は比較的狭く、両側の岸の間は10メートル程で、岸は一年中深い草で覆われていた。夏は無数の葛の蔓が大きな葉を付けて辺り一面に延びていて、秋には数えきれない程の背高泡立草が燃えるような黄色い花の群れを風に揺らせていた。そんな密集した雑草の平原の中を行き場を探すように細い川が緩やかに流れていた。その30メートル程下流に、実はとても綺麗な広い橋がもう一つあった。誰もがその広い橋を利用した。そこら辺は川幅も広く、交通量が多かった。僕は時々その広い橋の欄干から小さな古い橋を見た。そこから見るとその橋は余計に古代の遺物のような感じがした。誰からも忘れ去られたもののように。

でも、その橋は、そこに無くてはならないような存在感みたいなものがあったのだ。少なくとも僕にはそう思えた。

僕は東京の大学を卒業すると直ぐに故郷に帰って来た。誰一人として家族のいない故郷であっても、故郷と言うものに、あるいは、かつて僕の父や母がそこにいたと言う事実に、僕は何か愁いのようなものを感じていたのかも知れない。ほんとうはもう一つ、僕を故郷に引き戻した理由があったのだ。たぶんそれが一番の理由なのかも知れない。

あれからもう随分長い時間が過ぎてしまった。僕は後数か月で40になろうとしていた。僕はその橋の近くに家を借りた。僕は故郷のこの地で就職し、何人かの女性と知り合い、恋のようなものをしたけれど、どれも長続きしなかった。彼女たちとの日々の時間は、いつも必ず僕を、追憶の中に誘っていった。そしてそれは何かしらのダメージを僕にもたらせた。どうしようもなく、避けがたいフェイトとしてのダメージ。

故郷へ帰って来てから僕は、取り壊されてしまったあの古い橋を思い出す度に、僕は大学生の頃に付き合っていた女の子のことを思い出さずにはいられなかった。思い出すたびに僕は、胸がいっぱいになった。

僕が東京のこじんまりとしたある町に住んでいた頃、僕はよくデートの時に彼女と待ち合わせた橋があった。その橋はそれ程古くはなかったけれど、汚れるままに町の片隅に追いやられて、いつか忘れ去られたような場所にあった。そのふたつの橋は何かしら記憶の中で重なり合っていた。

「いつものところで待ってる」

僕は授業が終わると急いで電車に乗って、その町のその橋まで行った。その橋は僕の済んでいる町の隣の町にあって、彼女の住んでいる町の隣の町でもあった。だからちょうど二人の住む町の中間と言う事になる。その橋は彼女が見つけて、そこで待ち合わせる事を彼女が決めた。たまに僕が時間に遅れたりすると、この前あなたが遅れた橋とか、女の子を一人で待たせた橋とかと言う言葉が、いつもの橋で待ってると言う言葉の代わりに必ず付け加えられた。そして、こんな処で女の子を待たせるなんて、と彼女は僕の目を覗き込むようにして言った。そんな幾つかの付け加えられた言葉が心の隙間に入って来て僕はとても好きだった。長い雨の降り続く日の午後に飲む温かなアール・グレーのように。でも、その時僕はその言葉の意味に、まだ気づかずにいた。

「私、この橋の佇み方がとても気に入ってるの。周りの風景から何となく取り残されてるみたいで」

彼女の瞳は何となく寂しげで、いつも何処か遠くにあるように感じていた。その橋の下を流れる川の水はとても少なくて汚れていて、川岸はコンクリートブロックで固められ、川底にはコンクリートが敷き詰められていた。所々に白いビニールの買い物袋や空き缶が思い出にもなれなかったように留まっていた。ゆっくりすぎる流れの水面にはいつもビルの影が映っていた。そこから視線を上げて行くと、大きなビルに窓ガラスが規則正しく縦3列、横5列に列んでいるのか見えていた。何の変哲もない15枚のガラス窓のあるごくありふれたホテルだった。入口の前には目隠し用に、コンクリートの壁が立っていた。名前は思い出せない。

「ただ何となくよ」

僕たちはたまに、何処にも行かずその橋の上で手摺りにつかまったりしながら薄暗くなるまで話をした。陽が西に傾いて、町並みの隙間から陽光が刺し込んで来ると、僕たちの影が延びて、ホテルの壁の窓の上に、僕たちは寄り添いながらへばり付いていた。僕はその光景を今でもはっきりと覚えている。きっと話す事がいっぱいあったのだ。あるいは何も話さずにただ黙って、橋の上で過ぎて行く時間を感じていたのかもしれない。何にしても、それは僕たちの時間だった。揺れる気持ちが時々触れ合って、僕たちをそこに足止めしたのだ。

護岸された川岸のコンクリートから突き出た、生活廃水を流すプラスチックのパイプの周りに、忙しそうに長い尾を上下させながら二羽の鶺鴒が歩き回っていた。殆ど垂直になっている壁面を、関心するくらい上手に動いていた。時々羽をばたつかせて跳びまわる度に鮮やかな白色の羽毛が見えた。僕たちはその二羽の鶺鴒の姿を本当によく見掛けた。でもその鶺鴒について彼女が何かを話したと言う記憶は僕にはない。忘れてしまったのかも知れないのだけれど。

「家には、余り帰りたくないのよ。」

その橋から僕たちは彼女の家のある町を回って、わざわざ一周するように僕の住んでいるアパートまで歩いた。歩くだけで3時間かかった。幾つかの商店街を通り過ぎたから、喉が渇いたり、お腹が空いたりした時は、気が向いた店に入った。彼女はよく食べた。そして必ずもうお腹いっぱいと言って、ふうっと息をついた。でも彼女がなかなか席を立とうとしなかったり、そこでそのまま話し込んでしまったりしたときはとても遅くなってしまって、帰りは電車に乗る事になったりした。そんな時僕は彼女を自宅まで送った。でも、その橋からぼくのアパートまでぐるっと一周歩いた時には、彼女は僕の部屋に泊まった。そんな時、彼女はいつも何処となく帰るのが嫌そうに、ゆっくりと布団から抜け出して、何かを決心するみたいに息をついて服を着た。それからちょっとの間壁だったり、天井だったり、ガス台だったりを見つめ、また小さく息をついた。

ある日そんな帰り道に、黙って横を歩く彼女に、何か困っている事があるんだろうかと聞いてみた。彼女は小さく頭を振った。肩の辺りまであるストレートの髪が揺れて、その頬に涙が溢れていた。僕は体を寄せてそっと彼女の手を握った。その手も涙で濡れていた。

「いいのよ私は。何も変わらないんだから」

小さな駅の改札口を通って狭い階段を上がると、プラットホームにはまだ沢山の人達がいて、何処かの店のショーウインドーの中に無造作に置かれたマネキンのように散らばりながら立っていた。僕たちはその間を縫って、最後尾の車両が止まる辺りまで歩いた。ブラットホームの屋根は途中で途切れていて、僕たちの触れている薄暗い闇が、ホームの端に作られた鉄柵の向こうに延びて行く線路と共に、何処までも深く沈みながら続いていた。振り向くと小さな町の灯が見えていたけれど、それは照明の中にぽっかりと浮かんでいるブラットホームの光景と不思議に重なり合った。

「ねえ、どうしても失いたく無いものが目の前で壊れて行くのよ」

彼女はずっと空を見上げていたけれど、夜の空の中に星は一つも見えなかった。しばらくしてその暗い闇の中に二つの僅かな光が急速に強く輝きながら近づいて来た。僕たちはブラットホームの黄色い線の引かれている所まで近づいて行った。僕たちの横を電車は通り過ぎて行き、ゆっくりとスピードを落として行った。僕たちは最後尾の車両のドアから電車に乗った。彼女は僕の方を向いて何か言いたげに、ちょっと微笑んだ。彼女のくちびるがゆっくりと小さく、ありがとうと動くのが解かった。僕たちはドアに凭れ掛かりながら、通り過ぎる夜の光の隙間を眺めた。ドアガラスの向こう側の夜の中に彼女が見えていた。その彼女は、今にもその闇の中に消えてしまいそうだった。思わず僕は手を伸ばして、彼女の体を引き寄せようとした。でも、どうしても僕の手は届かない。僕はそっと目の前の彼女の服の袖を掴んでみる。彼女がそこにいるのが感じられる。ドアガラスの向こう側の彼女の目が僕を捕らえる。僕は軽く笑ってみる。彼女はまた何?、とくちびるだけを動かす。僕は笑って頭を振る。電車が僕たちが待ち合わせる橋のある町の駅に止まる。でもこの線路からあの橋は昼間でも見る事はできない。あの15枚のガラス窓のホテルやら、周りの他の建物に遮られているからだ。いつものようにけたたましいベルが鳴り、決まったように誰かが走り込んで来て、ドアが閉まり、ガタゴトと電車が動き出す。相変わらずドアガラスの向こう側にも彼女はいて、彼女が話しかけてくれば、向こう側の彼女も話しかけて来るし、笑えば笑っている。光や影なんかが少し邪魔をして見えづらいのだけれど、でもそれはただのガラスに写った彼女なのだ。僕は彼女の手を取って反対側のドアの前に移った。暫くして電車は彼女の住む町の駅に着いた。僕たちは電車とホームとの間の隙間に気をつけて、軽く飛び越すようにして降りた。二人の息はぴったりと合っていた。降りた所のすぐ前に改札口があった。僕はふと振り向いて、まだ開いている電車のドアの中を見た。そこには暗い闇が明かりを押し潰すかのように広がっていて、何人もの人達が声を失ったように、幾重にも重なり合って立ちすくんでいた。誰もが同じように精気を失ったように佇み、顔は影の様に見えなかった。僕は彼女と手を繋いだ。

改札を出ると小さいけれど綺麗に整備されたターミナルがあった。この町の多くはある程度区画化された住宅街で占められていて、小さな商店はほとんど無くて、スーパーや総合マーケットみたいなものが大きなビルを構えていた。道路は真っ直ぐで広くて、街路樹のハナミズキはまだ小さくて添え木が当てられていた。花を付けるのはまだ二年か三年かかりそうだった。外灯が明るく照らすそんな道を10分程歩けばもう彼女の家に着いた。でも彼女の家は外灯の明るさの中で余りにひっそりとしていた。どの窓にも玄関にも明かりが無くて、まだ誰かが住む前の、新築されたばかりの家のように感じられた。それは今日だけでは無くて、僕は彼女の家の明かりがついているのをまだ見た事がなかった。彼女は無言のまま門の扉を開いて、音をさせないように閉めて、バッグからキーを取出して玄関を開けてするりと中へ入った。そういう彼女の姿は僕といる時の彼女とはそぐわない感じがした。本当にその家は彼女の帰るべき所ではないように思えた。いつも僕は門の外に立って、二階の左側のベランダのある部屋に明かりが灯るのを確かめてから帰った。

彼女と初めて話したのは、都内の大学に通っていた時の昼休みの学食だった。もう20年近く昔の事なのに記憶が色褪せる事は無くて、今もその時の匂いや重さが身体の中心に存在している。

その頃少し前に、僕は僕のたった一人の家族だった妹を失ってしまった。自殺だった。大学に休講届けを出して、僕は一ヶ月程学校を休んだ。故郷での一ヶ月は僕の全てを消し去って行った。体中の骨が砕け散り、感情は深淵の闇の中に飲み込まれて行くようだった。絶望すら感じなかった。ただ灰のような喪失感の中で、僕は衰弱していた。それでも僕は大学に戻った。僕は生活するためのお金や大学の学費などは充分にあったけれど、空いている時間にアルバイトをする事を考えていた。両親が残してくれたお金や、家を処分したお金を余り使いたくはなかった。そして何日が過ぎて、僕は遅い昼休みの学食のテーブルに座って休んだ間の講義内容の事をぼんやりと考えていた。ふと気が付くと、同じテーブルの端で女の子が一人でノートを広げて何かを書いているのに気が付いた。僕は何度か同じ講義でその女の子を見た事があった。もしかしたら手を伸ばせば届く所にいるその女の子に僕の中のある記憶の影が少しだけ触れたのかもしれない。真っ直ぐな髪が肩に落ちていた。黒過ぎないとても優しい色をした髪だった。講義内容を書いているように思えて僕は何気なく声をかけた。

「こんにちは」と僕は言った。

「突然で悪いんだけど、もしよかったらこの一ヶ月程の講義内容を知りたいんだ。教えて貰えないかな?」

「どうして私に?」

「別に変な意味で言ってるんじゃないんだ。けっこう同じ講義で君を見掛ける事があるから、それに…」

「それに、何?」

彼女はノートを閉じてボールペンの頭を親指でカチッと音をさせてノックしてからショルダーに仕舞い、そのショルダーをテーブルの上に置いた。

「今、ノート纏めてたみたいだから」

「ふーん」

彼女はそう言って、ちょっとの間冷めたような目で僕を見た。

「暫く姿見せなかったわよね」

僕は少し驚いた。彼女は僕の事を知っていたのだ。考えて見れば毎日幾つかの講義で一緒になる。顔ぐらい覚えていても不思議じゃない。でも僕が見る時の彼女はいつも別の方を見ていて、僕と目が合った事だって今までに一度もなかったはずだった。

「何驚いてるのよ。顔ぐらい解るわよ。講義一緒なんだから。あたり前でしょ。」

僕たちの出会いは僕にとってあたり前のような、あるいは空白の隙間の中で、僅かに時間が揺れたような出会いだった。その年の梅雨はあたり前のようによく雨が降った。彼女のノートは本当に上手く纏められていて、講義を聞くよりもずっと解りやすくて、ノートを写す作業はとても早く進んだ。彼女とは何かしらの講義で毎日一緒になったけれど、彼女はいつも誰かといて、まるで僕には気付かないようだった。僕は写し終わったノートを持って、毎日学食に行った。テーブルに座っていると突然彼女がやって来て、僕の前に座って昼食を食べながら、次の科目のノートをショルダーから取り出して僕に渡した。

「どう、進んでる?」

「どうもありがとう。とても順調だよ」

僕は写し終えたノートを彼女に返した。

「すごく解りやすいよ。でも、本当に何か迷惑かけてないかな?」

「迷惑?、別にしてないわよ。それにノート無いと困るんじゃないの?」

彼女はコップの水を少し飲んで、一息吐いてから席を立った。

「そんなに急がなくてもいいのよ」

そう言うと彼女はトレーを持って返却口の方へ行ってしまった。一週間に一度位彼女は学食に来て僕の前に座り昼食を食べて行った。「ごめん、今日はまだなんだ」

「だから急がなくたっていいって言ったでしょ。それにいちいち謝らないでよ」

その間もやっぱり彼女は教室で会ってもいつも誰かと一緒で、僕と目を合わす事はなかった。女の子と一緒にいる事か多かったけれど

、時々は男と一緒だった。学食で会った時に僕は御礼に外で何か食べないかと言ってみたけれど、彼女はまだいいわと言った。

僕は時々夕方からアルバイトをした。空いている時間には本を読んだり、音楽を聞いたりして過ごした。時々映画を見たり、公園のベンチに座って時間を遡った。

止む事の無い雨が、本格的な梅雨の来ている事を知らせていた。何時までも続く雨音が、僕の記憶の何処かにあるシシポスの石のような意識を揺らせて、僕を雨の中に誘い貫いた。そんな時僕は雨ガッパを着て、傘をさして、近くの公園まで歩いて行った。大きなスズカケの木は大きな掌のような葉を枝いっぱいに広げていたけれど、その幹はすっかり雨に濡れて、黒く滲むようにくすんでいた。鉄棒も滑り台もベンチも、まるで諦めたように濡れていた。砂場にできた水溜まりに、遠い日の打ち上げ花火のような波紋の輪が幾つも幾つも現れては消えて行った。過ぎ去った時間がその色を消してしまったようだった。僕の前を通り過ぎる人達はみんな傘を深く翳しているけれど、その傘を打つ雨は重く浸み、どの人の背中にも孤独の影が重ねられているようだった。何処かで妹の声か聞こえたようだったけれど、振り向いてもそこに妹の姿はなかった。

最後のノートを借りて写し終えてから僕は、何回か学食に行った。やっぱり一週間くらい過ぎてから彼女は現れた。ダークグレイのジーンズに白いVネックのピッタリとしたTシャツがとてもよく似合っていて、僕は彼女のその胸の膨らみを目の片すみに感じながら、彼女にノートを返した。

「たすかったよ、ありがとう」

彼女は何も言わずにちょっとだけ微笑んで、コックリと頷いた。僕は彼女の前のB定食のトレーの横にノートを置いた。

「ねえ、いつもB定食なんだ」

「真奈美って言うの」彼女は僕の言葉を聞き流すようにそう言った

「知ってるよ。ノートに書いてあった」

「あなたは、田村君」

「そうだよ」

「あなたのそのショルダーバックの後ろ。名前は匡」

「時々まさしって呼ばれなくて、間が空いちゃうんだよ」

彼女は美味しそうにトマトを食べながら、またちょっと微笑んだ。

「これヤサイサラダが多いのよ。だからいつもこれ食べるの」

「あのさ、ノートの御礼したいんだけど、今度何か食べに行かないかな、B定食じゃなくて」

「それって、デートの誘いなの?」

「まあ、そう思ってくれても構わない」

「いいわよ、田村匡君」

彼女はしっかりと僕の目を見てそう言った。ねえ田村君、その鞄、

随分使い込んでるのねと言って、鞄を見詰めながら少し笑った。それは妹がプレゼントしてくれた大切な鞄だった。僕は、うんとだけ答えた。僕たちはその週末の土曜日の午後に大学の傍の喫茶店で初めてのデートの約束をした。

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