二丁目スナックさいかわ さいかわママ編(後半) 著:犀川よう
はーいおまたせー。マティーニよ。ジンはビンテージもののタンカレーにしてみたわ。アンタは味がわかるみたいだから、いいもの使いたくなっちゃうわね。まずは一口どうぞ。
おいしい? そう。それはよかったわ。
でもね。これだって、作る前にアタシがアンタから好きなジンやベルモットを聞いたり、配合を確認すれば、アンタにとってもっと美味しいマティーニが飲めたわけよ。マティーニ一杯であっても、どこまで相手のオーダーにより添えて、それを自分流に表現できるかってのがミソなわけよ。――まあ、別にこのマティーニにみたいに、おいしく飲めればそれはそれでいいんでしょうけどね。
『オカマ、失敗しないので』
ギャハハハー! 知ってる? ねえ、何のドラマのセリフをパクってるか知ってる? だいもn――。
……あー。なんか真面目に話ばかっりしていたら、喉が乾いちゃったわよぉ。何か一杯飲んでもいいかしら? どうせまだ質問したいことがあるって顔してるし。……ありがと。じゃあアンタのおっ〇い飲み……ゴメンゴメン。アタシ、下ネタを言ってないと死んじゃうのよ。カルピスハイにするわ。あ、大丈夫。さすがにこれ以上は言わないわよ。
全体論はこれくらいでいいかしら? あんまりテーマテーマうるさいと混乱するだろうから、もうやめましょうかね。アンタはもう少しニンゲン磨いて、自分とまわりを見られるだけの余裕ができたら、もう一度チャレンジしてごらんなさいな。
で、次は何かしらね? え? あーなるほどね。「どうやって参加作品を読んでいるのか」ってことね。選考側としてってことかしらね。
じゃあ、逆に聞くけど、アンタは他人の作品を読むとき、どう読んでんのさ? 別に選者としてじゃなくていいわよ。普通の読者としてよ。え? 普通に最初から読んでいる? あーアンタっててさ。勉強とかも真正面からしか取り組めないから、教科書読んだり問題解こうとはするけど、結局最後まで続けられないタイプでしょ? なんでわかるのかって? そりゃあ、アンタより倍以上は生きてるんだからわかるわよ。しかもオカマだしね。
まあいいわ。他人の作品、それも選ばなくてはならないときの読み方ってのがあるの。それはね、「頭」で読むのと「心」で読むのを分けて読むの。
「頭」ってのはね。小説全体の流れとかさっきまで言ってたテーマの解釈とか全体の構成とかそういう「小説を作っている骨組み」だけを読むの。「心」で読むってのは逆に「頭」で読んでいたものは一切無視して、内容だけを感情で読むの。それもひたすら内容を肯定する側でね。話の世界に没頭するといってもいいのかしらね。
批評とか賞を決めている人のコメントやアンタの作品にコメントされたものを読んでごらんなさい。どちらで読んだことについて書いているかよくわかるわよ。というより、どちらもごっちゃにして読んでいるから、心で読むべきところを頭で読んで指摘したり、その反対だったりしていることが多いことがわかるわよ。まあ、「頭」で読むのと「心」で読むのの分離をしている人はまずいないし、そのバランスをとっている人なんてさらに少ないわね。アタシだって相当意識していても完璧に出来るわけじゃないわよ。
アンタたち小説家ってのは頭でっかちな人ばっかりだから、そもそも「心」で読むってのが苦手なのよね。だから、批評なんて書こうとすると、感情で受け止めるべき部分を理屈で追ったりして、バカみたいにつまらないコメントを書ちゃうのよね(笑)。
水無月賞でいえば、頭で読むことは、テーマの点以外はほとんどなかったわね。それだけ小説としての構造はしっかりしてたからね。だから「心」で読むことが多かったわ。そして、いい内容の小説が多かったわね。ぶりかえしちゃってゴメ~ンだけど、テーマのせいで選考としては難しくなってしまいそうだけどね。
アンタもまずは、「心」だけで読んでごらんなさいよ。小難しい理屈とか一切抜きにして、「わたしはあなたの作品の大ファンです!」って感情だけで読んでみるの。そうすれば、他の人の作品からいっぱい学ぶことができるわよ。アタシもそうやって他人の良いところをおいしくパクってんのよ(笑)。まるでオトコのアレはパ……あ、はいはい下ネタ禁止だったわね。下ネタNGなんて、アンタ、ほんっとにつまらない人生送ってるわねぇ~。
まあいいわ。そろそろ次、飲んじゃう? 何がいい? え? オススメは何かって? いいじゃない。アンタみたいな「自分は! 自分は!」しか言えないタイプには、相手にバトンを渡してみるのも余裕を作るためのテクニックのひとつになるわよ。……そうねえ。アタシ、店の外にあるガードレール、アレがささっている土の部分のところでミントを育てているの。こんな雨の日にはモヒートなんてどうかしら? キューバンラムもいいのがあるわよぉ~。 え? それがいい? りょうか~い。
じゃあ、こんな雨だけど、外に行ってミントを取ってくるから、
おわり
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