「おばちゃん飴ちゃんやるわ」 雨と花と猫と思い出と、/猫部部員 茶都 うなべさん

 久しぶりにU-18参加の方がいらっしゃいました。U-18参加者が6名以上にになりましたらU-18賞を創設したいと思いますので、以降もご参加をお待ちしております。


 さて、わたしのミスというか想定外なことがありまして、U-18ですと中学生か高校生かわからないことに気がつきました。どちらかによってお話することが大きく変わってしまいますので、今回は茶都さんにお尋ねさせていただきました。中学生ということだそうです。将来が期待されますね。


 感想ですが、よく全体を仕上げましたね。特に会話文のことろは魅力を感じました。小説という「話」を創りだすのはなかなか難しいことなのですが、キチンと二人を描いていて会話しているところは。頑張っているなと思いました。

 キャラの口調、特に私の菊矢に対する感じは特徴的で良いと思います。会話の口調は二人の関係性を示すのに重要な部分です。小説を書くという単純なひとことの中には、複数の創作プロセスがあり、さらには地の文や会話文、時勢や比喩など、話全体に一貫性を持たせる必要がありますので、こういった細かいことにも意識を向けたいですね。

 まだ中学生ということで、これからの課題ではありますが、そういったことに努力を払っていけば、より素晴らしい小説が書けるかと思います。


 ここからアドバイスになりますが、まだ中学生ということもありまして、まずは小説の「お作法」的な話をしたく思います。ちなみにおばちゃんは理系という言い訳をして、日本語をきちんと勉強してきませんでした。なので、「最低限のルール」を守る、くらいな感じで話をしたいと思います。ちなみに、このルールとは、「読者が読みやすい」という点におけるお約束事だと思ってください。


 字下げ(段落)はきちんとできてますね。いいですね。webですと字下げしない作品も多々ありますし、もはやそれが悪いことでもないのですが、まずは普通の書き方として字下げをするようにしましょう。理由はあくまでも読者が読みやすいからです。小説は読者がいてナンボです。折角書いても読んでもらえなければ悲しいですよね。


 「ー」ですが、これは、「―」を使います。パソコンであればダッシュと打てば変換されます。「ー」は「あー」とか「うー」みたいな言葉を伸ばす時に使いますので別物になります。スマホ画面ですと見分けずらいかもしれませんが注意をしましょう。

 大事な点は、―は2つでセットです。――という感じです。こうしなければならない、という確たる根拠はないのですが、出版ルールなので、そうしておいてください。2つ単位ですので4つとか6つもありですが、基本は2つのみで使ってください。おばちゃんはこの――が大好きなので多用しますが、基本的に使わないにこしたことはありません。――でないと表現できない世界は、まだまだ先の話として考えておいてください。


 同様に「・・・」も「…」という三点リーダーをつかうのがルールです。おばちゃんとしては正直どちらでも良いと思いますし、今のweb小説では「・・・」でもまったく違和感はないのですが、小説という体裁を整えるには必要な作法だと思ってください。ちなみにコイツも2つでセットです。……というふうに使用します。4つ、6つとつなげて書いてもありなのですが、ダッシュ同様、使わないにこしたことはありません。

 余計な話ですが、おばちゃんくらいの歳になると、小説にうるさい大人の読者から、「……をどう言葉で表現するのかが小説ではないですか?」なんてネチネチ言われたりします(笑)。ですので、どうしても会話に間を開けたいとか、登場人物が黙っていることを会話文で表現したいときだけに使いましょう。


 文中の「?」や「!」は一文字開けるのがルールになっております。


 そうなの? 花子は不審そうな顔をしてわたしに聞いてきた。


 最初は違和感がありますが、なれてきます。どうしても見栄えが良くないと思うようでしたら、なるべく文中では使わないようにすればいいと思います。

 ちなみに、「」の末尾に使う場合はそのままで良いです。


「そうなの?」

「まじか!」


 最後に、「」内にある「。」ですが、これは無しで大丈夫です。おばちゃんは昔の人間なので正直なところ、「今日はいいお天気ですね。」と「。」で終わる小説が好きなのですが、今はない方が普通ですし、「。」をつけたりつけなかったりして誤字になるほうが良くないので無くしてしまいましょう。おばちゃんは昔、「。」で書いていた小説の中で、いくつか(実ははたくさん……)付け忘れてしまい、編集を通して校閲の人から「どっちかにしろや!」って怒られたことがあります。


 お作法はこんなところで良いでしょう。茶都さんはネットを常時自由に閲覧できる環境ではないと思いますが、「小説の書き方」みたいなサイトを見て、一度勉強してみるのも良いかと思います。暗記なんてしなくていいですよ。「ふーん」みたいな感じで読み流してみてください。図書館で借りれるなら本で読めるといいですね。



 さて、基本的な話で長くなりましたが、本格的なアドバイスをしましょう。そうですねぇ、茶都さんには、「分解する」という考え方を飴ちゃんとして持って帰ってもらおうかと思います。


 茶都さんの小説から引用させていだだきます。



 朝からずっと雨が降るとある日。私達は、静岡県のはじにある図書館の受付でずっと作業していた。


 早速まずは分解してみましょう。


①朝からずっと雨が降る

②とある日


 小説に大事な「いつ」を表現しているところですが、この小説の「いつ」は、とある日=「不特定な日」ということになります。これは小説全体にとって非常に重要な時間軸です。何年何月何日かは不明ということです。

 同時に、「過去」ということも示しています。つまり、「何年何月何日かは不明の過去」ということになりますね。

 で、①と②とくっつけると、「朝からずっと雨が降る何年何月何日かは不明の過去」になりますが、①と②があまりうまくくっついていないと感じませんか。

 

③私達は、

④静岡県のはじにある

⑤図書館の受付

⑥ずっと作業していた。


 ①から⑥までをばらばらにしてみますと、「ずっと」という言葉が重複しています。基本的に同じ言葉をくりかえして使うのは変だと考えてみてください。読者にはわかりにくいですし、何か意味があるのだろうかと、小説とは別な方向に意識が飛んでしまうのです。


 朝から雨が降っていたある日のことだ。私達は静岡県のはじにある図書館の受付で作業をしていた。


 ①は過去の継続であることから「降る」ではなく「降っていた」と表現すると②につながりやすいですね。


作業は「ずっと」をしていなくとも、ずっとしている感じがしますので、なくていいでしょう。

 このように一度バラバラしてみて組立てみると、日本語としておかしいところが浮かび上がってきます。

 

 分解とは話が逸れますが「静岡県のはし」という表現はあまりよくないと思います。読者がイメージしにくいのです。ほら、静岡県って横に長いでしょう? それに、東西南北、とちらの端も景色や風土が全然違いますよね。「静岡県と愛知県の境にある」や「静岡県の南端」など、ある程度の方角は差した方がわかりやすいです。わかったからなんなんだということではなく、静岡県を出したのであれば、せめて読者はどのあたりなのかなくらいは知りたいではないですか。もし茶都さんの実家が静岡県のはしで、そのはしを知られたくなくてこう書いたのであれば、静岡県も、「とある県」みたいに不特定な場所に統一した方がよいです。「いつ」とか「どこで」とかは、できるだけ読者にとってわかりやすい情報で書きましょう、ということを覚えておいてください。


 もう一例、バラバラにしてみましょう。



ここの図書館では、毎月一冊の誰もが知る名作をテーマにした企画をやっていて、今月6月では枕草子である。そのなかで自分流の枕草子を書こうというイベントがあったのだ。


一、言葉をバラバラにしてみましょう。


①ここの図書館

②毎月一冊

③誰もが知る名作

④テーマにした企画

⑤今月6月

⑥枕草子

⑦そのなかで

⑧自分流の枕草子

⑨書こうというイベント


二、言葉を少し直してみましょう。


①ここの図書館→私達の図書館

②毎月一冊

③誰もが知る名作

④テーマにした企画

⑤今月6月→今月 ※ここに深刻な問題アリ!

⑥枕草子

⑦そのなかで→いらないかな?

⑧自分流の枕草子

⑨書こうというイベント→書いてみようという企画(言葉を企画に統一する)


三、もう一度、配置してみましょう


私達の図書館 毎月一冊 誰もが知る名作 テーマにした企画

今月 枕草子 自分流の枕草子 書いてみようという企画


四、並べ替えてみましょう

 

この図書館 毎月 誰もが知る名作 一冊 自分流 書いてみようという企画

今月 枕草子


五、つないでみましょう。


私達の図書館 では 毎月 、 誰もが知る名作 を 一冊 とりあげ、 自分流  に 書いてみようという企画 があった。

今月 は 枕草子 であった。


 どうでしょう。一から五、すなわち、分解、修正、再配置、並べ替え、再接続、というプロセスを通してみると、より読みやすい文章に仕上げることができることがわかりますでしょうか。茶都さんはまだ中学生ですので、とにかくダーと小説を書いたら、この一連の「分解作業」をしてみてください。それだけでかなりの日本語力がアップします。


 さて、⑤今月6月の件ですが、最初に設定した「何年何月何日かは不明の過去」からみると、この6月をどう表現すればいいか辻褄があわなくなってきたのではいでしょうか。今月とは、「2024年6月」(本文執筆時点の現在)のことであり、過去の「今月」をどう表現すればよいのか、難しくなってしまいましたね。



①朝から雨が降っていたある日のことだ。私達は静岡県のはじにある図書館の受付で作業をしていた。


②私達の図書館では毎月、誰もが知る名作を一冊とりあげ、自分流に書いてみようという企画があった。今月は枕草子であった。


 ①が何月かを指せないので、②に6月の入る余地がなくなってしまいました。

 ではその解決はどうすればよいでしょう。


案1 ①に今月が6月であることを示す。

案2 ②に頑張って6月を入れ込む。


案1例

 六月も中旬となり梅雨に入ったせいか、その日も朝から雨が降り続いていた。私達は静岡県のはじにある図書館の受付で作業をしていた。


 私達の図書館では毎月、誰もが知る名作を一冊とりあげ、自分流に書いてみようという企画があった。今月は枕草子であった。


案2例

 朝から雨が降っていたある日のことだ。私達は静岡県のはじにある図書館の受付で作業をしていた。


 私達の図書館では毎月、誰もが知る名作を一冊とりあげ、自分流に書いてみようという企画があった。この年の六月は枕草子であった。


 案1例の方が「いつ、どこで、だれが」などの重要な情報は、できるだけ先に書くべきという原則に倣えば、良いと思います。作者自身が時間軸で惑わなくてよくなりますし、読者にも「ある年の6月」という「いつ」が最初の方でしっかりと伝わります。六月と漢数字の方がこの小説にはマッチします。


 いろいろと長くなりましたが、「分解」するという作業のメリットは、


・一文を分解にすることによって、日本語のおかしいところを修正できる。

・時勢(現在や過去の「いつ」ということ)や、内容の矛盾あるいは無理な部分を発見するきっかけになる。

 

 ということです。まずは書きたいようにダーと書いて、読み直してみましょう。そして、「なんか日本語としておかしいなあ」「話が前と後ろであわなくなっているぞ」と思ったら、まずは分解作業をしてみてください。くれぐれも本文はいじらず、別のところで分解したものを書き出してみてください。

 

 これは学校の作文でも国語の記述解答でも非常に役に立つ技術ですので、是非とも習得してみてください。

 ちなみにおばちゃんは学生時代は作文を書くのが嫌いでしたが、素行不良だったので、反省文をたくさん書かねばなりませんでした。ですので、まったくもって仕方なくながら、日本語らしくなるようにバラバラに分解して考えていたのです。


 まだまだ先は長いですので、まずは楽しんで小説をいっぱい書いてみてくださいね。

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