「おばちゃん飴ちゃんやるわ」 白映え/千桐加蓮さん

 さいかわ水無月賞にU-18で参加してアドバイス希望のタグをつけた方には感想とアドバイスを贈らせていただきます。おばちゃん、学生さんにはめっちゃ優しいねん。

 他のU-18さんもアドバイス希望のタグをつけていただければ書かせていただきます。


 白映え/千桐加蓮さん


 感想ですが、きちんと一作になっていて、主人公の私と亡き姉の教師で姉の恋人未満の江場さん、そして亡き姉の三人でうまく話がすすんでいきます。江場さんが姉の文学碑を作りたいという動機をスタートとして、私と江場さんが会話を通して姉を語り、二人は会話と姉の存在によって思いを共有するようになり、最後には文学碑が完成します。千桐さんは高校生でしょうか。全体的に起承転結をつけて書ききっております。良く頑張りましたね。おばちゃんは拍手を贈りたいです!


 アドバイスですが、そうですねぇ、千桐さんには「順番」という考え方を飴ちゃんとして持って帰ってもらおうかと思います。


 千桐さんはパンケーキを用いて時間の経過を表現しようとトライしています。これはとても良い試みだと思います。会話が続きすぎると小説全体がダレてしまいます。時間の経過や事態の変化にアクセントをつけることはとても大事な技術です。


 さてその「順番」ですが、マクロ視点、中間視点、ミクロ視点の3つがありますので、千桐さんの作品と照らし合わせながら説明したく思います。


 マクロ視点ですが、この短編全体のことです。千桐さんには印字ができる環境はありますでしょうか? なければコンビニでも印字できますので、できたら印字をしてみてください。紙にすることによって、全体という概念を実感できると思います。次にそこに赤ペンでツッコミや修正をしていきます。大事なのは本文を直接いじらないことです。校閲という仕事があるのですが、チェックはチェックとして作業をして、終わったら修正をかけます。パソコンやスマホですと簡単に修正できてしまうので、直接本文をいじってしまいますが、それをやめて紙に印字をして赤ペンでチェックする習慣をつけてください。おばちゃんの頃はまだ原稿用紙で小説を書いたりもしていたので、チキンと校閲と修正が独立していました。自分で客観的に作品を俯瞰(ふかん。高い所から見おろすこと)できました。これによって全体がどういう順番で話が流れているのかを確認できたのです。

 前置きが長くなりましたが、マクロ視点の順番は「話全体の順番」です。起承転結や三場八幕というにあてはめて話がスムーズに進んでいるのかをチェックするのです。ここの部分は千桐さんはある程度できていますので、中間とミクロを重要視してみてください。

 

 マクロ視点ではまだ概念的なので、中間視点「順番」を説明しましょう。千桐さんはパンケーキで時間の経過を表現しようとトライしました。本部から引用させていただきます。


①私は、駅前のパンケーキ屋に、とある男と向かい合って座っていた。

②私は、聞き流すようにフルーツがたくさんのっているパンケーキのさらに上にのっているバニラアイスの部分を掬う。

③一口食べたあと、……

④パンケーキが美味しそうだの、普段は何の飲み物を飲むのかなど話題を振ってみたが

⑤パンケーキを半分食べ終えたところで

⑥私は、江場さんの独り言を聞きながら、フォークに刺したパンケーキを口いっぱいに頬張った。そして、注文し、届いてはいたが、あまり口をつけていないオレンジジュースを飲む。

⑦私は、自分が頼んだパンケーキを完食した。

⑧パンケーキを頬張りながら江場さんの方を見ると

⑨パンケーキ屋さんから出て、外を歩いた。


 あくまでも御作のメインは「私と江場さんとの会話」で副次的にパンケーキを食べる経過が併走しています。ということは千桐さんは二つの話の順番を、同時並行で考える必要があります。上記はパンケーキの経過という話しですが、⑦で完食したものが⑧でまだ食べています。⑥ではオレンジジュースの出現箇所がなかったため、少しおかしな表現の説明を追加しなくてはなりませんでした。①と②の間にパンケーキとオレンジジュースをオーダーするか到着するかのシーンを書けば、それまでオレンジジュースを飲まなかったことに意味を出せますし、自然な流れで登場させられます。

 これは細かいところですが、江場さんはパンケーキを頼んだのでしょうか。一緒に食べる事と条件をつけて私は江場さんに会う事になったはずです。パンケーキを頼んだ/頼んでいないを明確にすることでさらなる表現材料が増えると思います。また、せっかくブラックコーヒーを出したので、江場さんが渋そうな顔をする例えにも使えたと思います。

 「ブラックコーヒー」ですが、何度も繰返すと冗長(じょうちょう。述べ方が長たらしく、むだのあること。)に感じますので、コーヒーにまとめてしまってもいいと思います。小ざかしいですが、最初のコーヒーが出てくるシーンで「江波さんはコーヒーに何も入れないタイプのようで、そのまま飲んだ」と書いておけば以降でコーヒーの表記だけいけます。今回はパンケーキに焦点をあてていますので、ブラックコーヒーの連発はくどいかなという感じです。あとA4は規格なので漢数字でなくて良いです。おそらく数字表記の統一を気にしているのでしょう。(それはとても偉いことです!)

 話を「順番」に戻しますと、作中に時間あるいは状態が変化するものはしっかり箇条書きにして再チェックしてみてください。決して本文をいじってはいけませんよ。そして箇条書きした通りに話が進むのかイメージしてみてください。映像監督になった気分でパンケーキを食べているシーンを頭の中で動画として考えてみるのです。箇条書きはそのため簡易的な台本になります。こうやって話の「順番」を確認していけば、御作のような複数に経過が流れる上級者向けの作品の完成度が上がりますよ。


 ミクロ視点ですが、ミクロとは一文レベルの話です。千桐さんが今一番力を入れるべきはミクロ視点だと思います。

 一文とは簡単にいえば、


①誰が

②相手(または事物)に

③何をした(またはされた)


 の順番のことです。5W1Hなんて習ったかもしれませんが、キチンとこの順番に書く意識を持つといいと思います。

 ひとつ引用させていただきますと、

 

 彼の依頼は母親から教えられた。強制的な言い方で、話だけでも聞いてきなさいという圧力に負け、雨の日の正午、彼と駅で待ち合わせをしたのだ。


 引用を箇条書きにすると、


①彼の依頼は母親から教えられた。

②強制的な言い方で、話だけでも聞いてきなさいという圧力に負け、

③雨の日の正午、彼と駅で待ち合わせをしたのだ。


 全体的に必要な情報は備わっていますが、もう少し順番の整理と、表現と説明にができそうです。


①理由はわからないけれど、彼からの依頼は母の口から知ることになった。

②母は私に「話だけでも聞いてきなさい」と言った。母らしかぬ(あるいはらしい)、どこか強制的なものの言いようだっだ。

③私は母のその言葉に、逆らいがたい圧力のようなものを感じ、しぶしぶながら、正午に彼と駅で待ち合わせすることにした。


①→②→③と順番を経て時間がより自然に流れていくかと思います。細かいところでは母親は他人行儀なので母に(他人行儀に母親と呼ぶ理由を書いていないので、読者は「?」ってなりそうですね)、雨の日は他の箇所で書いていますので、削りました。基本的に同じ単語を繰返し書くのは小説ではしないほうがいいです。繰返し使うのはパンケーキのように話に重要な単語だけにすると、読者に単語の重要度が伝わりますし、小説として話しが自然に進んでいきます。ブラックコーヒーも、読者に「なんで何度もブラックを強調するのだろう」という疑問を感じさせます。


 ミクロ視点の勉強と対策は日本語の勉強をすることになりまりますが、文法書を読むのはあまり面白いものではありません。ですので、楽しく勉強をする方法をお教えします。それは、自分がプロ作家の作品一冊(あるいは短編一作でもいいです)を何度も何度も読み込んで、徹底的に真似をしてみることです。真似をすることで一文をどう書けばいいのか。てにをはや「、」のつけ方など、自然と身につけていくことができます。できれば写経のように手で書いてみると、その作品を呼吸レベルで感じる事ができます。

 おばちゃんは昔、ある出版社の鬼編集者にそんなことばっかりやらされていた時期がありました。やらされるのはムカつきますが、意義を感じて自分でトライするなら面白いと思いますよ。


 とても長くなりましたが、「順番」という考え方をきちんと理解して、本文をいじらず、新たに箇条書きにしてみて考え直す習慣を身につけてみてください。そうすれば、カクヨム甲子園どころか大人のアマチュア上級者に負けないような作品が書けるようになります。それと、目指したいプロ作家を見つけ、徹底的に書き方を真似ることがとても大事です。

 おばちゃんが言ってきたことは特別な時間を必要とせず、現代文の勉強の合間にでもできるようなものです。「順番」におかしいところがないか? その疑問を常に持って自分の作品を読み直してみてください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る