待ち時間の過ごし方

青時雨

第1話 人を待つ

僕は今、彼女を待っている。

待ち合わせの時間になる2分前に彼女から「ごめん、ちょっと遅れる」と連絡をもらった。


さぁ、急遽出来たこの待ち時間をどう過ごそうか。

「ちょっと」の尺度は人それぞれ。だから、僕の思う「ちょっと」が5分でも彼女の「ちょっと」は15分かも。僕的に15分は「ちょっと」じゃなくて「しばらく」だと思うんだけど…まあ、時間の感覚は人それぞれだから。


彼女の「ちょっと」は確実に5分じゃない。一度待ち合わせ場所から移動して、どこかで時間を潰そうかな。

カフェに移動しようと足を一歩前に出そうとして、引っ込める。

彼女と合流したら、急いで待ち合わせ場所へやってくる彼女は間違いなく座って冷たい飲み物を飲みたがる。なら今カフェに入るのはなぁ…

じゃあウィンドウショッピングでも…ってこれもだめだ。今日のデートはウィンドウショッピングがメインだ。

ふと、先程からじろじろ見られている気がする。僕じゃなくて、僕の背後を見ている。

振り返ると、そこには絵があった。

どうやら近くの大学の学生の描いた作品が飾られているようだ。

これを見ていたらそのうち彼女が来るかも、と思う前に僕は絵の鑑賞を始めていた。


正直絵はよくわからない。歴史とか、どんな場面を描いてるのかより、「この色使いいいな」とか「ここに描かれてるこれ、なんだろう」みたいな感想ばかり出てきてしまう。これが僕流の絵の鑑賞方法。



絵に見入っていた僕は、最後の絵を観て驚く。


「えへへ、びっくりした?」


「君にそっくりなトリックアートかと思ったよ」


「『題名:待ち合わせ場所に、額縁の中から出てくる彼女』をイメージした。ごめんね、待ち合わせに遅れて」


「いいよ。この絵も見れたし」


「今度二人で美術館行く?」


「そうだね。僕の感想は独特だけど大丈夫?」


「そんな君だから好きになったんだよ」



いい待ち時間を過ごせたな。


3年付き合った彼女の「ちょっと」は30分だった。まだまだ僕は彼女のことを知らないみたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る