第6話

 静かな中庭で霙ちゃんとすーちゃんが対峙している。私にはどうしていいか分からず見ている事しか出来ない。

 霙ちゃんは頭に当てていた手を下ろしてすーちゃんを睨んだ。


「よくもあたしの髪を。スキルが使えるなんてあなたも冒険者なの?」

「私の正体に気づかないなんて冒険者のレベルが知れるね」


 すーちゃんは何か不満があるのか霙ちゃんを挑発している。霙ちゃんはすーちゃんの動向を気にしながらちらりと私の剣を見てきた。

 まだこれを狙ってるんだ。私は剣を取られないように大事に抱く。

 するとすーちゃんがそんな些細な物事が吹き飛ぶような大胆な事を言い放った。


「勇者と魔王の戦いに余計な手出しはするなと言っている!」

「ま、ま、ま、魔王! だ、だ、誰が!?」


 霙ちゃんはすーちゃんではなく周りの方を警戒した。目の前のすーちゃんが魔王だとは気づいていないようだった。

 中庭を見下ろす校舎は静かで怪しい人影はどこにも見られなかった。


「驚かせないでよ。何もいないじゃない」

「分からないからお前は三下なの。てるみんならすぐに気づいたよ」

「え!?」


 私が気づいたのはすーちゃんが自分から告白したからなんだけど。すーちゃんの挑発は続いた。霙ちゃんによく言い聞かせるように。


「その邪魔な髪をもう一本斬らないと分からないかな?」

「え? ちょっと待ってよ。どういうことなの? え? まさか……」


 霙ちゃんは驚きすぎて頭がショートしたような顔をしている。

 私は勇者としてこの場をどうまとめればいいのだろう。考えているとチャイムが鳴った。

 私達を現実に呼び戻す音だ。


「大変! 授業が始まっちゃう! すーちゃん急がないと!」

「そうだね。こんな雑魚に構っている時間はもうない」


 私とすーちゃんは真っ白になっている冒険者を置いて教室へと急ぐ。

 私達は勇者と魔王ではあるけれど、学生であるからには授業に遅刻するわけにはいかないのだった。




 中庭から教室まではそれなりに距離があったけど何とか間に合った。


「セーフ!」

「間に合った!」


 私達は急いでそれぞれの席に着く。生徒みんな? が席について授業開始だ。

 教壇に立った先生がいつものように出欠確認をしていく。順調に進んでいたその呼びかけがある生徒の場所で止まった。


「星河~。星河は休みか?」


 みんなではなかった。霙ちゃんの席が空いていた。


「星河さんなら相坂さんと一緒に休み時間に出ていったけど……」

「相坂、何か知っているか?」

「星河さんは……」


 クラスメイトに告げられて私は答えないといけない立場に追い込まれた。

 何て答えればいいのだろう。中庭で戦いを挑まれたと正直に言えばいいのだろうか。

 勇者と魔王、聖剣の事まで知られて騒ぎを大きくしたくはないんだけれど。


「あ、あの、えっと……」


 私が悩みながらも何とか答えようとした時、バァンと大きな音を立てて当の本人がドアを開けて現れた。

 出ていった時にはツインテだった髪をシングルテにした彼女の姿はクラスのみんなの注目を集めた。


「いたー! こんなところにいた! まさか馬鹿正直に教室にいるなんてね!」

「星河、今日は遅刻にしないけど次からはちゃんとチャイムが鳴るまでに席についておくんだぞ」

「今くだらない授業なんてしている場合!?」

「くだらない授業っっっっ!???」


 霙ちゃんの大胆な発言に先生がさすがにショックを受けた顔になる。クラスの反応は分かるーとか言い過ぎとか興味が無いとか様々だ。

 霙ちゃんはそのどれにも構わず、怒りの指先を我関せずの顔をして座っているすーちゃんに向けた。


「だって、クラスに魔、魔、魔……いるのに……」


 霙ちゃんは興奮していたが、さすがに教室がパニックになるリスクに気づいたようだ。

 ここで魔王との戦いが勃発しようものなら学校にどれだけの被害が出るか分からない。

 無関係の人達が巻き込まれるし、賠償だって負わされるかもしれない。

 言おうとした言葉を飲み込んだのを見て、私も安心して剣に伸ばそうとした手を戻した。

 すーちゃんは冷静に彼女を見上げて言った。


「席に着いたら? 冒険者。それとも今すぐ教室を出ていって冒険に行く?」

「ぐぬぬ……!」


 霙ちゃんは屈辱に震える顔をしていたが、


「先生の授業、くだらないのかな……」

「いえ、そんな事はありません。素晴らしい授業を始めてください……」


 結局は学生の本分には逆らえず、すごすごと自分の席に着くのだった。

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魔王が蘇って世界は終わりだ 勇者の私がさせません けろよん @keroyon

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