第4話

 嫌な予感というのはやはり当たるもののようだった。

 冒険者を自称した少女は案の定私達のクラスに転校してきた。


「星河霙です。よろしくお願いします」


 みぞれちゃんか。何だか難しい漢字だ。強気そうなツインテールをしているが、慣れないクラスのみんなを前にしてはさすがに緊張しているようで、態度がたどたどしかった。

 私は警戒の目を向けているがすーちゃんはのんびり欠伸をしている。気配を気取られない為には私もリラックスした方がいいのかもしれない。

 朝の顛末を何も知らないクラスメイトからはさっそく質問の声が上がった。


「はい、星河さん。質問いいですか?」

「何でしょうか?」

「あなたは冒険者ということですが、冒険者とは何をされるお仕事なのでしょうか? 探検家とは違うのでしょうか?」

「冒険者は最近現れるようになったモンスターを討伐するのが仕事です。あなた方が冒険者と聞いてイメージするのは旅行者だと思うけど、今はもう違うのです。あたし達はやがて復活する魔王を倒すのを目標に活動しているんです!」

「おお、魔王を!」


 その言葉を聞いてさすがにクラスメイト達にざわめきが広がる。私は警戒心を強め、眠そうにしていたすーちゃんが目を覚ました。

 クラスメイト達の質問が続く。私は何を訊いていいのか分からなかったので、代わりに質問してくれるのはありがたかった。ここは聞き耳を立てておこう。


「魔王を討伐するのを目標に活動されているという事ですが、具体的にはどのような活動をなさっているのでしょうか? また魔王は本当にいるのでしょうか?」

「そうですね。例えば、今朝も道端に出現したスライムを討伐しました。このようなモンスターが街中に現れるなど魔王の復活が近づいている証拠でしょう。魔王はこの町で復活するのかもしれません」

「魔王がこの町に!」


 さすがに教室のざわめきが大きくなる。私は無関係の人達を相手に言い過ぎではないかと憤慨したが、すーちゃんが気配を消すように縮こまっていたので注目を集めるような行為は止めておいた。


「それは恐ろしい! いつ復活してもおかしくないという事ですか!」

「はい。最近はモンスターの動きが活発にみられるようになってきました。だから皆さんは外出の際には注意してください。ですが、必要以上に慌てる事はありません。奴らを倒す為にあたし達冒険者はいるのですから」

「おお、頑張れよー」

「応援してるー」

「ありがとうございます」


 話しているうちに場が温まって快く拍手で迎えられて彼女の緊張も解けたようだ。霙ちゃんは安心したような顔をしている。私としては良くない状況だった。

 魔王が狙われているなんてすーちゃんが危ないんじゃないだろうか。魔王と戦うのは冒険者ではなく私の仕事なのに。

 すーちゃんはと言えば気まずそうにもじもじしている。私はつい不満をぶつける視線で霙ちゃんを睨みつけてしまった。

 それが良くなかった。冒険者である彼女に気づかれてしまった。ツインテの気の強そうな視線が逆にこちらを射抜くように向けられてくる。


「あなた、今朝いたわよね?」

「……うん」

「話があるの。後で付き合って」

「え……はい……」


 私には何も断ることが出来ず、ただ頷くしかなかった。

 すーちゃんが心配そうに見ていたが、見ていたのはクラスのみんなも同じなので、そちらには気づかれなかったものだと信じたい。

 その後は何事もなかったかのように授業が始まった。

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