俺にとってはこれこそが異世界転生
shiyushiyu
プロローグ
はぁ? こんなのフェイクニュースに決まってんだろ! そんなこともわかんねぇのかこの情弱どもが!
なに? エロ画像をください? 乞食が! まずはてめぇが貼れ! それから欲しがれ!
ん? 悲報ツーピースのルフ、ゴムの力じゃなかった! なんだと? 後付け乙~。
「ふー。今日も粗方俺の仕事は終わったな……」
スマホを放り投げて俺はベッドに横たわる。
ネットで人を叩くのも見下すのも慣れてきた。毎日の当たり前の日常になっている。
けどこのネットを見ない時間の虚無感。これだけは慣れないな……
認めたくないけど分かってる。
1日が充実していない。
それなりに話せる仲間はいるし、学校ではある意味女子からキャーキャー言われる存在でもある(菌扱いされてるけど)。
「なぁーんか楽しいこと起きないかなぁー」
やべ。思わず声に出ちゃった。
でもホント、毎日が退屈だ。
いっそのこと、どっかの物語みたいに異世界転生でもできないかなぁー。
ま、無理なのは分かってるけどね……
………………
…………
……
「ジリリリリリリリリリリリー!」
けたたましい目覚ましの音で目が覚める。
いつの間にか寝てしまったようだ。
……!
辺りを見渡して一瞬で理解したね。
ふっ。とうとう俺も異世界転生してしまったか。
死んだ感覚がないから異世界転移かもしれないな……
「それにしても――」
薄暗い部屋を見渡して俺は確信する。
いきなり魔王と魔女が住むクージタに転生してしまうとは。
我ながら運が悪い。
「目覚めたか勇者よ」
げ! 魔女に見つかった。
「この天の牢屋から抜け出したいのだろ? 今のお前を倒すのは容易いことだ。しかしそれでは我々もつまらん。そこでだ。我々が出すクエストに応えることでお前をパワーアップさせてやろうではないか」
なんて親切な魔女なんだ。願ってもない。
魔王と魔女が出すクエストをクリアして、レベルアップして巨大な悪を倒してやるぜ!
「まずはうがっこエリアへ向かい、うがっこで夕暮れまで無事過ごすのだ」
いきなり危険なエリア、うがっこエリアへ向かえと言うのか……この世界、一筋縄ではいかないようだな。
いいだろう! クエストをクリアして必ずレベルアップしてやるぜ!
ぐぅぅぅー。
しまった。弱みを見せてしまったか?
「ほう? 腹が減っているのか。私が作った手料理を振る舞ってやろう」
魔女が階段を降りる。
どうやら俺を食堂へ案内してくれるようだ。
「そこで顔を洗えるぞ。便所はそこだ」
随分と親切だな。……ウゲッ。なんだこの飯は!
緑色の謎の葉っぱがたくさん皿の上に乗っている。
「どうした? 我々の好物、魔草のフルコースだ」
騙したな! 魔草なんて魔女や魔王しか食べないじゃないか!
そういえばさっきから魔王の姿が見えないな。さては出かけているな?
俺は魔草のフルコースを無理やり胃袋に押し込んで、魔女が言ううがっこエリアへ向かうことにした。
こうして俺の異世界での冒険が始まった――
●
けたたましい目覚ましの音でも息子は起きてこない。
「あら。やっと起きたの?さっさと学校に行くのよ?」
いつも通りの朝のやり取りだ。
「さっさと顔洗ってらっしゃい。お父さんはもうお仕事に行ったわよ」
母親は息子にそう言うと、テーブルにサラダを並べた。サンドイッチの中身も野菜ばかりだ。
野菜嫌いの息子に少しでも野菜を食べさせようとすると、親心だ。
息子は文句を言いつつも、なんとか野菜を胃袋に押し込んでいた。
『やれやれ。夜はスープでも作っておくしかないかな』
深いため息をつきながら、中二病にしてかなりの妄想癖を持つ息子を母親は見送った。
こうして、妄想癖を持つ中二病息子の脳内異世界転生が幕を開けたのだった――
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