Episode17 - E5
2層を探索して暫く。
「……本当に1体も会わないな……」
基本的な構造は木造の和風建築。
田舎にありそうな大きな屋敷の中という感じだ。
薄暗さ、そして自分が歩く音しかしない為に不気味さはあるものの……逆に言えばそれしかない。
一応、所々に部屋があったものの、まだ内部を探索はしていない。
この手のダンジョンの部屋には何かしらのトラップがあるのは確実だからだ。
……【地下室】みたいな、特に何もない部屋なら良いんだけど……。
「ええいままよ!女は度胸!」
一度深呼吸をして、STの残量を確かめた後に部屋の引き戸の前に立つ。
一見して特に特徴のない、普通の木製の引き戸だ。
臭いは特にせず、中に何かが居るような音もしない。
私はゆっくりと戸を開け、中を確認した。
廊下と同じように薄暗く、よくは見えないが……恐らく倉庫のような部屋だ。
様々な物が乱雑に置かれているのだけが分かる。
「倉庫ってことは……何かしらのアイテムが拾える場所かな」
息を吐きつつ、片手に手斧を呼び出してから中へと入った。
どうやら本当に倉庫だったようで、シャベルや荷車等といった物や松明、唐傘など家の中では使わないようなものまで様々な物がそこにはある。
何ならエデンの生産区の方で見た薬草に似た草や、何が入っているかは分からないものの液体が入った小瓶など、明らかに普通は倉庫の中にはないような物まで揃っていた。
……どうするのが正解かはちょっと分からないな。
普通のダンジョンならば、宝箱を見つけた時のような喜び方が出来るのだろうが……ここは違う。
下手に手を出して藪をつつく事になったら目も当てられない。
「……いや、良いか。逆に変化があった方が分かりやすいし」
そこまで考え、私は頭を横に振って少しだけ頬を緩めた。
確かに藪をつついた結果、蛇どころか鬼が出てくるかもしれない。だが、それだけだ。
そう遠くない位置にはメウラが居て、私が全力で駆ければ十秒も経たず合流は出来るだろう。
それに結局は2人揃った状態で検証する事にはなるのだ。
なら、少しは好奇心に任せて先に動いたってバチは当たらない……と思う。
ある程度自身を正当化してから、私は近くにあった籠……童話の赤ずきんが持っているような編み籠を1つ手に取ってインベントリに入れた。
その瞬間、
『――強欲なる者よ』
「!?」
声が聞こえた。
『――目に見えた物を、全てを手に入れようとする者よ』
「いや、私そんな全部を全部取ろうって訳じゃないんだけど?」
『――簒奪を受けよ、罰を受けよ、罪を受け入れよ』
こちらの言い分は聞く気が無いらしく、言葉が紡がれていく。
慌てて転がるように部屋の外へと出てみると、先程とは様子が違っているように感じた。
一段ほど空気が冷えているようにも、先程までは何も感じなかった廊下に敵意のような……こちらを排除しようとしているかのような視線や気配も感じた。
『――我、罰を与える者也』
周囲から、霧が廊下へと集まってくる。
濃い血の臭いを漂わせるそれは、やがてある形状へと集まり、そして実体を得てこちらへと視線を向けた。
成人男性ほどの大きさの人型であり。
その背中からは黒く大きな翼が生え、通常人の頭部があるであろうそこには鴉の頭が存在していた。
『罪深き者よ、悔い改め――ッ!?』
「五月蠅いよ」
何やらこちらへと錫杖のようなものを突き付けながら喋っていたソレに対し、私は手斧を投げつけた。
正直私が何であろうがどうでも良い。ここに在る選択肢は戦うか否か。それだけだから。
急激に視界が白黒へと切り替わっていくのを感じつつ、更に距離を詰める。
『ッ!』
錫杖を使い、手斧を弾いたソレはこちらへと手のひらを向ける。
それと共に、何やら周囲からは霧が集まり……杭のような形状へと変化した。
「遅い遅い」
既に私はソレと息が掛かる程の距離まで近づいており。
にっこりと笑いながら、手斧を呼び戻して袈裟斬りのように斬りつけた。
瞬間、杭が文字通り霧散していくのを見つつ。私はソレの腹に蹴りを入れる事で少しだけ距離を離す。
……一旦、メウラくんに報告したいな。
思考操作でメニューを開きつつ、私はこちらを睨みつけてくるソレに対して手斧を投げた。
『もしもし?』
「あ、メウラくん?そっちどう?」
『あー特には。幾つか部屋は見つけたが、居間だったり風呂場だったりで特にコレといったもんはねぇな』
ソレはしっかりと手斧を防いでいるものの。
こちらから大きく距離を取ろうと翼を広げて羽ばたき始める。
だが私は、昇華の煙を周囲からかき集め……足に集中させる事で瞬間的に強化を行い、逃がさないように再びまた近づいた。
『で、こっちに通話かけてきたってことは何か見つけたのか?』
「あぁいや。今戦闘中」
『……俺の耳がおかしくなったのか?もう一度言ってくれ』
「今ね、鴉天狗っぽい何かと戦闘中。倉庫を見つけて物取ったら、なんか罪人判定受けてさ。で、今」
近付いては斬りつけ。逃げられては近づいて。
錫杖に対しては手を使う事で命中する軌道から逸らしつつ、霧で何かをしてこようとしているのに関しては……私が攻撃する度に霧散している為に、対処をする必要もない。
……んー弱いな。
これまでしっかりと近接戦闘を行ったのが『信奉者』や『四重者』くらいだったからだろうか。
ボス2体と比較してはいけないのだろうが……まぁ仕方ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます