Episode9 - D2


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魔結晶(微小)

種別:素材

品質:D-

説明:魔の力が集まって出来た結晶

   多く集まれば集まる程にその力は強大となる

   扱いには注意が必要

――――――――――


試しにインベントリ内のソレを見てみたが、何の事だかさっぱりだ。

魔の力、というのがあの狼……マノレコの纏っていたオーラの事ならば、それが固まって出来た物なのだろうが……。


「このゲーム、MPって概念がないわけで」


そう、MP……マジックポイントが存在しない以上、それに準ずるものも存在しないと考えるのが道理だろう。

しかしながら、今目の前にソレが存在している以上、話が変わってくる。


「……もしかして、それっぽいものはあるのか?」


そう考えるのが自然だろう。

ただ、検証や何だかんだを行うのには数が少なすぎる。

3匹倒してドロップしたのが1つだった以上、私のドロップ運がアレじゃない限りは低確率か何かで手に入るようになっているはずだ。

つまりは、


「乱獲かな」


このダンジョンで出来る限りの戦闘を行うべきだろう。

元より、ある程度の戦闘準備はしてきたわけだが……こうなってくると装備の心許なさが浮き彫りとなってくる。

武器の話ではなく、防具の方だ。


……まだ初期装備だしなぁ、服。

未だ、というか。そもそも防具などに加工出来そうな素材を拾えたのがついさっきのマノレコが初なのだ。

他の本やら骨やらガラスやらは明らかに防具には向かない。

それに、私自身が防具を作れるようなスキルを持っているわけではないのも理由の一つだ。


そのようなスキルを持っていれば、この場である程度の加工を行い、アクセサリー程度の小物は作れたんじゃないだろうか。


「んん……ソロの厳しい所だなぁ」


複数人、知り合い同士でプレイをしていれば役割分担が出来ただろうが、生憎と私はソロプレイヤー。

素材をある程度揃えた後、信用できそうな生産系のプレイヤーをエデンで探すほか無いだろう。

自分でスキルを修得するのも手だが、


「色々手を伸ばし過ぎると首が回らなくなっていきそうだしね」


後々、それこそある程度落ち着いた後ならば良いだろうが、今というゲームを始めたての状況でそれをするのは素材的にも時間的にも勿体ないだろう。

それならばプレイヤーを探した方がマシではあるはずだ。


「――よし、考えてても仕方ないし先に進もう」


『硝子の煙草』を取り出し口に咥えつつ、私は峡谷内を再び歩き出す。

戦闘自体は問題なかった。敵性モブの強さも……あの狼達がこのダンジョンで最弱中の最弱なんて位置付けでなければ十二分に戦える。

但し、数には注意するべきだろう。

……3体が上限で考えた方が良いかな。それ以上はちょっと手に余る。


どういう戦い方をするにしても、私の攻撃手段は手斧に依存する。

適切な身体の動き方が出来ているわけではないが、それでも何の心得もない体術なんかよりはまともなはずだ。

だからこそ、手斧を投擲した時の為の防衛手段を考えておかねばならない。

いくら呼び戻せるとは言っても、投げた直後はどうしようもないくらいに隙だらけなのだから。




「おっと、次は狼と……アレは鹿?」


牡鹿だろうか。

立派な角が生えており、時折周囲を見渡すように頭を左右に振っている。

……しっかり鹿にもオーラ付きか。

狼は少し前に見た通り、そして今回が初見の鹿も赤紫色のオーラを纏っていた。

何を意味しているのか分からないものの、魔結晶なるものがドロップしたのだ。警戒して損はないはずだ。


「匂いで気付かれないし、声でも気付かれないってのは中々不思議な感じだね」


そして先ほどの戦闘時から気になっている事。

それは、敵性モブの索敵能力だ。


狼という形をとっているのにも関わらず、こちらの匂いには反応しない。

普通に声を出しているというのに、何も警戒した様子がない。

野生動物とゲーム内の動物を比べてはいけないのだろうが……それでもこれは少し違和感が残る。


「見た目に騙されちゃいけないってのはよくある話だけど……流石にこれは何かありますよって言われてるようなものだよね」


だが、何がどうあれ。

そういった謎な部分というのは探索していく過程で解決していくものだ。

だからこそ、今は。


「狩りの時間だ」


手斧をしっかりと握りしめ、紫煙駆動を起動する。

瞬間、狼と鹿がこちらへと視線を向け威嚇し始めるものの、少し遅い。

彼我の距離は約20メートル程度。狼や鹿ならば一瞬で詰められる距離だろう。


浅く息を吐き、手首のスナップだけでアンダースローのように手斧を狼へと向かって投げ。

それと共に、私は鹿へと向かって走り出した。

先程まで防衛手段だなんだと考えていたが、それはそれ。

行動によってスキルをラーニング出来る可能性があるのだから、試せるものは試すべきだ。

……ちゃんと考えた後にノリだけで戦うのは楽しいから、ねッ!


一撃食らうだけでも重傷は避けられない。

それが鹿の角ならば、重傷どころか致命傷になり得るだろう。

だが、それなら角を抑えてしまえば良い。……出来るとは思えないが、何事もチャレンジは大事なのだから。


「これで怪力とかそういうタイプのスキルが生えると嬉しいなぁ!」


静かな峡谷での戦闘が、今一度始まる。

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