あの世の裁判、補佐します!?転生裁判所の不思議な日常
和扇
第1話 あの世へGO!
「……はっ!?」
目が覚めた。
するとそこは、見た事も無い場所だった。
「これより開廷する」
二十段はある階段の上、そこに据えられているのは大きな茶色の椅子。赤い背もたれが十メートル近くあって、横幅も二メートルくらい?とにかく馬鹿でかい。両横には巨大な机があって、片方には紙束が富士山のように積まれている。
そんな場所に座っているのは、見た目は十二歳くらいの女の子。座っているので分かりにくいけど、多分身長は百三十センチメートル。黒の髪の毛は身長とほぼ同じで、座っている所に広がっていた。
襟が赤で縁取りされた黒のブレザーの前ボタンは全て外していて、白の長袖ワイシャツの首に巻かれた赤のネクタイも緩く結んでて何ともだらしない印象。
膝上十センチメートル強の長さのスカートには
女の子の手には、あれだ、ドラマとかの裁判長が持ってる木槌?それを持っていて、めちゃくちゃ
ここは一体どこなんだろう。
かなり広い空間で、円筒状の壁に囲まれている。西洋風の重厚な装飾が施されていて、二階より上にはバルコニー席があるみたい。ただ下からでは薄暗くて、そこに人がいるのかどうか分からない。
上は壁がずーっと伸びているだけで天井が見えない。かといって空が見えるわけでも無い。ここは途轍もなく高い塔、なんだろうか?
私の前には半円形の柵。木製らしいそれは、裁判所で被告が立つ場所に設置されている名称不明のアレだ。弁護士や検事はいないけど、ここは法廷、なんだろうか?
ん?
という事は、私は……。
「被告は裁判に集中するように。キョロキョロするな」
「あ、はい」
小さい子に木槌で指されて、私は思わず返事をした。
やっぱり、私は被告であるようだ。少女のお遊び……にしては、あまりにも大がかり。それに巨大な椅子に掛ける彼女は普通じゃない気配というか、尋常じゃない威圧感を漂わせている、気がする。
ざわざわ……
バルコニー席からざわめきが聞こえる。どうやら私が注意された事を笑っているようだ。何を言っているのかは分からないけど、大勢が思い思いに口を開いているのは間違いない。
「……チッ」
椅子に掛ける少女が舌打ちした。結構離れている私にも聞こえる程の舌打ちって、どんだけ不満なんだろうか。忌々しさによって表情は酷く歪んでいる。笑えばきっと可愛らしいはずなのに……。
なんて事を考えていたら。
ダンッ!ダンッ!
「ぅひっ!?」
空間に打撃音が響き、私は驚いて小さく声を上げてしまった。
「静粛に、静粛に!法廷不敬罪で貴様らもここに並べてやろうか?」
しぃん……
少女が持つ木槌が本来の役目を果たしたみたいで、一瞬で誰も喋らなくなった。全く状況が分からないのは継続中だけど、一つだけ理解した事がある。この場所においては、この黒髪の少女が最高権力者、という事だ。
「ふん。ではさっさと終わらせよう」
椅子の肘置きを使って頬杖を突いて、少し低めな声で女の子は言う。彼女がパチンと指を鳴らすと空中に二つ、半透明で太めの縦棒が出現した。
彼女が座る椅子を中央として左右に在るそれは、私から見て右が薄い緑、左が薄い赤。よく見ると縦棒は円筒状で目盛りがあり、メスシリンダーみたいな感じになってる。上は閉じられてるけど。
「被告の生前の行いを審理する」
カンッと木槌を一度叩いた。
結構音が響くから、いちいちビックリする……。
「……面倒だが規則は規則。説明をしてやろう」
尊大な少女は、はぁ、と一つ溜息。本当に面倒臭がってるな、これは。
「ここは『あの世』だ、お前らの言葉で言うならな。つまり、お前は死んだ」
「あ~……はい、分かりました」
「んん?随分と物分かりが良いな、大抵の奴は騒ぐというのに」
彼女は訝しむ。
いやまあ、そりゃそうだよねぇ。でも私、その瞬間をしっかり認識してるんだよ。
「崖から落ちたのも、最期の光景も覚えてますんで……」
しがない会社員、小市民だった私。日々の仕事に疲れ、新しい事をしてみようと
で、足を滑らせて崖からザザザッと。最期の記憶は、凄い勢いで接近してくる剥き出しの岩でした。酷い事になってるんだろうなぁ、私の遺体の顔……。
「ならば話が早い。ここは法廷だ、現世での功罪を元に転生先を判断するためのな」
「異世界転生、って事ですか?」
「近頃そう聞いてくる奴が実に多いが……。死んで転生を望む教えでも流行ってるのか、現世では」
「いや、多分アニメとか小説とかのせいかと……」
「よく分からんが、まあいい。良き転生が出来るかどうか、恩寵を得られるかどうかは生前の行い次第、という事だ」
ニヤリと少女は笑う、決して愛らしい笑みではなくて邪悪な笑顔だ。それだけ今までに、何も得られずに転生させられた、という人が多いという事なんだろう。私は、どうなるんだろうか。
「さて、では始めよう。お前の行い、その功罪の審理を」
カンカンッと木槌が叩かれる。
「まず十歳、友人の持ち物を借りたまま返さなかった。悪行に一ポイント」
左の縦棒の下からひと目盛り、どす黒く輝く赤で満たされた。
「十二歳、交通事故に遭いそうになった老人を助けた。善行に三ポイント」
今度は右の縦棒の目盛り三つ分、綺麗に輝く緑が生じる。
あ、ポイント制なんだ、裁判って。つまりこんな感じで人生を振り返りつつ、やった事の良し悪しを判断する、と。なんだか自分の過去を晒されているみたいで恥ずかしい。
「十四歳、自作ポエムを嫌がる友人に無理やり聞かせ」
「ぎゃーーーーーっ!!!!」
みたい、じゃない!晒されてるんだ、間違いなく!!!
わはははは……
くくくくく……
バルコニー席から笑い声が聞こえる、滅茶苦茶恥ずかしい。
ガンガンッ!ガンガンッ!!
「静粛に、静粛に!黙れ!被告人、お前もだ!法廷侮辱罪で悪行に一億ポイント追加するぞ!」
「ごめんなさいっ!反射的に、思わず……」
まさか三十六歳で
……ん?あれ?
何か私、若くなってないか?
手の肌のハリツヤが十代の子みたいに、茶色の髪の毛のキューティクルも復活してる!?というか身体も軽い感じがするし、眼鏡やコンタクトレンズ付けてないのに視力戻ってる。鏡が無くても分かる、私のダークブラウンの瞳は輝いているはずだ!
おや?トレッキングの服装じゃなくてビジネススーツになってる?なんで?
「あのっ」
「なんだ、一億ポイント欲しいのか?」
「いえ、いりません!そうじゃなくて、私なんだか若くなってませんか?あと服装もトレッキングのそれじゃなくてスーツに……」
混乱する私。女の子は木槌で肩をトントンと軽く叩きながら、面倒な事を聞いてくるな、という顔をする。溜息を吐いた彼女は、渋々といった様子で説明をしてくれる。
「まず肉体はお前の魂が最も安定する姿となっている。享年三十八歳だが、心は十八歳というわけだな」
「私はさんじゅうろく……」
「何か言ったか?」
「いいえっ、何もっ!服装の事も教えて下さいっ」
私は三十六歳で死んだ、断じて三十八歳ではない。
二十歳も若返っていない!年齢が半分になっただけ!
アラフォーじゃない、まだ違う!
違うよね、違うと言ってぇ。
……ってまあノリで言ったけど、年齢はそんなに気にしてはいなかったよ。
「装束は、最も己の印象に残っている物だ。大体は普段着ているものになるが、お前に似た連中はその装束が多いな。伝統的な民族服か何かか?」
「うーん。そう言われたら多分、
もちろん私もだ。だーれが好き好んで無個性なスーツを印象深い服に設定したいと思うか。肉体が十八なら高校の制服とかが良かったなぁ。
いや、内部年齢は三十六だから制服はちょっとキツいかな。そう考えるとビジネススーツというのは無難だね……はっ、この感覚のせいで服がコレになったのか!
「おっと、審理を進めよう。まったく、お前のせいで横道に逸れただろうが。悪行に一ポイント追加だ」
「えええっ!?理不尽!」
暴君だ。見た目は可愛いのに。
私の判決は一体どうなってしまうのだろうか。
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