眠れない、そんなあなたに ケイト&コウ

「…メイ!」


 メイが倒れてしまった。疲れ切ったようだ。

 客がざわめき出す。この期に及んで、まだ文句を言うやつもいる。


「ガク。ガク。」


 ガクは失神。腹部出血。応急処置だけして、コウの元へ。


「コウ。立てる?」

「…全然余裕…です…。うわっ…。」


 頭を打ってフラフラしている様子。


「メイ。」


 ここから声をかけると、メイは手を挙げて返事した。


「…すぐにホテルの人たちが来ると思うので。待っててください。」

「この傷はどうしてくれるのよ!」

「なんでそんな遅かったの!」

「…申し訳ありません。ご要望は本部にどうぞ。それじゃあ…。」


 頑張ってガクを背負い、フラつくコウと疲れ切ったメイを呼ぶ。


「任務終了なので、帰らせていただきます。」


 あー疲れた。


♢♢♢


 …ん?


 明け方の5時くらいに、ハッと目が覚めた。

 あんだけフラついてたのに、いざとなったら眠れない。マジでこの体を呪う。

 ところで今、誰かの声が聞こえた。あ、ほらまた。苦しむ声だ。なにここ、呪われてる?でも声は先輩の部屋の方から聞こえた。

 壁に耳をあてる。…やっぱり先輩だ。先輩が何かにもがき苦しんでいる。

 急いで部屋を出た。


「うわっ。お前起きてたのかよ。」

「コウ、ケイトがなんかちがう。」


 いつも通り廊下に布団を敷いて寝ているメイも、今は起きていた。

 恐る恐る部屋のドアを開ける。すると…。


「グッ…うぅ……っ!」


 先輩が立っていた。苦しみながら、頭をかかえながら。


「大丈夫ですか?」

「っ……!」


 何かが違う。そう思った時だった。


「うぁ…っ!」


 先輩がガッと俺の首を掴む。まずい!そう思った時には…


「コウ!ケイトやめて!」


 あーまずいなぁ。押し倒された挙句、首絞められてる。っていうか力強すぎ…!

 でも、俺が見た先輩は、今にも泣きそうな顔をしていた。助けてくれと訴えるようだった。

 メイも先輩を背中から引っ張っているのに、先輩は動かない。腹の底から力を込めて、手を外そうとする。あんな顔、先輩には似合わないから。


「先輩…!……ケイト!」

「っ!」


 力が緩んだ隙を狙って、手を引き剥がす。反射でケイトの背中へ手をまわした。


「…落ち着いてください…。ケホッケホッ、はぁ…。深呼吸してください…。」

「…うっ…っ……。」

「…大丈夫です。俺もメイもいます…。落ち着いて…。」


 メイも一緒に背中をさする。先輩が段々と脱力していく。そしてコテンと寝てしまった。


「…はぁ…。」

「…ケイト気絶した?」

「寝ただけ。…ガクが目覚めたら聞いてみよ。」

「誰が目覚めたって?」

「ガク!」


 ガクが壁に手をついて立っていた。

 俺にもたれて眠るケイト、少し汗ばんでいる俺、ケイトの隣に座るメイを見て、あーと声を漏らす。


「こいつ、薬飲み忘れたんだな。」

「え?」

「ああ、これだよ。本部から特別に支給されてんだ。」

「…睡眠剤?」

「あいつ、優しすぎるところがあってな。もう何年もこの仕事なのに…、いまだに敵を殺すことに嫌悪感があるんだ。だから自分が殺してしまった日の夜は眠れなくて、頭だけがパニックになって暴れ始める。」

「…そっか、嫌悪感があるからケイトは…」

「ああ。素手じゃなくて銃なんだ。あれなら敵に触れないでいいからな。まあとにかく、また暴れ始めたら、今みたいに安心させてやれ。っていうか…メイも寝てねえか?」

「ほんとだ…。」

「よっ、コウにいちゃん!」

「うるせえ。」


 そして少し遅めに起きた朝。ケイトは全て忘れてしまっていて、普通に朝食を作っていた。


「ケイト。今日は遅めに開店しますか?」

「うん。っていうか、いつからケイトになったの?」

「…数時間前から。」

「え?」

「気にしないでください。」

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