罵声は引き金にあり コウ

「ここか…?」

「そうみたい…。」


 ザラザラの正体は、この中にいる。大きいものなので、思ったより強そう。今までを見た漢字、割と強そう。メイも不安からなのか縮んでしまっている。


「…お前大丈夫かぁ?」

「…大丈夫。メイ、おねえちゃんだもん。」

「なにそれ。」

「おまじない。教えてくれた人は忘れたけど…。」

「…それじゃあ、おねえさん。そろそろ行こうか。」

「うん。」

「じゃあ行きまーす。」


 バコッ


 蹴破られたドアから見えた景色は、最悪のものだった。華やかなワンピースやシャツに身を包んだ人たちがよせ集まって身を縮め、ステージにはよだれをダラダラと垂らした『なにか』がひとりの女性の腕を掴んでいる。あ、血が。


「…なんだお前ら…。」


 すぐさま周りにいた奴らが銃を構える。


「…その人を置いて、手を上げろ。」


 先輩の命令口調。空気が変わった。

 『なにか』はカカッと笑って、血を舐めた。手を俺らの方に向ける。一斉にその仲間が跳んだ。最近多いんだよな。束になってかかってくるやつ。


 ダダダッと銃が乱射されるが構わず飛び込む。よし。まず1人目。すると先輩が声をあげた。


「コウ!周りの人達に気をつけて!」


 まずい忘れてた。ここには一般人が多数いる。

 多数に気を配りながら、なんとか仕留められないか考える。いや体を動かせ。もっと速く。

 

「はぁ…はぁ…。」


 ようやく半数を仕留めた。客達を背に、相手を睨む。場は膠着状態だ。その時。


「はやくやっつけなさいよ!」


 誰かの声が響く。

 

「あんたたちが遅かったせいで、指を食べられたわ!」


 それに感化され、またひとつ。

 おいおい嘘だろ…。


「それがお前らの仕事だろ!」

「なんで止まってんだ!」

「はやく助けてよ!」


 ワーワーと背後からの罵声が鳴り止まない。『なにか』は楽しそうにそれを眺める。

 なんだコイツら…!言い返そうと振り向くが、ガクがすかさず言った。


「コウ。落ち着け。」


 静かに、低く。


「…はやく行けよ!!」

「お前も!」


 メイと先輩が強く突き飛ばされた。まずい。突然すぎて準備ができていない。敵はすぐそこだ。メイと先輩が、やられる。どっちを助けるべき?まずい。はやくしないと…!


ザッ……


「…いってぇ…。」

「ガク!」


 ガクがメイをかばった。その高い背丈を生かして。腹から血が滴る。


「コウ!コウ!」


 あれ…大丈夫だと思ったのに…。

 頭がクラクラして、バタリと倒れてしまう。どうやらモロに頭にバールが当たったらしい。俺、結構頑丈な方だと思ったのに…。


バンバン!


 先輩が襲った2人の頭を貫いた。観衆が静まり返る。

 段々と、自分の心音が大きくなっていく。待ってこれ大丈夫…?いや、大丈夫。いける…まだ…。まだフワフワした頭で上半身を起こす。


「…メイ。まだいける?」

「っ……!頭が……。」

「…なら僕だけで」

「おっとそれはやめてもらおうか。」


 苦しむメイをひとりがとらえる。メイは衰弱して元の姿に戻ってしまった。

 『なにか』は悠々と椅子に腰掛ける。そして撃とうとする先輩を目の端に、メイに銃口を向けた。


「…少し話そうか。嬢ちゃん。」


 

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