僕らの夜はまだ明けない

真白いろは

たったそれだけ

誰かの朝 ケイト

 …暑い。暑すぎる。


 結局寝ることができずに朝を迎えてしまった。でもまだ6月なんだ…遅いなぁ。

 さあ、二度寝を…。


「せんぱーい。」


 え?と見ると、後輩が開け放たれた窓から入ってくる。


「朝っすよー。起きてくださーい。」

「もうすこし…。」

「ダメでーす。はい起きてー。起きてくださーい。」


 目覚まし時計のように、あまりにも繰り返しそう言うから、渋々布団から這い出る。

 ねむい。めっちゃねむい。


「また寝れなかったんですか?」

「…まあ。」

「いいかげん、睡眠薬を飲むことをおすすめしますよ。」

「そっちはいいよね…。どこでも寝れて。」

「まあ環境とか気にしないんで。」


 ここはとあるビルの一室。いや、ビルと言っても3階建てで、ここが僕の家なのだ。そして後輩はよく僕の部屋に忍び込む。


「…はぁ…。」


 大きなため息をひとつ。最近…というかずっと、疲れているのだ。後輩のせいではない。きっと、眠れていないせい。


 今日も始まってしまった。


「先輩めっちゃ眠そー。」

「いつもだろ〜。」

「コレ嫌い!あげる!」

「ちゃんと食え。」

「うわ兄ちゃんっぽ〜い。」

「うるせえ、お前は黙れ。」


 実に賑やか。僕が会話に参加せずともここまで生き生きとコミュニケーションを取れるのか。

 納豆をぐるぐるとかき混ぜて、あったかいご飯の上に乗せる。


「それ食べたい!」


 少女が言う。まんまるな目をキラキラと輝かせてこちらを見ている。


「それ先輩のだからダメだって。」


 後輩がすかさず止めに入る。後輩はご飯に辛子明太子を乗せて食べていた。真っ赤で、いかにも辛そうなのに平気で食べている。


「…食べる?」

「やったぁ!」

「先輩ダメですよ〜。」


 僕は押しに弱い方だ。こうも目を見られてお願いされると断れない。そんな僕を、ひとり笑いながら見ているやつがいた。


「お前ら今日も元気だよな〜。」


 僕のビジネスパートナー。トーストされた食パンにバターを塗りながら、一歩引いてこの状況を楽しんでいる。あいつは親しみやすいやつなんだけど、どこか大人っぽいところもあるようなやつだ。


 この世界は、人間と得体の知れない生物が共存している。ある者は目がなかったり、ある者は口から炎を吹けたり、またある者は水中でも息ができたりする。

 しかし、その得体の知れない『なにか』は、時に凶暴化してしまうのだ。人間を食べたいという純粋な食欲に呑まれてしまう。誰に限らず、無意識に。

 だから僕たちは、そんな『なにか』と人間の関係の均衡を保つための組織で活動を行っている。言わば人間のヒーロー。


 まあ、そんなかっこいいことじゃないと思うけど。


 うちのチームにも『なにか』がいて、トーストのやつとお願いしてきた少女がそれだ。前者は口以外顔のパーツがない。いや、本人いわくあるらしいけど、見つからない。そして少女は分かりやすく短いツノが2本生えていた。

 後輩は人間だが、人間と『なにか』のハーフらしい。おかげでかなり頑丈だ。ちなみに僕はただの人間。1番普通だ。


 ああそうそう。『なにか』を倒す手段は、『宝石』を割ることだ。中に入って手でパリンと思いっきり。

 まあ心臓を刺したり頭を砕けば死ぬんだけど、なるべく綺麗に殺してあげたいじゃん?コアのような宝石を狙うしかないんだよね。ちなみに壊せるのと宝石がないのは人間のみ。


 またひとつため息をついて、新しくもらったロールパンを口に放り込んだ。

 …これ、ジャムない方が好きなんだよな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る