プラトニックの成れの果て

天川裕司

プラトニックの成れの果て

タイトル:(仮)プラトニックの成れの果て



▼登場人物

●小野久 伊代(おのひさ いよ):女性。40歳。独身OL。結婚したい。実は浮気性。

●掛川義也(かけがわ よしや):男性。43歳。提携先の社員。伊代のフィアンセ。

●男1~3:20~30代。不特定多数の浮気な男達のイメージで。

●秋葉益代(あきば ますよ):女性。40代。美人。伊代の理想と欲望から生まれた生霊。


▼場所設定

●伊代の自宅:都内にある一般的なアパートのイメージで。

●プラトニック:お洒落なカクテルバー。益代の行きつけ。

●街中:デートスポットやホテルなど必要ならで一般的なイメージでOKです。


▼アイテム

●美容サプリ:益代が伊代に勧める特製の錠剤サプリ。飲んだ人に素敵な出会いが訪れる。

●Beauty of Reality:益代が伊代に勧める特製の液体サプリ。飲んだその人の美しさ・魅力を最大限に発揮させる。


NAは小野久 伊代でよろしくお願い致します。



イントロ〜


あなたは、今すぐ誰かと結婚したいですか?

その前に幸せと刺激一杯の恋をしたいですか?

最近の現代人は、この恋愛と結婚を混同し、

結婚してもまだカップル感覚で居る人も多いようです。子供ができたあとでも。

今回は、どうしても愛する人と結婚したい

それもプラトニックな恋愛がしたい…

と求めてやまなかった或る女性にまつわる怖いお話。



メインシナリオ〜


ト書き〈自宅でパソコンを前にして〉


伊代「ふぅ。やっぱり私、だめかな…」


私の名前は小野久 伊代(おのひさ いよ)。

今年40歳になる独身OL。


私は早く結婚したかった。

本当なら27歳位で結婚し、愛する人との家庭を持ち子供を持って、

暖かな家庭を作るのが夢だった。


でも、それが叶わなかった。

キャリアウーマンでこれまで来た私は恋愛する事を忘れ、

知らない内にこの歳まで来てしまったのだ。


伊代「まぁ、周りにもそんな人は多いからね…」


確かに今は晩婚の時代。

結婚してない人も居れば生涯を独身で通すと言う人も居る。


今日も婚活サイトを覗いていたが、やっぱりどうしてもその気になれない。


会った事もない人をどうして愛せるの?

どうして結婚相手に選べるの?

そんな、私にとっては当たり前の疑問が先に湧き、

婚活サイトを通して結婚できる他の人に比べ、

私はどうしても毛色が違った。


でも結婚はしたい。でも愛する人がいない。

このどうしようもない現実に打ちのめされて、

やがてこれまで自分を落ち着けてきたその言葉に身を潜め、

理想をごまかして生活していく。


ト書き〈カクテルバー〉


そんなある日の会社帰り。


伊代「はぁ。今日はちょっとどっか飲みに行こっかな」


久しぶりに仕事が早く片付いたので、

行きつけの飲み屋街へ足を向け、今日は心行くまで飲もうと思った。


そうして歩いていると…


伊代「ん、新装かな?」


『プラトニック』という全く見た事のないバーがある。

ちょっと新しいもの好きだった私はそこへ入り、

いつものようにカウンターについて1人飲んでいた。


愚痴を吐きながら飲んでいると…


益代「フフ、こんばんは♪お1人ですか?もし良ければご一緒しませんか?」


と1人の女性が声をかけてきた。


彼女の名前は秋葉益代(あきば ますよ)さん。

都内で恋愛コンサルタントやメンタルヒーラーの仕事をしていたようで、

その仕事柄かどこか上品で落ち着きもあり、

何となく理知的なイメージを漂わせてくる。


でもそれだけじゃなく、彼女にはどこか不思議な魅力があった。

「昔どこかでいちど会った事のある人?」

と言う印象がかなり強烈に漂い、そのせいで少しずつ心が開放的になりだし、

気づくと私は彼女に今の自分の悩みを打ち明けていた。


この人にどうしても自分の悩みを解決してほしい…

そんな気持ちにさせられたのだ。これは不思議な体験だった。


益代「結婚…ですか?」


伊代「え、ええ。こんな事こんな場所でお話しするのは恥ずかしいんですけど…私、この歳になるまでまともに恋愛した事もなくて、結婚の夢だけが大きく膨らんで、今その事で悩んでるんです。どこかに良い人が居ないかなんて探してはきたんですけど、どこにも居なくて…」


私は今の気持ちを洗いざらい彼女に伝えた。

すると彼女は…


益代「なるほど、それで悩まれてるんですね。結婚したいと思える人が居ない。その条件が整わず、タイミングもなく、何より自分が婚活に対する気持ちがわかない。でも結婚はしたい…そう言う事ですか?」


伊代「ええ、まぁ…。矛盾してるみたいですけどね…」


益代「いいえ、よくわかります。理想と現実は違うものとよく聞かれると思いますが、それはこんな気持ちにも表れてるんです」


伊代「え?」


益代「つまり理想だけが先行して現実がついてこない。これは誰にでもある現実のハードルだと思いますが、そのハードルを乗り越えられない人が結構多いんですよ。だから悩みになって、いつまでも引きずる一生の問題にまでなったりするんです」


伊代「は、はぁ…」(何となく聞いてる)


結構ストレートに言う人だと思った。


益代「良いでしょう。ここでこうしてお会いできたのも何かのご縁です。私が一肌脱いで、あなたの夢を叶えて差し上げましょうか?」


伊代「…は?」


そう言って彼女は持っていたバッグの中から袋入りの錠剤を取り出し、

それを私に勧めてこう言ってきた。


益代「こちらを試してみて下さい。これは私どもが経営する美容サロンで実際取り扱ってる美容サプリです。あなたは今でも充分美しいですが、男性の心を射止めるには運も必要になります。美しいだけの高嶺の花では誰もそこに登ってこれず、その美しさを花は枯らしてしまうだけ。そうならない為にも出会いのタイミングが必要で、このサプリはその運を引き寄せる為の魅力をあなたに与えます」


伊代「ど、どう言う事…」


いきなり早口で言われたので何が何だか解らなかったが、

あとから理解が追いつく形で段々解り、

つまりこの錠剤を飲めば私は結婚できる人と出会える…

そう言っている事がわかった。


ここでもう1つ、彼女の大きな魅力に気づく。

他の人に言われても絶対信じない事でも

彼女に言われるとその気にさせられ信じてしまう。


私はその場で錠剤を受け取り、1粒飲んでいた。


益代「フフ、お役に立てて何よりです。今回はあなたのお悩みを少しでも軽くして差し上げようと私がお勧めしましたから、このサプリの代金は無料で結構です」


伊代「え?いや、そういう訳には…」


益代「いえいえ構いませんよ。毎日、朝晩、その錠剤を1粒ずつ飲んで下さい。必ず数日で効果は現れるでしょう」


伊代「…これ、10粒なんですね…?」


益代「ええ。それだけで充分です。つまり今日から5日後に、あなたのもとに素敵な出会いが訪れます」


伊代「ほ、ほんとですか…」


益代「ええ、信じて下さい。何事も新しい事を始める時、運命を開拓する時というのは、まず自分の力を信じ、魅力を信じて、その将来に必ず幸せがやってくると信じ尽くすことが大事です」


伊代「はぁ…」(感心しながら聞いてる)


ト書き〈5日後〉


そして5日後。

彼女の言った事が本当になった。


義也「君みたいな素敵な人と出会えるなんて、僕は本当に幸せだよ。これからもずっと一緒に居て、幸せな家庭を作ろうな」


伊代「私もあなたのような素敵な人と出会えるなんて…」


なんと、婚活サイトも飲み会も友達の紹介も何にも必要とせず、

会社の提携先の社員だった掛川義也さんという素敵な男性が、

いきなり私の前に現れて告白してくれたのだ。

「前からずっと気になっていた」なんて言われつつ。


私はこの歳だから、

もしかすると子供を持つ事はもうできないかもしれない。

体質がそうだったのだ。


でも彼はそれを快く受け入れてくれ、

私との将来に本当に幸せな夢を見てくれていた。


本当にこんな幸せが私の人生にやってくるとは…


ト書き〈カクテルバー〉


それから数日後。

私はまた1人であのカクテルバーへ立ち寄っていた。

すると期待通りに彼女が居てくれて、

私はそばに駆け寄り今の気持ちを全部彼女に伝え、

心の底から感謝した。


伊代「益代さん!本当にどうも有難うございます!私、本当に素敵な人と出会う事ができたんですよ!」


益代「まぁそうでしたか。それは本当によかったです」


伊代「ええ!これも全部、あなたのお陰です!本当に、本当に有難うございます!」


私はもう幸せの絶頂。

それを聞いて彼女も自分の事のように喜んだ。


でもこの時1つだけ彼女はアドバイスをしてくれた。


益代「フフ、幸せそうで何よりです。あ、伊代さん、この前お伝えするのを忘れてましたが、1つだけ、あなたに守って頂きたい約束があるんです」


伊代「え?約束?なんでしょう?」


益代「まぁこんな事をあなたに言う必要はないと思いますけど、あのとき渡したあの薬は、あなたにとって特定の人との関係だけを幸せに結び、それ以外の恋愛には全く効果はありません」


益代「つまり今出会ったその方を生涯大事にして、浮気はしないでほしいと言う事です。でなければ、きっとあのお薬の副作用として、あなたの身とんでもない事が起きると思いますので…」


なんだか少し怖い事を言われてると思ったが…


伊代「…あはwなぁんだ、そんな事ですか。大丈夫ですよ。私に限ってそんな事は絶対ありませんから。私、前にお話ししたように、これまでまともに恋愛した事がなかったんです。結婚も諦めてました。でもこうして今その幸せを手にする事ができて、報われた自分を思うと、彼がどれほど愛おしくて有難い存在か…その事が心に染みてわかるんですよ」


伊代「大丈夫、私はプラトニックな恋愛でも、彼とずっと生涯一緒に添い遂げられる覚悟があります。元々そう言う恋愛のほうが私には向いてるんです。だから婚活サイトも出会いを期待する飲み会も、私はその気になれず、行けなかったんだと思います…」


私はそのとき思いつく限りの正直を言った。


益代「そうですか、それなら安心ですね。でも一応念の為、くれぐれも今私が言った事を忘れないように」


伊代「はい!有難うございます」


益代「フフ。あ、そうそうもう1つ、せっかくですからあなたにコレを渡しておきます」


そう言って彼女はまた持っていたバッグの中から

今度は栄養ドリンクのような瓶入りのジュースを取り出し、

それを私に勧めてこう言ってきた。


益代「これは女性の美しさを最大限に発揮させる『Beauty of Reality』と言うこれもまた特製のサプリメントで、今出会われたその方の心をいつでも惹く為、ぜひお試し下さい。繋ぎ止めたその愛を、更に補強する為のサプリです」


伊代「へぇ、そんなのあるんですね。有難うございます!本当に何から何まで」


益代「いいえ構いません。そちらも無料で結構ですよ」


伊代「本当に有難うございます!」


ト書き〈トラブル〉


なんて素敵な人だろう益代さんは。


新しく貰ったその美容サプリの効果も確かなもので、

数日後、私は周りから絶世の美女…と噂される程になっていた。

会社でも噂され、プライベートで街中を歩く時でも同じ状況。


でもそんな時、やっぱり私の身に新しい出来事がやってきた。

あとから気づけばこれがトラブルの元だったのだ。


男1「あの、僕と付き合ってくれませんか?」

男2「君に付き合ってる人が居るのはわかってる。でもそれを承知で僕は君と付き合いたいんだ」

男3「俺と付き合ったらイイこと沢山してやるぜ」


いろんな男が私の周りに集まってくる。

まるで地面に咲いたキレイな花に、

沢山の生き物が集まってくるかのように。


(変わっていく経過)


伊代「あ、あの、困ります。私もう結婚を約束した人が居るので…」

伊代「じゃあちょっとだけですよ…」

伊代「う〜ん、どうしよっかなぁ〜。じゃあ美味しいもの食べに連れてってくれる?あとブティックとかいろんなもの買ってくれたら付き合ったげるわ」


そんな日々を過ごす内、私も変わった。


ト書き〈オチ〉


そんなある夜のホテル帰り。


男「じゃあな〜、また遊ぼうぜ〜」


伊代「うん〜!また会おうねぇ〜」


私の美貌に惹かれる男は、もう心の底から私にゾッコン。

私の言う事なら何でも聞いて、

美味しい物も高価な物も全部持ってきてくれる。


伊代「フフ、この歳になっても、まだこんな人生を歩めたなんて。なんて素敵な夜かしら」


あれからすっかり変わった私は、

もう心のフィアンセ・義也の事など気持ちの片隅に置いていた。

そのまま放置の形で、

とりあえず体裁を繕う為にだけ結婚してやってもイイ…

そんな気持ちになっていたのだ。


義也はもちろん私が浮気している事を知らない。

彼は疑う事を知らない性格だから、

それも私にとってはとても都合が良い。


そして路地裏に差し掛かった時、いきなり後ろから声がした。


益代「こんばんは」


伊代「きゃあ!!…え?…ま、益代さん?!」


人通りの少ない通りを歩き、それまで全く人の気配もなかったのに

いきなり現れた益代さんに私は恐怖した。


益代「本当に素敵な夜。でもこんな素敵な夜に、あなたは今までどこで何をしてたんですか?」


伊代「…え?」


益代「…フフ、隠したって無駄ですよ?あなた今まで浮気してたでしょう。その人だけじゃなく、他にも沢山おられますよね?…あれだけ言っておいたのに。せっかく出会えた運命の人・義也さんだけを大事にし、生涯一緒に添い遂げられる生活の土台を造るようにと…」


伊代「あ、あの…いや、これは…」


余りにも冷たい鋭い彼女のその目に、

本当にヘビに睨まれたカエルのように、

私は一歩も動く事が出来ないでいた。


益代「もう遅いです。あなたの幸せは逃げました。あなたにはこれから責任を取って貰いましょう。私との約束を破り、彼を裏切ったその罰です」


そう言って彼女が指をパチンと鳴らした瞬間、

私の意識は飛んでしまった。


ト書き〈地下深くにある個室のような空間で〉


次に目覚めると、私はほとんど真っ暗闇の空間に居た。


伊代「こ…ここ、どこなの…」


はっと見上げると、目の前にパソコンがある。

私は飛びつくようにパソコンに向かい、

何とかココから出られる情報を探そうとした。


でも結局、何時間…何日たってもそこから出られず、

パソコンに向かう私の目的は、次第に別の方向へと変わっていった。


ト書き〈街中〉


男3「おっ、伊代からだな?w」


伊代「ね、ねえ、今からすぐに会えない!?どうしても会って欲しいのよ!」


男3「おう、イイぜ〜w」


私はいろんな男にメールや電話をしている。


男1「いや、会うのはイイんだけどさ、キミ連絡ばっかりで、全然会ってくれないじゃないか?」


伊代「…会いたいの…私ここから抜け出して、誰でもイイから人と会いたいのよぉおぉ!!!」


ト書き〈何にも無いとある場所の地面を見ながら〉


益代「フフ、私は伊代の理想と欲望から生まれた生霊。何とか夢を叶えようとしてあげたのに、彼女が自らその欲望で夢を壊してしまった。今、彼女が居るのは電子の空間。この地中深くに私がその空間を作り上げ、そこに住まわせてあげた」


益代「その部屋から2度と出る事はない。彼女はこれから一生をその空間で過ごす事になる。彼女に出来る事はもう、電子ツールを通して沢山の男にその愛を伝える事だけ。愛と言う名の欲望を…ね。でもまさかあれだけ純情ぶって、こんなに多くの男と浮気していたなんてねぇ」


益代「そこで沢山の人と恋愛しなさいな。…但し、あなたが最初に私に言ったプラトニックな恋愛を…ね。フフ、あなたにとっては最大の罰になるかしら?」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=S48Lf8sFfV0&t=284s

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プラトニックの成れの果て 天川裕司 @tenkawayuji

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