パニック障害

天川裕司

パニック障害

タイトル:(仮)パニック障害



▼登場人物

●宮奈夢斗(みやな ゆめと):男性。45歳。独身サラリーマン。パニック障害。

●上司:男性。50代。夢斗の会社での上司。一般的なイメージでお願いします。

●岡田信二(おかだ しんじ):男性。60歳。夢斗の古い知り合いの小父さん。縁談の形で島岡恵美という(岡田の)知り合いの女性を夢斗に紹介する。恵美はセリフなし。

●瀬尾流(せおる)ユメミ:女性。30~40代。夢斗の悩みと欲望と本能から生まれた生霊。


▼場所設定

●某会社:夢斗達が働いている。都内にある一般的な商社のイメージでOKです。

●Dream Peace of Mind:都内にあるお洒落なカクテルバー。ユメミの行きつけ。本編では主に「カクテルバー」と記載。

●夢斗の自宅:都内にある一般的なアパートのイメージでお願いします。


▼アイテム

●Real Life Recovery:ユメミが夢斗に勧める特製の錠剤。心の病全般に効く。でも依存性も強くその効果は次第に効かなくなる(体が薬に慣れて効かなくなるのと同じ形で)。

●最後にユメミが勧めるカクテル:名前は設定してません(どこにでもあるような普通のカクテルでOK)。これを飲むとその生涯ずっと眠りにつく事になり暖かな夢を見続けられる。


NA宮奈夢斗でよろしくお願い致します。



イントロ〜


あなたはこれまでに、何らかの障害を患った事がありますか?

今では現代病の1つとしても知られている精神病。

いちど心を病んでしまえばその淵から逃れる事はなかなか出来ず、

心が曖昧であるゆえ、治る時期も確約できない

曖昧なものとなってしまいます。

今回は、そんな精神病に悩み続け苦しみ続けた

ある男性にまつわる不思議なお話。



メインシナリオ〜


ト書き〈会社〉


夢斗「…であるからして、今年の営業利益の見込みはごく限られてしまう事になってしまうかと…」


俺の名前は宮奈夢斗。

今年45歳になる独身サラリーマン。


俺は以前、精神病を患っており、その病気の名前はパニック障害。

自律神経失調症が悪化してパニック障害を発症してしまい、

主治医が言うには、

「程度は軽く、障害の等級からしても3級が妥当なとこでしょう」

との事だったが、その病気から来る不安や恐怖や苦しみと言うものは、

人知れず、本当にツライものだった。

まさに、断末魔の苦しみと言って良いほど。


この疾患に罹った人はおそらく分かるだろうが、

まるで心臓が止まるほどの苦しみを受け、呼吸のリズムが狂えば

それだけで必ずその不安と恐怖が莫大な苦しみを持ってきて、

人混みの中にはもう居られず、人によって違うが

その状況が少しでも落ち着かないものなら

その後は必ず同じ苦しみがやってくる。


俺はそうした苦しみに約10年間耐えてきて、

総合病院で精密検査を繰り返した後、

異常が無いのを確認しながら心から安堵して、

その後はずっと心療内科に通い続け、薬を貰い

投薬治療と生活リハビリで何とか克服できた。


そう信じていたのだ。


でも、人の心が曖昧なのと同様に、

この病気は治る時期が確約されない。

つまりいつ又その病気による発作が出るかも分からず、

次はその不安と恐怖に苛まれていく。


俺はパニック障害をとりあえず克服した後、

30代後半からまた再就職に向けて奔走し、

今ようやく都内のこの会社に入社でき、

2年目を迎えて取りあえず落ち着いていた。


しかし、またトラブルがやってきたのだ。


ト書き〈トラブル〉


上司「宮奈君、この前の君の営業成績、まさに光るものがあったよ。これからもその調子でやっていってくれたまえ」


夢斗「あ、有難うございます!」


俺はまた病気に罹る前と同じようにして、

この会社で精一杯働いていた。

でもこれまで働かなかった分、無理が祟っていたのだろう。


仕事の多忙で生活リズムがまた崩れ始め、

昼夜逆転生活をまた余儀なくされて、

夜になかなか眠れない日々を送り、

その結果…


(トイレで1人で)


夢斗「ハァハァ…ダメだ…!ま、また苦しくなってきた…」


またパニック障害が再発したのだ。

再び襲ってきたこの不安と恐怖と苦しみ。

またこの苦しみを誰にも理解されないまま、日々が過ぎて行き、

俺はそのパニックからくる不安と恐怖に耐えられなくなってきていた。


そしてついに…


上司「そうか。君も大変だったんだなぁ。…でもそんな状態なら、この先ここで働いても、きっと君が苦しむだけだろう。何か、別の道を考えたほうがいいんじゃないか?」


上司にその事を報告すると、それだけで

弾かれるように俺はこの会社を辞めさせられて、

また無職の身となり、ハローワークと自宅との往復生活が始まった。


俺がこのパニック障害に罹ったのは10年前の事。

10年前ならまだ若く、30代ながら再就職の道も確かにあったが、

40を過ぎて今となるとあの頃とはもう勝手が違い、

就職の道はほとんど閉ざされた。


そして就労支援施設と言うところを紹介されて

そこへ通うようになったが、そこですらまともに働く事ができず、

俺は在宅ワークを余儀なくされた。


まだ在宅ワークと言う家庭での仕事環境があったから良い。

でも在宅ワークと言うのは水物のようなもので、

稼げる時もあれば稼げない時が多いもの。

ほとんど無職の状態に落ち着いていた。


ト書き〈カクテルバー〉


そんな生活を繰り返す内、俺は段々自暴自棄になってしまい、

もうこんな苦しみから逃れ、出来るだけ早く楽になりたい…

そう思うようになり、その時したい事だけをして

それで果てるならそれでも良い…

その覚悟で毎日の生活を送るようになった。


そしてなけなしの金を持ち、俺はある日、

それまでちょこちょこ通っていた飲屋街へ足を向けた。


久しぶりに来たからその飲み屋街の様子は少し変わっている。

知らない店も増えていて、何となく歩いていた。

していると、少し気を引く店を見つけ…


夢斗「ここに入るか」


と俺はその店に入った。

店の名前は『Dream Peace of Mind』。


夢斗「夢の中でこそ、安心できる…か」


そしていつものようにカウンターにつき、1人飲んでいた時。


ユメミ「こんばんは♪お1人ですか?よければご一緒しません」


と1人の女性が声をかけてきた。


彼女の名前は瀬尾流ユメミさん。

都内でライフコーチやメンタルヒーラーの仕事をしていたようで、

どこか上品でありながらあったかい感じの人。


俺がこの店を選んだ理由はほとんど人が居なかったから。

パニック障害を患う俺は人混みが苦手。


でもその人は少し印象が違い、一緒に居ても疲れない。

それどころかもっと一緒に居たいと思わせてきて、

その上で自分の事を無性(むしょう)に話したくなる。

自分の悩みを聞いて貰ってその悩みを解決してほしい…

彼女を見たとき第一印象でそれを感じた。

これは不思議な体験だった。


そんな調子で俺は彼女を隣に迎え、それから暫く談笑し、

軽く自己紹介し合って、話題は世間話から悩み相談のような形になった。


ユメミ「え?パニック障害…なんですか?」


夢斗「ええ。もう10年間苦しんできてますけどね、なかなか治らず、ついこの前にもそれが理由で会社をクビになっちゃって。今は在宅ワークの毎日です。その在宅ワークにしてもなかなか稼げず、普通の人生を歩む事はもう出来ないのかなぁ…なんて思ったりしてます」


こんなこと人に言ったってどうにもならないけれど、

でも彼女にはなぜだか聞いてほしい…その思いで喋っていた。


彼女は真剣に俺の話に耳を傾けてくれ、

少し悲壮な表情を浮かべながら、

俺のこの悩みを本気で解決しようとしてくれたのだ。


ユメミ「そうでしたか。ごめんなさい。そんなこと全然知らずに声をかけてしまって」


夢斗「いえ、全然構いません。なんだかあなたは不思議な人で、普通なら誰かと一緒に居ても緊張したりして苦しくなるんですけど、あなたと居るとそれを感じないんです。初対面なのにねw」


俺は少しずつ本音を言いながら彼女に寄り添っていた。

そして彼女は…


ユメミ「そう言って頂けて私も嬉しいです。分かりました。ここでこうしてお会いできたのも何かのご縁でしょう。私がそのお悩みを、少し軽くして差し上げましょうか?」


夢斗「え?」


そう言って彼女は持っていたバッグから

よく処方される時に貰う薬の袋を取り出してきて、

それを俺に勧めてこう言ってきた。


ユメミ「それに入ってるのは心の病の全般に効くお薬で、『Real Life Recovery』と言う処方薬です。私こう見えて実はその昔、心療内科を個人経営の形で都内で開業していた事がありまして、実は私も少し前までそのパニック障害に罹っていた事があったんです」


夢斗「え?そうなんですか?」


ユメミ「ええ。ですから今あなたの話を聞きながらつい昔の自分を思い出したりもしちゃって、あなたの事を何とか助けてあげたい…そう思いました。その薬は私が丁度それで悩んでいた時、苦しんでいた時に処方されて飲んでいた物で、その効能は個人差に関係なく誰にでも効くものですから、今のあなたと昔の私と同じように悩み苦しんでる患者さんからすれば、結構重宝されているお薬なんですよ?」


ユメミ「いかがですか?そちらを試してみられますか?見たところ、あなたは自律神経失調症からパニック症を患っているようですね?でしたらそのお薬の効果は丁度良いと思います。もともと緩いお薬ですので副作用はほとんど無く、問題なく続けて飲めると思いますよ」


彼女はやっぱり不思議な人だ。

普通こんな場所でそんなふうに薬を勧められても

それを信じて飲む人などほとんど居ないと思うのに、

彼女にそう言われると信じてしまう。


その気にさせられ、俺はついその薬を手に取り、

その場で早速1粒飲んでいた。


しかもユメミさんは俺に同情してくれたのか。

「その薬は無料(ただ)で差し上げます」

とまで言ってくれ、必要なら定期的に

然るべき所で処方して貰い、それを続けて俺に渡してくれる…

とまで言ってくれたのだ。


夢斗「…でもどうして僕にここまでしてくれるんですか?」


と聞いてみたが、やはり俺の事を助けたい一心で…

と彼女は返答してきた。


ト書き〈その後〉


それから数日…数週間…数ヶ月と過ぎていった。

そのあいだ俺は貰った薬をずっと飲み続け、

何とか回復しようと試みていた。


でもその甲斐あったのか。

俺はまた少しずつ元の調子を取り戻し、元気になっていた。


夢斗「凄い…この薬、本当に効き目があったんだ、俺にも」


そう思いながらまた仕事に精を出し、

俺はまた元の生活を取り戻そうとしていた。


ト書き〈カクテルバー〉


それからまた後日。

俺はあのカクテルバーへ立ち寄っていた。


するとユメミさんがまた前と同じ席で飲んでおり、

彼女を見つけて俺はすぐそばに駆け寄って

この前のお礼と共に、今の自分の生活がかなり変わってきた事…

それを伝えて彼女に一緒に喜んで貰おうとした。


ユメミ「そうでしたか♪本当によかったです」


夢斗「ええ♪本当にあなたに貰ったあのお薬が僕にもちゃんと効いてくれて、今こんな感じでまた生活に覇気を取り戻す事ができました。本当に有難うございます!こうして変わる事ができたのはあなたのお陰ですよ」


彼女もやはり心から喜んでくれ、俺の将来まで祝福してくれた。

でもこのとき少し気になる事も言ってきた。


ユメミ「あなたに渡したあのお薬ですが、確かに効き目はあるんですが、飲み続けていくと少し依存性の強い所もありまして、その薬の効果に体が慣れてしまうと少しずつですが、効き目が薄れていく事もあるんです」


夢斗「え?」


ユメミ「まぁ薬と言うのは全般的にそういうものですので、別にあなたに渡した薬に限った事じゃありませんが、あなたは何とかその薬の効能がある内に次の生活への覇気を自力で身に付けるように努力して、その後は薬なしでも、自分の力で生活の土台を築いていくようにしてほしいんです」


つまり、あのとき貰って

今飲み続けているこの薬の効果には限りがあり、

その内この薬を飲む事から離れ、あとは自力で又

このパニック障害を克服していかなきゃならない。

彼女はこの時そう言ってきたのだ。


夢斗「…まぁ、確かにそうですよね」


その時は一応納得したのだが、やはり自信がない。

これまで、元の生活を取り戻そうとするその事への挑戦は、

人知れず、何億回もしてきたのだ。


それでも克服する事ができず、俺は彼女に会うまで

その事で不安と恐怖と苦しみに苛まれ続けてきていた。

つまりまた同じ繰り返しにならないか?

と言う事への不安と恐怖がこの時また顔をもたげてきたのだ。


ト書き〈数ヵ月後〉


それから数ヵ月後。


彼女の言った通り、俺は貰った薬を飲んでも

なかなかパニックによる不安と苦しみから

逃れる事ができないようになっており、

薬を飲んでも苦しい、夜もなかなか寝付けない…

そんな日々を送るようになっていた。


夢斗「クソゥ!…こんな薬飲んだってもう駄目じゃないか!…全くこの世の物には何にでも限りがありやがる…!」


俺は又いっときから自暴自棄になり始め、

在宅ワークでなけなしの金を稼ぎながらも

その仕事にすら集中して長時間就けないようになっており、

これからどうしたものか…本当に悩んでいた。


ト書き〈転機〉


でもそんな時。

少しだけ…いやかなり嬉しい転機がやってきたのだ。


岡田「実は彼女、あなたのブログを見てあなたの事が気にいったようで、ぜひ縁談話を進めて欲しい…とまぁこう言ってきてるんですよ?いかがですか?彼女に会って見られませんか?」


岡田さんと言う古い知り合いが俺の家に来て、

彼の知り合いの島岡恵美さんという人が

俺が昔から続けていたブログの内容を見てくれていたとの事で、

それを見て俺の事を気に入り、ぜひいちど会ってみたい…

そんなふうに申し出てくれたらしいとの事。


「まさかこんな状態の俺が結婚できるなんて」

正直その嬉しさがあり、俺はその持ちかけてくれた話を

快く受け入れ、「もし出来るなら…」と彼にその旨を伝えた。


つまり彼を通して俺の正直な気持ちを彼女に伝えて貰い、

俺のほうもその縁談話に乗り気である事を彼女に知って貰いたい…

そんな事を言っていたわけだ。


その俺のブログは結構前に書いていたもので、

昔、小説家志望だった俺のオリジナル作品をそこに載せたり、

オリジナルの歌をアップしていた

自分のYouTubeサイトのリンクを貼り付け紹介していたりと、

まぁ昔取った杵柄的な、輝かしい過去の自分の栄華

のようなものをそのブログに満載の形で載せていた。


きっと彼女もそれに魅せられ、俺の事をもっとよく知りたい…

なんて思ってくれていたのだろう。


でも、そこでトラブルが起きたのだ。

それから僅か数日後。

彼女は俺に会う前に、その縁談話を破談にしてきた。


理由は、直近に俺がYouTubeにアップしていた動画の内容。


その頃にはすっかり自暴自棄になっていた俺だったので、

パニック障害特有の発作で

断末魔の苦しみを味わっていたさなかの自分の姿を、

1人でも多くの人に見せつけてやろう…

世界中の人に自分が苦しんでる姿を見せつけて

その苦しみの姿を無理やり共有させてやろう…

そんな気持ちでアップしていたそのYouTubeの内容を全て見た彼女は…


「こんな人と一緒になるなんてとんでもない」

「自分にこんな人の世話をするのは荷が重過ぎる」

「将来、自分にこの人と一緒にやっていける自信が全くない」


そんなふうに思ったのだろう彼女はすぐ岡田さんに連絡し、

「今回の縁談話はなかった事にして下さい」

とはっきり伝えたとの事。


ト書き〈カクテルバー〉


夢斗「…やっぱりこうなるのか」


自分はまともに恋愛する事も、結婚する事も、もう出来ない。


パニック障害を克服できる人も居ればできない人も居る。

つまりそこにこそ、個人差がはっきり現れるのだ。


俺は又その意味で挫折を覚えさせられ、

でもどこか吹っ切れた気分で世間と自分との間に距離を置き、

又あのカクテルバーへ行って飲む事にして、

もしそこで運良くユメミさんに会えれば、

そこで出来れば今の気持ちを聞いてほしい…

そんなふうに思いまた店に駆け込んでいた。


すると彼女はまた前と同じ席に座って飲んでおり、

俺が店に入ってきたのを見つけると

前と同じように歓待して俺を迎えてくれて、

それから暫くまた談笑し、俺の気を和ませてくれた。


そこではっきり気づいたのだが、

彼女に対しては不思議と恋愛感情と言うものが湧かないのである。


それどころか、

「どこかで昔会った事のあるような人?」

と言う印象が強烈に漂ってきて、それで身内のような感覚になり、

ただ自分にこうして寄り添ってくれているだけで良い…

そう言う思いにさせられてくる。


だからか俺は何の体裁も繕わず、

心の正直をそのまま彼女にぶつける事が出来てしまう。


そして、そこで俺はそのとき自分が思い、

感じていた本音を彼女に全て暴露していた。


夢斗「もう嫌になりました、この世間が。この世間はおそらく自分には合いません。その証拠が、今自分が罹っているこの病気に証明されてる…そんなふうに思うこともあります。…ねぇユメミさん。出来れば、今のこんな僕をすぐに助けて頂けませんか?いや、出来ればじゃない。あなたにはそれが出来るんでしょう、多分?あなたは不思議な人だ。実はあなたに会った初めからそれを感じてたんです。だからあなたは僕の前にあのとき現れて、今までこうして寄り添ってくれてる」


夢斗「ここへ来る時も、なんだかいつもあなたは先回りするように僕の前に居てくれて、こうしてやっぱり話を聴いてくれる上、その時々でアドバイスをくれたり、現実の生活において僕を助けてくれた。…そうなんでしょう?あなたは、きっと僕を助けてくれる為に、僕の前に来てくれたんじゃないんですか?」


俺はその時もう半分、狂っていたのかもしれない。

普通の人が言わないような事を彼女に言っている。


でも彼女はやっぱり

俺の妄想のようなそんな言葉を真剣に聴いてくれ、

このあと、本当に俺を助けてくれたのだ。

少し、思っていたのとは違う形だったが。


ト書き〈オチ〉


ユメミ「…分かりました。ではそうしましょう」


彼女は俺にそう言われて、

まるで自分の本性を明かすように冷静に俺の顔を見つめ、

その姿勢で指をパチンと鳴らし、

そこのマスターにカクテルを一杯オーダーし、

それを俺に勧めてきてこう言った。


ユメミ「それをお飲みなさい。それであなたの夢は叶えられます。あなたがこれまで苦しんできたいろんな事…それも全部、払拭されるように無くなります。あなたはそれで、夢のような生活を手にする事が出来るでしょう。…もう、信じて下さいとは言いません。あなたは心の中で私の事をもう解ってますね?さぁどうぞ、お飲みなさい…」


俺は彼女の顔を見たまま、

差し出されたそのカクテルを一気に飲んだ。


ト書き〈夢斗のアパートで夢斗が眠り続けるのを見ながら〉


ユメミ「フフ、今日もスヤスヤ眠ってるわね。この世の何の苦しみも感じず受けず、思い煩う事なく夢の中。パニック障害にしても他の心の病にしても、この世で覚醒し、普通に生活しているからこそいろんな外的刺激を受けてしまい、それで調子を崩し、その症状を自分にもたらす。心の病、気の持ちようなんてよく言われてるけど、そんな生易しいもんじゃない」


ユメミ「気の持ちようで治るならとっくに治ってる。自分の理想や夢とは正反対に、アンコントロールの状態でそうさせられるから悩むのよ。そしてその悩みが不安と恐怖を膨大にして苦しみに変え、その苦しみを直接心身にもたらしてくる。治る人も居れば治らない人も居る。社会はおそらく治る人にだけスポットを当て、治らない人はそのまま見捨てられるような存在(もの)になる…」


ユメミ「ゆっくりお眠りなさい。眠ってれば、普段の生活でその心はもう覚醒しないから、体は本来のリズムを取り戻し、自然治癒の形であなたを苦しめない。もし少しぐらい苦しくなっても、意識がないからそれを感じる事ももうないわ」


ユメミ「私は夢斗の悩みと欲望と本能から生まれた生霊。その心の奥底にある悩みを解決する為だけに現れた。…夢斗は途中で私の正体に気づいた。そして私と居るその空間にこそ自分の安らぎがある…そう思ったのよね。あなたが眠っている間、私がずっとそばに居てあげる。あなたの身の周りの世話をして、その寿命が尽きるまで、私があなたのその夢と現実を守ってあげるわ。こうでもしないと、世間はあなたを守ってくれなかったからね…」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=IZJiteXy8yY&t=319s

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パニック障害 天川裕司 @tenkawayuji

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