第14話 ミッドウェーからソロモンへ

【前書き】

自作に共通するデジャヴがあります。苦手な方はブラウザバックを推奨します。


【本編】


 ミッドウェー海戦は米国と豪州に楔を打ち込んだ。


「ミッドウェーで勝ったからソロモン諸島を早期に制圧する。ツラギを主とするフロリダ諸島の横浜航空隊が窮地に陥った。これを見捨てるわけにはいかない。連合艦隊の具申も理解できる。ソロモン諸島の掌握はニューギニアを締め上げられ…」


「いわゆる米豪遮断作戦をニューギニアの包囲に使えるというか。富士はミッドウェーで釘付けにされた」


「50万トン戦艦がミッドウェーで釘付けにされている。それは米軍も同じこと」


「米軍の気がミッドウェーと50万トン戦艦に向いている間に米豪連絡を断つべし」


 軍令部と連合艦隊はMI作戦完了後の次段作戦で真っ向から対立した。連合艦隊は山本長官を筆頭にハワイ早期攻略を訴える。米海軍の戦力が揃っていない再建期間中に本丸を攻め落としたい。一方の軍令部は陸軍の要望を踏まえてソロモン諸島の制圧を打ち出した。両者共に米軍が満足に動けない好機を逃さない点で共通するが、ソロモン諸島かハワイかで折り合いがつかず、今日も今日とて激論が繰り広げられる。


 連合艦隊がハワイを攻略して日米決戦の早期決着を望むことは言うまでもない。軍令部も(将来的にだが)ハワイを攻略することを決定事項に据えた。今は地盤を固めると無人のソロモン諸島に注目する。米国と豪州の連絡を断つことを優先した。いわゆるの米豪遮断作戦は陸軍の要請も含まれる。


 陸軍は中華の泥沼の内戦に静観を貫いた。火の粉を振り払う程度の行動しか採らないため、日米決戦に中華に投入するはずだった兵力を転用でき、ニューギニアの極一部に進出して米軍の反攻作戦に備える。米軍はニューギニアからの反攻作戦を狙っており、米豪遮断作戦を通じてニューギニアを孤立化させたく、海軍軍令部が示した南太平洋の掌握を歓迎した。


「米海軍の空母の稼働数は我が方に及ばない。大反攻作戦が始まるのは来年以降と読み、今のうちにソロモン諸島を制圧して南太平洋を掌握すれば、ハワイへの進撃も楽になろう」


「空母も戦艦も少ない時期に本丸を攻め落とす方が早いのでは?」


「ハワイに突っ込んでいる間に南方地帯が脅かされては本末転倒だ。万難を排してから攻め落としたい」


「これでは平行線だな…」


 軍令部と連合艦隊による名ばかりの協議は平行線である。ミッドウェーに展開する50万トン戦艦の鮫島中将が「ハワイは本艦が睨んで動けない。南太平洋で存分に暴れ回っていただきたい」と私見を述べた。連合艦隊と軍令部は互いに譲歩して「ハワイへ圧力をかけつつ米豪遮断作戦を遂行する」でようやく合意に至る。二兎を追う者は一兎をも得ずと言われた。実際は米豪遮断作戦の遂行を基本とする。ハワイは飛行艇の強行偵察および潜水艦の本土連絡遮断を以て掣肘を加えた。


~ツラギ島~


 フロリダ諸島ツラギ島は最前線に位置する。日本海軍の横浜航空隊(水上機部隊)が進出して飛行艇と水上偵察機による偵察活動を行った。米軍の動きを把握するのに最高の拠点だが、ラバウルやラエから遠い故に孤立の恐れが呈され、ツラギ島の兵士は自嘲気味に「見捨てられた島」と綴る。


「こんな孤島に増援なんか来るわけがない」


「いいや、絶対に来てくれる。ラバウルとラエから来るぞ」


「いい加減にせんか。海軍はツラギを見捨てないどころか本格的な整備に着手する。ツラギを泊地に変えるんだ」


 そこへフロリダ諸島へ増援が送り込まれる旨の連絡を受け取った。ツラギ島を泊地と変えて艦隊を常駐させることでニューギニアへ向かう船団を襲撃する。しかし、横浜海軍航空隊だけでは制空権の維持に困難を覚えた。ラバウルとラエからは遠く非現実的である。そこで、ソロモン諸島を制圧して中間拠点に据えるのだ。ツラギ島の負担を軽減しようと試みるが、現地の兵士はそんなことは露知らず、現地指揮官を除いて信用する者はいない。


「うん?」


「飛行機のエンジンの音だ! 空襲か!」


「退避ぃ!」


 最前線の日常は敵機襲来に占められた。米軍の前線拠点と睨み合う都合より敵機襲来は日課に等しい。自分達も飛行艇を飛ばして偵察するのだからお互い様だった。二式水戦と零式水偵が緊急発進するが、水上機に陸上機の迎撃は酷なことであり、地上の人員は大急ぎで防空壕へ駆け込む。


「落ち着けい! あれは連絡機だ! 日の丸が見えんか!」


「えぇ?」


「味方の飛行機なんて見る機会が少ないもので」


「どこかに着陸する気だな」


 監視塔から「友軍機と確認した」と入ると誰もが胸を撫で下ろした。敵機襲来が日常ではレシプロエンジンの音を微かに聞くだけで警戒態勢に突入する。肉眼で視認できるまで低空に降りて来た機体は連絡機と見えた。どうやら、着陸したいらしい。誘導員が平坦に整えた草地へ案内した。連絡機は不整地の運用を想定しているため、ツラギ島の不整地でも十分に着陸でき、なんと見事な着陸に自然な拍手が送られる。


「あれは見たことがない。」


「陸軍の機体だろうが、九七大艇みたいだな」


「どこから飛んで来たんだ? ラバウルやラエから届くか?」


 ツラギ島守備隊司令の鈴木正明中佐が出迎える。すぐにタナンボゴ島から横浜海軍航空隊司令の宮崎重敏大佐を呼び寄せた。現地の鈴木中佐と宮崎大佐の2名に連絡機から降りて来た1名を加える。この3名で木造の司令部に重要な話し合いの場を設けた。


「明日か明後日には増援が到着する?」


「はい。陸海軍の輸送船団が殺到するでしょう。ツラギ島を本格的な泊地に変えますが、飛行場を建設することに向かないため、ソロモン諸島のガダルカナル島に進出します」


「ガダルカナル島? 聞いたことが無いぞ」


「それもそのはず。我々も初めて聞きましたから」


 連絡の兵士は地図を取り出して机の上に広げる。お手製の割に精細に書かれた。両名から思わず感嘆の声が漏れる。ツラギ島の真下にガダルカナル島が置かれ、お隣さんにもかかわらず、名前を知らなかったと恥ずかしがった。


「ここに飛行場を建設すれば爆撃機に悩むことは無くなります。陸攻隊が進出すれば敵飛行場を爆撃して根本から断てる」


「敵の輸送船団も?」


「全て断絶できるわけです」


「なるほどな。それより、飛行艇と水上機はいただけるのか」


 宮崎大佐はガダルカナル島よりも自身の水上機部隊を優先する。これに頷いてから「強風と瑞雲、二式飛行艇を優先的に供給します」と答えた。宮崎大佐は満足そうに笑う。米軍の陸上機を相手に孤軍奮闘を続けてきたが、二式水戦は間に合わせの中継ぎに過ぎず、零式水上偵察機はあくまでも偵察機であり、待望の新型機を受領できると喜んで当然だった。


「しかし、米軍がみすみす見逃してくれるかどうか」


「そうだな。あれだけ偵察機と爆撃機を飛ばしてくるんだから」


「詳細はお伝えできませんが、万全を期しております」


「噂の超巨大戦艦が来る」


「お答えいたしかねます」


 いくらミッドウェーで勝利したと雖も敵軍の目と鼻の先で工事をすることは危険を極める。輸送船団が無事に到着する保証はなかった。鈴木中佐と宮崎大佐は危機感を覚える。両名に詳細こそ伝えられないが、万全を期しているらしく、それこそ噂の50万トン戦艦が来訪するかなど聞いてみた。残念ながら、返答は「いたしかねる」が並べられる。


「とにかく、フロリダ諸島は見捨てておりませんので、受け入れの用意を大至急でお願いいたします」


「あいわかった。これで兵士の士気が元に戻ろう」


「新型機を頂戴できればそれでいい」


 ミッドウェーに勝利するか敗北するか問わなかった。


 日米決戦の次なる舞台はソロモンに置かれる。


続く

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