腕時計
私は機械式の時計が大好きで、スマートウォッチは使わない。
あの、カチカチと秒針を刻む音が大好きなのだ。仕事で企画を考える時に耳元に当てて、時を刻む音を聞きながら思考に浸る。もう、癖になっているのでそれをしないと落ち着かない。
さて、隣の席に新人が配属されて来て、直接の担当ではないけれど、お手伝い程度の手助けをすることになった。
「先輩、どうして腕時計を耳に当てるんですか?」
素直な質問が嬉しくて、あれこれと説明した。彼の腕にはスマートウォッチ、機械式ではないから無理だねとも伝える。
数日後、彼は飛び抜けて素晴らしい企画書を仕上げて来た。私が見ても部長が見ても非の打ち所がなく、些細なところを詰めて修正を入れたら走らせることとなった。
「凄いね、負けてらんないわ」
「先輩のおかげですよ」
「どういうこと?」
彼曰く、スマートウォッチに耳を当てて、秒針の音を想像し、さらにそこから企画を思案したらしい。
彼には勝てないかもしれない。
そう直感する。
こちらは秒針の音を現実で聞いて思案するが、彼は未来の秒針を聞いているに違いない。だから三手先を読むかの如く、能力と掛け合わさり素晴らしい企画書ができたのだろう。
だが、負けてはいられない。
こちとら現実の秒針を長く聞いて来たのだ。耳に腕時計を当ててみる。秒針の音は変わらずにいつも通りで、まるで 焦るなよ。 と時が諭してくれているようだった。
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