1-9.勇者の力

一旦、私の目論見は脇において考える。




村人達の気持ちはわかったが、

セーナはまだ10歳だ。


前世の感覚に引きづられて、

何も知らず暮らしていても良いのではないか、

15歳になってから村を出るように説得するのでも遅くはないのではと思ってしまう。




だが、この世界の10歳は違う。

特に魔法を使える者は顕著だ。

しかも光属性の適正だ。国に知られれば強制的に連れて行かれることだろう。


幸か不幸か、村人に光属性の希少性を知る者がいなかったため、

その手段は取られていない。


ゲームと違い、現時点で魔物との戦闘まで行っている以上、

国に知られるのも時間の問題かもしれないが。





結局、セーナの運命は決まっているのだ。

私だけはそれを知っている。

ゲームの中では殆ど強制的につれてこられたのだろう。



もしかしたら、ピッコ村に対しての優遇措置でも計られたのかもしれない。

勇者を差し出す代わりに、再度領主の庇護下に入れるような。




流石に私の取れる手段ではない。

当然、高位貴族である父であってもそこまでは口出しできないだろう。



あれ?というか、セーナの事を父に話してしまったら、

最悪の場合国から横槍が入って従者になんてできないのでは?


何も考えず喋ってしまう前に気が付けて良かった!




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一先ず、セーナからも話を聞く。

セーナの家に招かれ、早速話を始めた。


「改めまして、私はアランシア公爵家の娘、リリィ・アランシアと申します。」


「貴族様!?」


「言葉遣いは変えないでくださいね。

セーナさんとは仲良くなりたいのです。

そして、我が家にお越しいただき、私の専属従者となっていただきたいのです!」





「なぜわたしなの?村長に頼まれたから?」


胡散臭さ半分、戸惑い半分の表情でセーナは問う。






「私は幼い頃にある夢を見ました。」


夢ということにして、前世の記憶から一部を抜粋して説明する。




私の話を黙って聞いていたセーナはしばらくして、語りだした。


「あなたは嘘をついているけど全部じゃない。

本気で私と仲良くしたいと思ってる。

けど、少しの企みも感じるし、深い怯えも感じる」


「こんなに複雑な感情の人は初めて見た。」


「わたしは心を開いてくれた人の感情が見えるの。村の皆にも教えた事は無いけど。」


「この家に入って来てからのあなたは今まで見た誰よりもはっきり見える。」


「村長の家で何があったの?」





まっじで・・・

セーナにそんな能力があるなんて

ゲームでそんな描写無かったはずなのに。


光属性には精神系の魔法もあったはず

まさかこの子感覚で魔法を使っているのだろうか。


皆から突然冷たくされて原因を知りたくて・・・




「すごい悲しみ。わたしのことを悲しんでいるみたい。

あなたはコロコロ感情が動くのね」


「うん。あなたはとっても良い人なんだね」


「わたしの事情は村長から聞いているのでしょう」


「わたしも貴方に興味が湧いたよ。もっと知りたいな」



私が何も言えずにいるのに、読み取った感情を答えに、セーナはどんどん続ける。

久しぶりに会話ができて嬉しいのかもしれない。


戸惑い過ぎたせいか、好奇心が勝ったのか私もちょっと楽しくなってきた!



そのまま、セーナが質問し、黙ったままの私から感情を読み取る、奇妙な会話が続いていった。


気が付くと、夜も遅くなり泊まっていくことになるのだった。

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