1-5.勇者探し

「またハズレかぁ」


串焼きを頬張りながら町を歩く。

今のリリィはボロい服に目深に被った帽子もあり、

とても貴族令嬢には見えない。

どこにでもいる少年のようだった。




あれからリリィは時間を見つけては、屋敷を抜け出し

王都から遠く離れたヴィオラ領に飛んできていた。


結局地図を手に入れる方法は思いつかなかったので、現地で情報を集めることにしたのだ。

先ほども、屋台のおじさんから串焼きを受け取りながら質問していたところだ。


探し始めて2年近くにもなるのに見つからない。

よっぽど僻地にある寒村なのだろう。


まあ、そもそもそんなに頻繁に抜け出せているわけでもないのだが。

月に一度抜け出せればマシな方。

ただ、それでも範囲的には終わりが見えてきたのでもう少しの辛抱だ。




「まあ、この串焼きが美味しかったから、良しとしよう!」




せめて、ゲーム中にスチルでもあればヒントになるだろうに、

本当に村の名前しか情報がない。


ゲームはセーナが学院に入学するところから始まるし、

特に過去が語られることも無かったので、今何をしているのかもわからない。

出身地がわかっているだけでも幸いだった。




そろそろ帰らないと間に合わないなと思い、村の外にでる。

十分村から離れたことを確認し、飛行魔法を使用する。


この魔法にも慣れたものだ。

実際に使う機会が増えると、屋敷に籠もって研究していた時に比べ

進歩する速度が段違いだ。

改良を重ね、飛行速度も距離も格段に成長した。




最初は気付いていなかったが、飛行中はとても目立つ。

この世界に飛行魔法は存在しなかったし、飛行機の類も無いので、

何も考えず最初に訪れた村の近くに着陸した時は大騒ぎだった。


天使様が降臨された!と跪く爺様達にビビって、直ぐに飛んで逃げてしまった。


あの村の近くには二度と行けないな・・・

というか、天使っているのだろうかこの世界。





宗教はどうなっているのだろう。

王都に教会は無かったはずだが。

ゲーム中にも教会や宗教に関する登場人物はいないので、設定自体ないのかもしれない。



ともあれ、二回目からは十分に離れた位置に着地してから村に向かうようにしたし、

あまり大きな町には近づかないようにしている。


門番とかいると入れない可能性があるのだ。

まさか貴族令嬢としての身分を明かすわけにもいかないし。



飛行魔法の精度が上がってからは、できるだけ速度を上げて気づかれにくくしている。

視認できなければ、まさか少女が飛んでいるとは思わないだろう。



高速で飛行する際、風の繭を作って自分に影響が無いようにしているのだが、

これを上手く改良して外部から中身が視認できないようにならないかと研究中だ。

ステルス機みたいにできればより安心して飛べるだろう。



王都が近づいてきた。

今度は町の外ではなく、そのまま屋敷の裏庭に飛び込む。

王都も門番突破できないししかたないね。




このときの私は王都を出歩いたことが無かったこともあり、

気がついていなかったが、当然目撃されていた。


その結果、王都のどこかに天使が住んでいるという噂が広がっていたのだった。






部屋に戻り、外出用の服を隠して普段着に着替えたところで、

久しぶりに父が部屋を訪れた。

直接部屋まで来るなんて珍しい。


「お久しぶりです。お父様。いかがなさいましたか」


きっちり叩き込まれた礼儀作法を披露する。

今のは上手くできたんじゃないかと呑気に考えていた。



「どこに行っていた?」



ふぁーざーはマジギレだった



「裏庭で魔法の訓練を」


用意していた言い訳を即座に放つ

訓練内容や本当の実力は話せないが、魔法が好きなことはバレているし、

いざとなったらいくらでも成果を披露できるので、開き直ることにしていた。



「しらばっくれる気か」


おっとなにか知っているようだ。

でも正直に話すわけにもいかないのでとぼけるしかない。


見当がつかないと態度で示しつつ、黙っていると



「お前の婚約が決まった」



!?

やっば忘れてた!


そう、リリィはもうすぐ十歳である。

ゲームでは一応、悪役令嬢枠なので、婚約者がいたのだ。

それが十歳の頃に出会うこの国の第一王子、レオン殿下である。


レオン王子はパッケージの真ん中に描かれている、

ゲームの主役の一人だ。


どうせ婚約破棄されるのだからと王子本人にはあまり興味を抱いてなかったのだが、

それはそれで重要な存在なのだ。

なにせ私の成長限界を解除するには王子との婚約破棄が必須なのである。



「相手はレオン第一王子だ。近日中にお会いすることになる。

くれぐれも粗相の無いようにするのだぞ」


顔つきも声音も厳しいままそう告げる父。



突然ハンカチで私の頬を拭い、そのまま立ち去るのだった。



どうやら、串焼きの汚れがついていたようだ。

完全にやらかしですね。


最近ではめったに会うこともなくなり、会っても厳しい言葉しかでてこないのに、

なんであんなに手つきは優しいのだろう。

あんなあからさまな証拠まであったのに、結局問い詰めることも無かった。



昔のリリィと違い、いつまでもお転婆な私を嫌っているのではないかとも悩んでいたが、

そうではないのだろうか。



自分のバカさ加減と、父の行動に衝撃を受けて、

婚約の事も頭から吹き飛び、立ち尽くすのであった。

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