かんべんして! 闇に狙われた学校③

「そういえば、次の授業、見田先生だよね」


 色々あり過ぎて忘れていたけど、先生は今日、来ているのかな?


 昨日の戦いの後、先生がどうなったかを確認していない。


「授業、始めるわよ」


 見田先生は何事もなかったかのように教室へ現れ、いつも通りの授業をした。


 変わった様子はない。



「あ、あの……」


 授業が終わった後、見田先生に声を掛ける。


「何か質問かしら?」


「授業のことではないんですけど、先生、昨日はどうしたのかなって」


「え?」


「実は昨日、スマホを落としたことに気付いて、結構遅い時間に学校へ帰ってきたんですけど、先生の車がまだあったので……」


「あっ、そういうことね。昨日はいつの間にか職員室で寝てしまったの。最近、疲れていたのかしらね」


「……そうだったんですね」


 嘘を言っている様子はない。

 

 何も覚えていないんだ。


 まぁ、そっちの方が好都合かな。


 でも、また見田先生の負の感情がコミュクスを作り出したら、どうしよう。


「あ、あの、先生、疲れているなら、無理は良くないですよ」


 面倒事を増やしたくない、という下心から出た言葉だった。


「心配してくれてありがとうね。次の授業へ行くわ」


 見田先生は教室から出て行き、私は次の授業の用意を始めた。






 授業が終わり、放課後、私は生徒会室にいた。


 新体制で仕事をこなす。


「内田さん、これは去年と同じやり方で良いか?」

「うん、良いよ」


 私は副生徒会長の河原君とやり取りをしていた。

 彼も私と同じで一年生の時から生徒会に関わっている。

 その為、要領が分かっているのでとても頼もしい。


「内田さん、予算案ってこんな感じで良い?」

「えーっと……うん、大丈夫そう。流石、早いね」


 会計は同じ学年の岡崎さん。

 同じ学年だけど、クラスは違うし、生徒会で関わるまではあまり話したことのなかった。

 でも、理数系のテストでずっとトップを取っているのは知っている。

 前評判通りの処理能力だ。


「内田先輩ぃ、生徒会新聞の最初の話題ぃ、どうしますかぁ?」


 そんな風に聞いてきたのは書記で一年生の高橋さんだった。

 彼女は文芸部に所属しているらしく、文章を作るのが得意。

 その為、議事録の他に生徒会新聞の作成もお願いすることになった。


「話題かぁ……あっ、そうだ」


 私は松谷さんに言われた野球部の関東大会のことを思い出す。


「女子野球部はぁ、うちの学校の話題の中心ですしぃ、良いと思いますぅ」


「俺、初めから行く予定だったから、記事のネタをまとめて来るよ。関東大会をやる球場も行ったことあるし」


 河原君がそう言ってくれた。


 でも、任せっきりだと申し訳ない。


「私、松谷さんから試合を見に来ないか、って誘われていて、一人で県外へ行くのはちょっと不安だったけど、行ったことがある河原君がいるなら、安心できるし、同行しても良い?」


 河原君は即答で「いいぞ」と言ってくれた。


「だったらぁ、私も行きますぅ。野球はよく分かりませんけどぉ、生で見た方がぁ、記事にもしやすいでしょうしぃ」


 意外なことに高橋さんも乗り気だった。


 岡崎さんは……結構、ツン、としているし、あまり興味無さそう。


「私も行く」


 だから、そう言われた時、ちょっと驚いた。


「生徒会メンバーで足並みを揃えた方が良いと思っただけ」


 どうやら、顔に出てしまっていたらしく、岡崎さんにそんなことを言われてしまった。


「それなら、先生が車を出しますよ」


 そう言ったのは生徒会顧問の森山先生だった。


「良いんですか?」


「ええ、生徒会として動くのに顧問だけが何もしないのは他の先生方に何か言われそうですし」


 森山先生は苦笑した。


「ありがとうございます。じゃあ、日曜部、集合場所は……」


 日曜日の予定の詳細を決める。


「じゃあ、俺、約束があるから」


 業務が終わると河原君が真っ先に退席した。


「うん、じゃあね」


 河原君がいなくなったところで、


「河原君、気まずかったりするかな?」


 岡崎さんと高橋さんに聞いてみる。


「何が?」と岡崎さんは不愛想に言った。


 眼鏡をかけていて、目つきが悪いので少しだけ話すのを躊躇ってしまう。


 でも、生徒会長として、心配事は取り除きたい。


 何か失点をすれば、内申点に響いてしまう。


「ほら、女子が三人だから、河原君はやり辛いかなって」


「河原君はあまりそういうことを気にするタイプに見えない」


「だと良いけど、その点は高橋さんもだよね。一年生は高橋さん一人だけど、大丈夫そう?」


「はいぃ」と高橋さんは語尾を伸ばす。


「先輩たちは優しそうですしぃ。特にぃ、まー姉は面倒見も良いしぃ」


 まー姉?


「涼花、学校でまー姉って呼ばないでくれる」


 岡崎さんが反応する。


 確か、岡崎さんの下の名前って、麻萌理……それでまー姉。


「二人は知り合いだったの?」


「はいぃ」と高橋さんが言う。


「家が隣だっただけ」


「まー姉、酷いですぅ」


「だから、まー姉は止めて」


 二人に面識があったことは知らなかった。


 でも、良いことだ。


 一から人間関係を作るのは大変。


 この二人が知り合いだったというだけで、心配事は一つ減る。


「さてと今日は私たちも解散しようかな」


 岡崎さんが「分かった」、高橋さんが「はいぃ」と返し、今日は解散することになった。


 放課後、またコミュクスが現われるかな、と警戒していたけど、何も起きなかった。


 帰宅し、夕食を食べて、お風呂に入る。


 勉強しようとしたけど、睡魔に襲われた。


「仮眠をしてから、勉強しよう…………コミュクスとかは……まぁ、朝一で一回戦ったし、今日はもう何も起きないよね?」


 一時間のタイマーを掛けて、私は一旦、寝ることにした。


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