第二話 かんべんして! 闇に狙われた学校①

 魔法少女の前に現れる妖精悪魔を名乗るクラシーのせいで、私の日常は完全に破壊された。


「ほら、行くよ」


「眠い……」


 早朝、クラシーに叩き起こされ、近くの公園に現れたコミュクスの対処をする。


「なんで、私がこんな目に……」


 魔法少女へ変身し、昨日と同じように戦って、レーザーライフルでコミュクスを消滅させた。


「って、もうこんな時間!? 学校に遅刻する!」


 急いで家に帰る。


 生徒会長になった次の日に遅刻とか冗談じゃない。


「あら、どこに行っていたの?」


 家に帰って来たら、お母さんに心配された。


 お父さんは昨日の内に出てしまったようで、もういない。


「ちょっと早く起きちゃったから、散歩に行ってきたの」


「それは良いけど、このままだと遅刻するんじゃない?」


「だから、もう出るね。行ってきます!」


 私は急いで着替え、学校へ向かった。




「朝食、食べたかったな…………」


 二限目が終わった時、私は呟く。


 朝からコミュクスと戦って、必死に自転車を漕いで遅刻を回避して、流石に疲れた。


「どうしたの? 紫音らしくない」


「なんだ、美希か……」


「親友に対して、なんだ、は酷くない?」


 美希はムスッとする。


「ごめんごめん。ちょっと色々あって、寝不足と空腹」


「何があったの? まぁ、いっか。はい、これ」


 美希は菓子パンをくれた。


「お腹、空いているんでしょ? 次の授業までに食べちゃいなよ」


 どうやら、バレていたらしい。


「ありがとう」


「いえいえ、これで我が新聞部の部費を……」


「賄賂を渡して、部費アップを企まないで。私には何も出来ないよ」


「残念」と言い、美希は笑う。


 美希に貰った菓子パンを食べたら、少しだけ元気になった。


 さて、これでお昼まで頑張れる、と思っていたら……


「かわいい、白猫ちゃん」

「どこから入って来たの?」

「何か咥えている?」


 そんな声が聞こえてきたので、教室の入口の方を見る。


「…………!?」


 学校に入ってきた白猫とはクラシーだった。


 は?

 何でここにいるの?


 わざとらしく、私に向かって「ニャー」と鳴く。


「なんで、猫が校内へ入っているのかな?」


 私は平坦な口調で言いながら、クラシーを捕獲し、教室を出た。


 みんなは少し驚いていたけど、先生に見つかるよりはマシだ。


 そして、空き教室を見つけて中へ入る。


「学校に来るとか、どういうつもり!?」


 私は怒っていたのに、クラシーは全然気にせず、「忘れものだよ」と口に咥えていた変身用ペンダントを渡そうとする。


「ペンダントなんて付けられない。校則違反になっちゃう」


「なら、ポケットにでも入れておくと良い。私が近くにいない時、敵の魔法少女やコミュクスが出現したら、大変だろう?」


「そうかもしれないけど……あっ、時間!」


 三限の始まりを報せるチャイムが聞こえた。


 話し合っている時間は無いので、クラシーからペンダントを受け取り、ポケットに突っ込んだ。


「他の話はお昼休みにして! 上手く隠れていてよ!」


 クラシーは「ミャー」とわざとらしく鳴く。


 やっぱり、魔弾を一発くらいぶち込みたい! と思いながら、急いで教室へ戻る。

 

 そして、三、四限の授業を受け、クラシーを置いて来た空き教室へ向かう。


 しかし、そこにクラシーはいなかった。


 空き教室だった場所は複数のグループが昼食に使っていた。


「じゃあ、どこに行ったの? そうだ…………」


 魔法少女になってから、変な気配を感じることが出来るようになった。


 それが多分、魔力反応だと思う。


「いた……」


 人の寄り付かない別棟の二階でクラシーを発見する。


「教えていないのに魔力反応を感知するなんて、流石だ」


「褒められてもうれしくない」

と言いながら、別棟の教室に入って昼食を食べ始める。


 クラシーに聞きたいこともあったけど、空腹が限界。


「私も何か食べたい」


 クラシーに要求され、鮭の塩焼きと卵焼きをお弁当の蓋の上に置いて渡す。


「今日の朝、私が戦っている時、なんで公園には誰も来なかったの?」


 お弁当を食べ終わり、疑問に思っていたことを口にする。


 早朝とはいえ、コミュクスとの戦闘中、誰も現れないのはおかしいと思った。


「私が結界を張っていたからね」


 よくある設定、と私は非日常を自然と受け入れる。


 もう順応し始めてるとか、自分を褒めてあげたい。


「じゃあ、もう一つ。昨日や朝の戦いで壊れたものって勝手に元へ戻るの?」


「ある程度はね。あまりに損傷が激しいと結界を解いても完全には元に戻らない。…………それにしても、魔法少女について聞いてくれるなんて、やる気になってくれたのかい? 私は嬉しいよ」


「別にやる気はない。すぐにやめたいと思っている。何も知らないで戦うのが嫌なだけ。…………?」


 足音が聞こえた。


 この別棟には誰も来ないと思っていたけど、違ったかな?


 足音は明らかにこちらへ向かっている。


「あれ、内田さん?」

 

 現れたのは松谷さんだった。


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