【長編】戦旗を掲げる魔法少女たち

羊光

第一話 それは不思議な出会い? ①

 世の中には天才が存在する。


 凡人が努力しても天才には勝てない。


 私は幸運なことにそれを中学生の時に知った。


 もしも高校生まで〝努力は才能を凌駕する〟なんて信じていたら、損をしていたと思う。


 才能の無いことはやっても碌なことにならない。

 手堅い人生を歩もう。


 それが私、内田紫音の生き方だ。


「投票結果が出ました。内田さん、あなたが次の生徒会長ですよ」


 生徒会顧問の森山先生が教えてくれた。


「ありがとうございます」


 私は平坦な口調で返す。


「あなたは本当に感情を表に出さないですね」


「そうですか? 結構、喜んでいますけど?」


 一年生の時から生徒会に入り、実績とを積んで二年生で生徒会長。

 これで大学への推薦はほぼ確実だ。


 アニメやドラマだと生徒会って大変そうだけど、やることはただの事務仕事。


 部活をやっていない私にとっては大きな負担じゃない。


 投票結果の全てが開示されて、新しい生徒会の陣容も確定した。


「それじゃあ、今日はこれくらいで終わりにしようかな。これからよろしくね」


 現在、十七時半過ぎ。

 新しいメンバーとの顔合わせ、それから挨拶を済ませて、今日は解散、という流れになった。



 校舎を出て、駐輪場へ向かう途中、スマホでお母さんに「今から帰る」と連絡していたら、カキーン、と乾いた音した。


 そして「危ない!」と叫ぶ声が聞こえた。


 直後、私の側に何かが落ちる。


「うわ!?」


 驚き、腰を抜かす。


 どうやら野球部のようだ。


 私の通う『富田西高校』には女子野球部が存在する。


 といっても二年前までは別に有名なわけではなかった。


 それが去年は全国大会出場、そして、今年は全国大会ベスト4の大躍進を遂げた。


 私の通う高校は普通の公立校で、県外から選手を集めたりはしていない。


 それなのに全国クラスの高校になったのには明確な原動力が存在する。


「ごめん! 怪我はない!?」


 特大ホームランを打った本人が私のところまで走って来た。


「だ、大丈夫……。――――あなた」


「立てるかい?」と言いながら、彼女は私に手を差し伸べてくれた。


 短髪長身、王子様のような雰囲気で学校一の有名人。

 彼女こそが女子野球部躍進の立役者、松谷一巴さん。


「一巴! あんた、金属バット禁止! ……って、新生徒会長……さん!?」


 別の部員の人も駆けつけた。

 えっと、確か、同級生の下崎さん、だったと思う。


「同級生から生徒会長って言われるのはちょっと違和感があるかな」


「あの~~、生徒会長に硬球ぶつけそうになったから、部費が減額とかにはならないよね?」


 下崎さんは心配そうに言う。


「全国クラスの野球部なんだから、そんなことにはならないよ」


 そもそも、アニメやドラマの生徒会長みたいな権力は私に無い。


「むしろ、増やしてもらわないとね! だって、今度は全国制覇をするんだから!」


 松谷さんは高らかに宣言した。


 彼女が言うと本当に全国制覇が出来てしまうのではないか、と思わせる魅力がある。


 一頭の狼に率いられた羊の群れは…………、なんて言葉があるけれど、その通りだと思う。


 一人の天才の加入で富田西高校の野球部は変わった。


 松谷さんは歴史に名前を刻むかもしれない。


 私とは別の世界の人間だ。


 そんな松谷さんは私のことをじっと見つめる。


「どうしたの?」


「いやさ、生徒会長なんて凄いなぁ、って思ってね。僕は勉強が出来ないから、絶対に無理だよ」


 松谷さんは本当に感心しているようだった。


「…………別に勉強が出来たから、生徒会長に成れたわけじゃないよ」


 謙遜とかじゃなくて、事実として私の成績は上の下、と言ったところだ。


 それでもなれる生徒会長なんかよりも、松谷さんの方が凄い。


 大学や社会人チームのスカウトが視察に来ていて、テレビの取材だって受けている。


 本当、私とは住む世界が違う人。


「…………」


 天才は嫌い。


 こういう人種は凡人を見ようとしないし、理解してくれない。


 私は天才とは違う。


 だから、身分相応の生き方をする。


「内田さん?」と松谷さんが心配そうに私の顔を覗き込む。


「はい?」


「どうしたの? 凄い険しい表情になってる」


 松谷さんに言われて、ハッとした。


 天才に嫉妬とか、身分不相応だ。


「そう、かな? 今になって、ボールが当たらなかったことにホッとしていたのかも」


「あ~~、そうなんだ。硬球って当たったら痛いからね」


 松谷さんが笑うと下崎さんが「あなたはもう少し反省しなさい!」と頭を叩く。


「痛いな~~」


「どうせ、何も入っていない頭でしょうが」


「酷いな~~」


 松谷さんと下崎さんはそんなやり取りをし、笑う。


 こう見ると普通の女子高生だ。


「おい、何をしているんだ!」


 怒鳴り声が聞こえた。


 女子野球部顧問の見田先生だ。


 私は驚く。


 見田先生は国語の先生で温和のイメージがあった。


「ヤバい! 見田先生、最近、ピリピリしているんだ。それじゃね、生徒会長さん」


 松谷さんはウインクをし、グラウンドへ戻っていった。


 私は駐輪場へ向かい、自転車で帰宅する。


「あれ?」


 途中でスマホが無いことに気付く。


「あの時だ」


 野球ボールが飛んできた時、私は驚いて、手に持っていたスマホを落としてしまった。


 それに気付かない程、今日は疲れていたのかな?


 さすがにスマホを落としたままはまずいと思い、来た道を引き返す。


 高校へ到着した時は真っ暗だった。


「夜の高校って不気味だよね」と呟きつつ、人気のない高校の敷地へ入った。


 そして、スマホを落としたと思う場所へ到着する。


 しかし、それからが問題だった。

 十八時半過ぎで、辺りは真っ暗。


 ライトもない状態でスマホを探すのは苦労する。


「生徒会長さん?」


 急に声を掛けられて、私はビクッとする。


 振り返ると長身の人影があった。


 初めは男子生徒かと思ったが、違う。


「松谷さん?」


 そこに立っていたのはまだユニフォーム姿の松谷さんだった。

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