【34】発見

 それは、日を跨いですぐのことだった。


「――ッ」


 一人で見張りをしていると、ここからそう遠くない場所に人の気配を感じ取った。


「……、リジン」

「しっ」


 ロザリーも気付いたのだろう。

 目を開け、気配の出所を探すように視線を彷徨わせる。


「レイ、起きろ。仕事だぞ」

「んぅ……むにゃ……なんね、仕事ね……?」


 レイの肩を軽く叩く。夢の世界から目覚めたレイは、両手で目を擦って欠伸をする。


「ロザリー、よく気付いたな」

「魔力の流れが不自然だったから」


 ジョブ柄、俺は気配の察知に長けている。一方で、典型的なメイジであるロザリーが、俺と然程変わらない速さで気付いたことに驚いた。


 その説明を一言で表されたわけだが、魔力の流れが不自然だと言われても、俺にはさっぱり分からない。


「二人は此処で待機だ。様子を見てくる」


 言うと頷き、ロザリーとレイは気配を消して木の陰に隠れる。

 俺は単独で夜の森を突き進み、気配の元との距離を詰めていく。そして見つけた。


「これは……」


 山賊と思しき輩たちが、暗闇の中を迷いなく歩いている。

 その数は、ゆうに五十を超えていた。


 奴らは谷あいを見渡せる場所に到着し、各々の位置取りを確認し合っている。

 標的は言わずもがな、ノア率いる山賊討伐隊の面々だ。


 非常に不味い。

 両陣営の位置は、圧倒的に山賊側が有利だ。


 モルサル街とリンツ街を繋ぐ谷あいの道中、討伐隊は馬車を停めて野営をしている。

 恐らく、誰一人として山賊の気配を察知することができていないだろう。


 この状況下では、たとえノアが銀級三つ星冒険者だったとしても、一溜りもないだろう。

 闇夜に不意を突かれてしまっては、階級の差も意味がない。


 山賊の一味に気付かれないように来た道を戻ると、ロザリーとレイに状況を伝えた。


「どうするね? 今なら奇襲できるけど」

「私の広範囲攻撃魔法で一網打尽にしてやるわ」


 ブレイブ・リンツのメンバーは好戦的で頼もしい。奇襲自体も適した判断だと思う。

 しかしだ、奴らの実力が定かではない以上、もし反撃を受けた場合、メンバーを失う可能性も出てくる。それだけは絶対に避けなくてはならない。


「……いや、俺たちはあくまでも助っ人だ。奴らの相手は討伐隊に任せる」

「でも、」


 異を唱えようと、ロザリーが声を上げる。

 それを手で止めて、言葉を続けた。


「そしてその間、討伐隊が不利にならないように、各自判断して手を貸すように」

「……それってつまり、暴れてもいいってことかしら?」

「解釈は自由だ」

「やってやるね!」

「但し、無理だけはするな。お前たちはブレイブ・リンツのメンバーで……俺の大切な仲間なんだからな」


 肯定とも取れる返事をすると、レイはやる気を見せる。

 ロザリーは一呼吸置いて心を落ち着かせると、ゆっくりと頷いた。


 ブレイブ・リンツで一番足の速い俺は、回り道をして討伐軍との合流を目指す。そして山賊の一味の位置と数を伝えることにした。


 その一方で、ロザリーとレイは引き続き山中で身を潜める。山賊の後方部から戦況を把握し、討伐隊への援護を行う手筈となった。


「健闘を祈る」

「貴方も」

「任せるね」


 短く言葉を交わしたあと、俺は音も無く山の中を駆け始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る