第55話 英雄の洞察力

「では、何か?全て事故である、と?」


「だから、何度もそう言っているだろうが」


俺の説明を受け、顔を抑えて天を仰ぐブランド。


それもそのはず。


邪神を命懸けで止めよう、と覚悟したところで、「全て事故でした」などと。


まあ実際、そう説明せざるを得ないからなあ。


異世界から強制的にこの世界に連れて来られて、帰る方法は不明である半神?帰れなそうなのでこの世界で遊びます?あり得るかそんなもの。


背後を疑うなと言う方が無理だ。


だが、恐ろしいことに、これが真実だからなあ……。


「分かった……、納得はしていないが、とりあえずそう理解しておく……」


疲れ切った様子のブランドが、大きな肩をがっくりと落としながらそう呟く。


「申し訳ないな、ギルド長。重ねて言うが、特に悪事をしようとは思っていないので、そこは安心してほしい」


「それは分かる。貴公のような存在は多々見てきたが、貴公は破壊神ではなく邪神だ」


ふむ?


破壊神は、万象の破壊者であり、人に益をもたらすことは少ない。


だが、悪しきものの破壊などをすることもあるので、その点ではマシだろう。


邪神は悪ではないのか?


俺がそう思い首を傾げると、ブランドはこう言葉を続けた。


「神とは、只人には計り知れぬ存在だ。一つの側面だけを見てはならない。邪神も、何者にとって邪たる者なのか?と言う話だ」


「ふむ。俺を味方につけられると?」


「そんな大層な策略など、我にはできんよ。あの腹黒エルフ姫ならまだしもな。……ただ、貴公は、国でも人でも、滅ぼすなら愉快に盛大に滅ぼすだろう?」


ああ、そりゃそうだ。


「もちろん、そのつもりだ。その方が面白いからな」


「だろう?享楽主義者は皆そう言うんだ。故に、それを防ぐには、我々が真面目に働けば良いだけという話だ。何も特別なことはせんでいい、ただ単に職務に励めば良いのだからな」


確かにそうだ。


もし、どうしようもない盆暗が王座に座り、とんでもない痴政をやろうというのなら、俺はノリノリでレジスタンスを結成して反逆しまくるだろう。


だが、今のこの国のように、少々の闇はあれども、基本的にまともに運営されている国を崩して遊ぼう!とまでは思わない。


ブランドはそこを見抜いたのであろう。


にしても、自分より強く怖いものを見た時に、あえて手出しをしないという選択肢を取れるとはな。


知性が高い訳ではない癖に、よくもまあ賢明な判断を下すものだ。


INTではなく、プレイヤースキルということか?やはり、キャンペーンシナリオをこなした英雄は違うな。


面白い。


「そこまで理解しているなら話は早い。俺は冒険者としての規則を守るが、そちらが規則を捻じ曲げるなら戦うぞ」


「ああ、ああ、分かっているとも。部下にも話さんし、冒険者等級も上げない。便宜を図ることは一切ない。『自力で』成り上がりたいのだろう?」


「よく分かってるじゃあないか」


俺はニヤリと、笑って見せた。


「全く……、厄介な……。っと、それは良い。悪魔王の話だ」


おっと、本題はそちらだったな。


だが……。


「報告した以上の事はないぞ?単純に、殺した悪魔(デーモン)が、悪魔王の代替わりで方針が変わり、積極的に侵略すると言っていたのを聞いただけだ」


「普通に大事なんだがなあ……。貴公を前にすると、それも些事に思えてしまうな」


「まあ、そりゃそうだ。悪魔王は、もし攻めてきたら俺が倒すから、特に何もしなくて良いぞ」


「そう言う訳にもいくまいよ。冒険者ギルド総長として、いくらかの対策は取らせてもらう」


「何をするんだ?」


「単なる一冒険者に話せることではない。それとも、『特別に』聞かせてほしいだろうか?」


ふむ。


半笑いで「特別扱いしてほしいのか?」と問いかけてくるブランド。


なるほど、やはり理解力とINTはまた別の尺度ということか。


INT云々以前に賢いな。


さっきも思ったことだが、プレイヤースキルが高い。


このプレイヤースキルこそが、TRPGの本題なのだ。単に、数値と確率のみのゲームをやりたいのであれば、普通にテレビゲームをやればいい。


この世界の神(GM)は、きっと、この素晴らしいプレイヤーの提案に大きく納得し、説得のダイスロールに大きなプラス補正を追加した。俺には、そう「見える」な。


「くくく……、いや、それで良い。特別扱いはつまらないからな。話は終わりか?」


「ああ、もう充分だ」


「では、またいずれ会おう。次に会うときは、一流の冒険者になっていたいものだ」


「そうか、努力すると良い」




ギルド長の執務室を辞して、俺はギルドを出た。


なんだかんだで長話をして、もう夕暮れ時だったからだ。


急いで宿を見つけなければ、野宿に……、いや、別に全然それで良いな。


とりあえず、場所だけ確保しておこう。


折角だから……、そうだな。


娼館にしよう。




俺は、アデリーン達を引き連れて、裏町の娼館にやって来た。


「えっと、その……」


アデリーンが何かを言いたげにしている。


まあ、その気持ちは分かる。


だが俺は、やりたいことがあるのだ。


娼館も種別的には宿屋だろ?


なので……。


「しばらく泊めてくれ」


とな!

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