第45話 踊り子の少女

そうして移動して、道中。


宿場町のタタルに辿り着く。


タタルは、先日に俺がダンジョンを攻略したことで平穏を取り戻しており、タタル本来の「栄えた宿場町」の姿を見せてくれた。


流石にエルフのような珍しい種族はいなかったが、ドワーフ、ハーフリング、リザードマン、インセクティアンなど、幅広い人種の坩堝になっているのが分かる。


ドワーフやハーフリングは明確に人族寄りだが、リザードマンやインセクティアンは蛮族寄りだろうに。


蛮族寄りについて?


例えば、ダークエルフなども蛮族寄りと言われる種族だろう?


いや、そうなんだよ。


ダークエルフ、オーガ、ラミア、ハーピィ、ジャイアント、リザードマン、インセクティアン、マーマン……、そういった奴らは種族の半分以上が、人類に敵対的な教義を掲げる『悪神』を信奉する蛮族だ。


田舎の方の街では、モンスターとほぼ同じ扱いをされることも多い。


逆に、明確に全ての個体が蛮族とされる種族は、ゴブリン、コボルト、オーク、トロル、ギルマン辺りか?


因みに、デーモンは悪魔種と言って別物の存在だ。


つまり、そんな蛮族寄りな、グレーゾーンな奴らでも表通りを歩けるタタルは、開明的……ってことになる、か。


まあ、人通りが多過ぎて、一々人種に気遣う暇がないってのが真実だろうがな。


さてさて、そんな大盛況のタタルだか、俺がやってくると大いに歓迎された。


そりゃそうだ、俺はこの村の英雄だからな。


先日の大立ち回りは記憶に新しいだろう?


耳をすませば、吟遊詩人達が俺を讃える歌を歌っているのを聞き取れる。


うーむ、気分がいいぞ。


名誉点を稼ぐのは気持ちがいいな!


この名誉点って後で爵位とかに換えられるかね?




マイス商会の面々は、タタルで物資の補充をしているようだ。


水、食料、薪などなど、だな。


そして、屋根のあるところで、ベッドの上で眠るのも重要だ。


野営ではやはり、疲れがあまり取れないからな。


一方で俺達は、移動を再開する明日まで、暇を言い渡された。


なので、適当に街をぶらついていたのだが……。


「ん?」


街の広場の真ん中で、剣舞をする褐色肌の女がいた。


女、いや、少女?


詩的に表現すれば、少女から女へと芽吹こうとしている麗しき蕾といったところか。


そしてあの肌色……。


流浪民の血筋だろう。


流浪の民……、地球で言えばロマのような連中。


旅芸人として世界を旅する民族で……、そして、祖国を持たぬ流浪の民であるからして、ろくな死に方はないと聞く。


褐色の肌に黒い髪、しかして地球の黒人のような黒肌と縮れた髪とはまた違う、むしろ日本人の思う「南国の人々」のような見た目をした民族……、確かラナ族と言ったか?


その、ラナ族の少女は、飾り物の多少ついたショートソードを伴い、舞い踊る。


さしずめ踊子(ダンサー)と言ったところか?


身のこなしを見るに、軽戦士(フェンサー)としての心得もあるだろうし、歌声から詩人(バード)の技術もあることがわかる。


察するところ、ダンサー5、フェンサー3、バード4と言ったところだろうか?


しかし、目を惹くのはその少女のAPP……、美しさだ。


ラナ族の信仰する、太陽神の従臣たる小神『芸能神ズェロンド』に愛されているとしか思えない美貌。


まだ少女であることを加味しても、男達を惹きつけてやまない芳しいフェロモン。


文句のつけようのないほどに整った顔立ち。


気品と淫靡が両立する奇跡的なバランスの肉体……。


数値にしてAPP18はある、実に素晴らしい女だった。


実に素晴らしいので、俺は、今回の商隊護衛の前金である金貨十枚を全ておひねりとしてくれてやった。


いやあ……、シバならやるでしょ、こういうこと。


「え……っ?!!」


踊りの最中のラナ族の少女は、俺が投げ渡した金額に度肝を抜かれて、動きを止めた。


そりゃそうだろう、流浪民の旅芸人に渡すおひねりなんて、銀貨一枚(四百円)でも多い方。


殆どは、一枚百円にも満たないビタ銭である青銅貨だ。


つまり今俺がやったのは、売れないミュージシャンの路上演奏に札束を押し付けるに等しい蛮行って訳だ。


だが、そういう蛮行は最高に気持ちがいい。


「あ、あの……」


少女は、俺に何かを言おうとする。


が、何を言っていいのか分からないようだ。


なるほど、なるほど。


よく理解した。


「おや、足りなかったか?」


俺は更に、ポケットマネーから金貨十枚を取り出して投げ渡す。


金貨二十枚!日本円にして百万円ってところか?


この世界の物価なら、切り詰めれば一年以上生活できるな。


旅芸人如きには、一生かかっても一度に手に入らない額の金だ。


「は、あ……?!!!」


絶句している少女。


美人は得だな、こんな間抜けヅラをしていても可愛いんだから。


「まだ足りないか?すまんが、金貨の持ち合わせはなくてな」


「え、あ……、う……」


「なので、別のもので支払いをさせてもらおうか。Πλούτος υπερχείλιση……『富の創造』」


すると、俺が少女に翳した手から、大量の金銀宝石が泉のように湧き出した。


「きゃあっ……?!」


少女は、自分の身体の体積と同じくらいの財宝に塗れて、押し潰される……。


「足りないか?」


俺は、ニヤつきながらそう言った。


「あ、いや……!」


ひっくり返った少女は、自分の頭に引っかかっていた黄金のネックレスを恐る恐る掴み、齧った。


ほう、金の判別か。


本物の金なら柔らかいから、強く噛めば凹む、と。


もちろん、俺が創造した黄金は純金であるので、噛めば凹むぞ。


少女は、手当たり次第の黄金に齧り付いて、判別を済ませたようだ。


すると……、少女の目が輝く。


「ホ、ホンモノ!本物の黄金だ!」


んー、良いねえ。


他人を驚かすのは愉快だ。


俺は、満足したので立ち去る。


……と、思った時。


「ま、待って!」


少女に呼び止められた。


「あ、あのっ!もしかして、『銀の流星』様なの?!」


「ああ、そうだが」


「お、お妾さんとか募集してない?!」


おっ、そう言う話大好きだよ、良いねえ!

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