第44話 素敵なティータイム

俺がプレイしていたとあるファンタジーゲームでは、パーティメンバーと共に野営をして体力回復……、みたいなのがあった。


そういうのでは大抵、キャンプ中にキャラクター同士の会話イベントが発生するのが常で、意外な掛け合いなどが見れて、キャラクター一人一人が深掘りされる。


そんな訳なので、俺もたくさん会話します。


この仲間が好きなんで。


まあ、所謂食券イベントというやつだ。


……レベルは上がらないが。




まず俺は、その辺の雑貨屋で購入した籠に、チョコバーを詰めて、粉状茶葉の入った瓶を共にマーニーに押しつけた。


「これは?」


「菓子と茶葉だ。こちらばかり楽している姿を見せつけるのは気の毒だとアデリーンがな」


「ははあ……、なるほど。えろうすんませんでしたね」


「いや、問題ない」


こいつと話すことは特にないな。


モブキャラの、しかも男と会話してもなあ……。


「おっ……?こ、これは!」


んん?


「シバさん!これ、噂の『流星の焼き菓子(スター・ケーキ)』ですか?!!」


んー?


「……何の話だ?」


「えっ?一つ食べれば一日中戦えるっちゅう特別な魔法の焼き菓子だと、巷で有名でまんがな!」


んんんんんー?


何それ知らん……。


怖……。


まあ、恐らくは、先日のモブ冒険者が言いふらしたのだろう。


めんどくさいし否定はしないでおこうか。


「確かに、それはカカオを使った焼き菓子だが、それとは別にちゃんと飯は食え」


「はい!いやー、光栄ですわ!」




思いの外、喜ばれたな……。


「こ、これがあの噂の?!」とか言って大騒ぎしていた。


ってか、スター・ケーキって何だよマジで。


何?なんか、名物みたいになってんの?


「あの、師匠」


ん……、ヴィクトリアか。


「『流星の焼き菓子』がどれほど貴重なものか、分かっていますか?」


「分からん」


なので聞く。


「良いですか?まず砂糖ですが、これは南の果てにある亜人国家群の『インセクティアン』という種族のビー族という部族のみが作っています」


ふむ。


「幸い、ビー族はかなり数が多いですし、ビー族を手伝う部族も多いので、生産量そのものはかなりのものではあるのですが……」


「このティレル王国に届くまでに時間がかかる、と?」


「はい。関所の通過、荷の護衛費用、馬の餌代……、そういった輸送の費用が値段にどんどん上乗せされて、市場で買えばひと匙で10オシラはしますね」


大匙一杯で千円くらいか。


クソみたいに高いが、まあ、中世並みの物価と思えば……?


「そもそも、少し前までは、砂糖は薬扱いでしたからね。膀胱や腎臓の痛みを和らげる効果があるとか聞きますし、一部の医者は万能薬とも……」


「ああ、なるほど」


そういう感じか。


薬効があるとは思えんが、単純に、栄養失調気味のこの世界の人に、高カロリーな砂糖を摂取させたら元気になった!みたいなオチだと思われる。


そう言えば、中世日本でも同じようなものがあったな。


獣肉を戒律的に食べられなかった日本では、薬として鳥の卵を食べたら、足りなかったタンパク質が補充され、嘘みたいに元気になった!みたいな話があった。


それと同じだろう。


「それが最近、砂糖を東方の茶に溶かして飲むのが贅沢だと貴族の間で話題になっているので、砂糖の値段はかなり高騰しています。市場の値段は倍くらいには上がっているようです」


ほうほう。


面白いな、特定の物価の高騰とかもあるのか。


そりゃそうだ、ゲームじゃないもんな。


流通やら経済やら、しっかりと存在しているんだな。


「そんな砂糖を、こんなに甘味がはっきりするほどに使って……、おまけに、海の向こうの蛮族大陸の秘薬であるカカオをふんだんに使って、更に色とりどりのドライフルーツとナッツ、そして麦のビスケットを砕いたものを一つにまとめているのです」


そうだな。


「恐らくは……、売ったとすれば、一本につき5000オシラは下らないかと」


金貨十枚、日本円にして五十万円だと?


この世界でそれだけあれば、剣一本が買えてしまうな。


剣一本と等価な菓子とは、かなりのものだな。


そりゃあ、確かに、騒ぎにもなるか。


一方、俺達は、キャンピングカーの屋根上にある休憩席で、三時のおやつを楽しんでいる。


馬も人間も、休みなしで何時間も歩く訳じゃないからな。


二時間歩って数十分休む……、と言ったサイクルで、一日六時間ほど移動するのが基本だ。


短いように思えるが、煮炊きだの野営準備だの見張りだの、そう言った細々としたことをやっていると、一日中移動したりすることは難しい。


まあ、俺やアデリーンのような鍛えられた冒険者なら別かもしれんが……。


そんな訳で、俺達の徒党は、茶をしばきながら休憩をしていた。


茶は、すっきりとした後味のニルギリ。


共に出している茶菓子の方が、今回はスフレのチーズケーキだからな。


柔らかな口当たりと、繊細な優しい味のスフレチーズケーキには、その繊細さを尊重するかのような爽やかなものが合う。


因みに、ノースは舌が庶民なので、何を食わせても美味いと言うが。


元貴族のヴィクトリアと、長き時を生きたエルフのアデリーンは、茶と菓子の組み合わせが絶妙であると見抜き、俺のセンスを褒め称えていた。


なるほど、知識判定。

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