第40話 タタルダンジョンのエピローグ

その後の話をしよう。


俺は、下級悪魔(レッサー・デーモン)の死体をタタルの大通りに逆さ吊りにして、タタルの平和を脅かす悪魔の陰謀を暴き、退治した!と大声で喧伝した。


特に、サミュエルとティナとかいう二人のモブ冒険者は、タタルで一番大きな酒場で、俺という冒険者がどんなに強かったかを嬉々として語ったそうだ。


流石に、自分達が活躍した!などと嘘をつくほどの恥知らずではなかったようだな。


俺は俺で、話を聞きたいと目を輝かせてついてきた街の子供や吟遊詩人に、何をやったかを事細かに語ってやった。


「シバさん!デーモンをどうやって倒したんですか?!」


「あんな雑魚、一太刀で仕留めたよ」


広場には、町中の人々が集まり、俺の武勇伝を聞いてくる。


町長の厚意で用意されたワインを飲みながら、俺は事実をそのまま伝えてやることにした。


こういうのは、噂が伝搬するうちに背鰭尾鰭が付くものだ。


恐らくは、俺の意に反した噂も流れるだろう。


だから、要点のみをしっかり伝えて、後世に残る確かな記録を残さなきゃな。


「一太刀で?!」


魂消る町人達を他所に、俺はローストされた鶏肉を齧る。


「ああ。獲物に細かい傷をつけるのは二流だ。大通りに吊るした死体を見れば分かるように、一撃で簡単に殺したんだ」


「た、確かに!デーモンの死体には、余計な傷がなかった!」


今回俺が伝えたいのは、「一太刀で仕留めた」ということだ。


スマートさを喧伝しておきたい。


「トロルの首も見るか?ほら」


「おおーっ!こ、こんな大きなトロルも一撃だったんだ!す、凄い!」


もちろん、タタルのギルドには報告を済ませてある。


こうして俺は、タタルでの話だけじゃなく、ボロネスカでのデュラハンなどについても語ってやった。




そうして、ボロネスカに戻ると……。


「すまんが、お前にはこれから王都へ行ってもらう」


ということになっていた。


まあ、普通に考えればそうだろうな。


「アビスの王家が代替わりして、その王が地上世界に対する積極的な侵略を目論んでいる」って報告したし、俺は重要参考人扱いだろう。


「とは言え、話すことなんざなんにもねえぞ?」


俺は報告した内容以上のことは知らないからな。


「上はそう思っちゃいねぇらしい。今は、ちょっとした情報でも欲しいってところだろう」


ギルドマスターの親父は、パイプを吹かしながらそう吐き捨てた。


「まあ、良いさ。どの道、これから王都に行くつもりだったしな。ついでに話くらいならしてやろう」


ノースも、タタルでの依頼に協力した功績が更に追加され、今一番注目されている新人神官として王都に転属されるそうで、俺もそれについていく。


ついでに、王都まで移動する商隊の護衛依頼を受けつつ、王都へ移動することにした。


「……ところで、どうやって王都と情報をやり取りしているんだ?」


「ん、ああ……。伝書鳩ならぬ、伝書鷹がいてな。それで手紙のやり取りをしているんだ」


なるほどね。




さて……、商隊護衛だが。


マイス商会という名の商会の人間だと聞いている。


この美味しそうな名前の商会は、国内屈指!と言えるほどではないが、十本の指に入るくらいの大きな商会らしい。


主にモンスターの素材や、それを使った雑貨を売買する組織で、冒険者ギルドとの関わりも深いと聞く。


そんな商会が何故俺にコンタクトを取ってきたかというと……、単に、俺が稼ぎそうだからだろう。


モンスターの素材を今後たくさん持ち込んでくれそうな俺に目をつけて、縁を結んでおきたい、と。


そういうことだな。


それは別に構わない。


他人に媚びられるのは気分がいいので、好きにさせておこう。


接待されても、都合が悪けりゃ知らんぷりすりゃいいだけだしな。


とりあえず、書面にサインして、俺は長旅の準備を始めることとした。


まず、最も大切な水と食料についてだが、どちらも商会側が用意するとのことらしい。


だが、旅の保存食なんて食いたくないので、こちらで用意する。


この世界はTRPGファンタジー的な世界であり、食事もそこそこに美味いのだが、流石に旅の保存食は不味い。


大抵、カチカチのチーズかカチカチの干し肉、それとカチカチのパンが基本なのだが……。


パンは釘打ちできるほどに固く、干し肉とチーズは石同然だ。


ビーフジャーキーとかそういう話ではなく、砂漠のようにカラカラの干し肉は、しゃぶってふやかして食べなくてはならない完全な保存食。


石同然の保存食をしゃぶりながら、一ヶ月も歩きっぱなしなど、冗談ではない。


いや、もちろん、途中で何度か宿場町などに寄るだろうが、辛い旅になることは確かだ。


三日くらいなら雰囲気を楽しめるかもしれないが、一ヶ月ともなるとただただ苦痛だろうな。


なので、食事はこちらで用意する。


幸いにも、冬の間に作り溜めしておいた料理がたくさんあるので、それを食えばいいだろう。


それと、雑貨の類だな。


タオルや歯ブラシなんかは、今のうちに作っておこう。


それと、馬車。


馬の方は、魔法でゴーレム的な何かを出せばいいとして、車体の方は今から作り始めないと間に合わ……、いや、大丈夫か。一週間も猶予があるしな。


でも、折角だし、フルカスタム馬車を作ろうか。


王様でも持ってないような、凄い馬車を。


うん、いいな!


楽しくなってきたぞ。


色々作ろうか!

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