第27話 貴方の弟子はクエストをクリアした

弟子の報告を聞く。


「……それで、最後は、《衝撃》の魔法でワーウルフを仕留めました!」


いやあ、可愛いもんだ。


最初は生意気なところもちょっとあったが、心をへし折って力を見せてやれば、すぐに従順になった。


その後は、壊すつもりでの訓練や、常人が覚えると心身をぶち壊すという『魔法』もある程度ものにするなど、かなり頑張ってる。


見てくれも可愛らしく、頭も良くて、従順。


いやー、まあ、普通に可愛いよね。


何かこう……、シバの肉体が強過ぎてレベルアップの楽しみがない分、この脆弱なヴィクトリアというガキを鍛えて、レベルアップ欲を満たすと言うか……。


つまり、プレイヤー目線?ヴィクトリアは俺のPCだな!


自分のPCが嫌いだって言うプレイヤーはそんなに多くないだろ?


可愛い可愛い俺の駒、ヴィクトリア。


これからも可愛がってやるからな。


それはそれとして試練は与えるし殺す気で訓練させるけど。


にしても、辺境のレベル1ファイターはボンクラばっかりなのか。


実際、ヴィクトリアにはかなり愛着が湧いてるから、その辺のボンクラ男には渡したくないなあ。


「ヴィクトリア」


「はい?」


「お前さ、お家を復興する?とか言ってたけど、結婚相手とか見つけたのか?」


「いえ、見つけてません」


「そうかそうか!見つけなくて良いぞ、ずっと側に置いてやるからな!」


「ありがとうございます!でも、私自身の手で貴族に返り咲くので、心配ご無用です!」


ほへー。


「お前が貴族になる頃には、俺は伝説になってると思うからなあ……。俺の弟子だから優遇される、とかになっても大丈夫か?」


「それは仕方ないことですよ。それだけにならないように、私自身の名声も稼ぎますね」


偉いわー。


「そうかそうか。じゃあ、お前がそれなりの冒険者になったら、娶ってやるよ」


「ありがとうございます!」


まあ、ほぼ同棲してるし、関係性はあんまり変わらんだろうけど。


「あとは……、そうだな、俺は和マンチではなく、雰囲気重視派のプレイヤーだから、アチーブメントを解放したらなんかやるよ」


「?」


いやほら、和マンチも良いんだけど、俺は物語の雰囲気を大事にしたくてさ。


和マンチなら、報酬金を交渉で釣り上げて、キャンペーンをクリアしたり、キャラクターを成長させることを重視させるじゃん?


でも俺は、「このキャラクターならこうするだろうな」みたいなことを考えてロールプレイするタイプだからさ。


報酬金の釣り上げ交渉は、PCのアライメントがカオス側なら積極的にやるけど、ロウフルなら逆に報酬を断ったりする。善人プレイも楽しいものだ。


PCの成長ではなく、キャラクターのバックストーリーから取るスキルを決める。


例えば、前のクエストで失敗したので、その時に必要だった技能を覚えてみた!とかな。凡庸性の高いスキルを取りまくり、固定値の暴力でぶん殴るとかはあんまりやらない。


ファンタジーなんだぜ?実害が出ないんなら雰囲気を大事にしたいじゃん!


そりゃあ、真面目に中世ファンタジーをやれば、飯があんまり旨くないとかあるから、その辺をアーティファクトで補うけどさ。


基本はファンタジーしたいでしょそりゃ!


……まあ俺はダイス強者なんで、固定値に頼る必要がないだけなんですけどね!


「あー、つまり、お前が頑張れば、色々と物資を融通してやるよ、ってことだ」


「えーっと、良いんですか?」


「お前の冒険話を聞くのが楽しくてなあ……。俺が冒険するとドラゴンでも殺せちまうからつまらんのよ」


「分かりました!色んなお話を仕入れてきますね!……ところで、アチーブメントって何ですか?」


「訳するなら『業績』ってところかね?例えば、成人の日には祝い品が贈られるだろ?結婚した日、子供が生まれた日、仕事で大成功した日……。そんな時は、特別なものがもらえても良いと思わないか?」


「つまり、師匠からのご褒美ってことですか?」


「そんな感じだな。さて、今回は『初めてのクエスト』を無事にクリアした、と言うことなので……」


俺は、ヴィクトリアを引っ掴んで……。


「Ανοίξτε την πόρτα της διάστασης」


《次元門》の魔法で転移する。


「……え?え?!あ……、いや、え?!!」


「ん?どうした?」


「さ、さっきまで宿の中にいませんでしたか?」


「は?そりゃそうだろ?」


「……これ、伝説の転移魔術ですか?」


「魔法だ、伝説ってほどじゃない。その内教えてやる。で、今回は、マジックアイテムを作るのだ」


「は、はい」


「まずは材料を呼び出すぞ」


「はい?」


「Φύλακας του νερού, ξεπήδησε」


《ヒュドールの召喚》だ。


赤黒い魔法陣が宙空に浮かび上がり、悍ましい輝きを発する。


世界が軋み、悲鳴を上げる。


魔法陣から、ヒュドールの頭が出てくる。


頭の時点で、人のことを丸呑み出来そうな大きさ。エビのような甲殻に、泡のようなものが乗っている。


これは全て目玉だ。


口には、人間の前歯に似ている歯がずらりと並ぶ。


腕が出てくる。


人間の手に酷似した、鱗の生えたぬらりとした白腕が、合計で六本。


刃物のように鋭い背鰭と尾鰭、顔の横にはエラがある。


『KkKkkKkkkkyyyYYyeEEeAAAAA!!!!』


そして、この世のすべてに絶望した人間の悲鳴のような鳴き声を発したあとは、俺の目の前で伏せた。


「きゅう……」


あら?


正気度を失ったヴィクトリアが倒れちゃったか。


「はっはっは、起きろ」


魔法で水を作ってぶちまける。


「がはっ?!!ごほっ、ごほっ!あ、あ、ああ……?」


「おーい、大丈夫かー?」


「そ、それ、それ!何ですか?!!」


「こいつか?こいつは『ヒュドール』って言う神話獣でな。海の女神『ヴィリロス』の眷属で、呑み込んだものを液体に変える能力を持つんだ。ヴィリロスの支配領域を広げる為に、陸地を喰らう破壊の尖兵だな」


「……危ないやつじゃないですか!」


そうかな?そうかも。


「いや、魔法で制御してるし暴れないぞ」


「そう、ですか?」


因みに、ヴィリロスは邪神じゃないぞ。


ただ、全てを母なる海に還そうとしているだけで、善意で全てを破壊してるんだ。タチ悪りぃ〜。


「こいつの皮膚から、マジックアイテムを作ろうと思ってな」


俺はそう言って、ヒュドールの腕一本を斬り落とす。


それを魔法で解体して……、魔法の糸で縫って、黄金の飲み口と蓋を作り、水袋にする。


その作業の途中で……。


「シバ!!!」


アデリーンがすっ飛んできた。


「ん、驚かせたか?」


「あからさまに禁術の気配がしたんだけど……、うわあ、何よそれ?!」


「神話獣」


「……見たところ、神の従属種ね?なんでこんなの呼び出したの?」


「こいつの革でマジックアイテムを作ろうと思って」


「えぇ……」


良いじゃん別に。


誰にも迷惑かけてないんだからさ。


さて、完成っと。


「はい、これ。水が一日につき10L出る水筒」


「あ、ありがとうございます……」


ヴィクトリアに渡す。


「一日につき人は1.2Lも飲めば充分だそうだが、運動して汗をかくとたくさん飲みたくなるだろうし、そうじゃなくても水はたくさん使うだろうからな!」


「は、はい」


んー?


「……別に、気持ち悪い化け物の革で作ったからって、呪われたりはしないから安心しろ」


「はい……」


ああ、思いやりとかの話?


「まあほら……、こいつらは神の道具で、自己意思はほぼないから安心しろ」


「そうですか……」


うむうむ。


「……どうでも良いけど、この神獣、ちゃんと送還できるんでしょうね?」


とアデリーン。


「ん、大丈夫だ。いくらか素材を剥いだら送還する。アデリーンにもなんか作ってやろうか?」


「じゃあ、私も水筒が欲しいわ」


こんなもんか。

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