第5話 ここは フィーユ村 です

俺は、ヒュドラルギュロスの無形剣、アルギュロスの万能杖、アダマースの護りの鎧、クリューソスの黒金の護符、プラティナの空飛靴を装備した状態で更に、ボルボロスの時空鞄を背負っている。


それと、灼熱の刃も帯刀しなおした。


ヒュドラルギュロスの無形剣は、待機状態では銀色の腕輪だから、見せかけじゃわからないだろう。


俺の腰にぶら下がったショートソードを見てもノースは文句を言わなかったので、この世界は銃刀法とかないんだろうな、とも分かる。


色々分かったところで、またゴブリンだ。


また三匹。


「……っ!緑小鬼(ゴブリン)です、逃げましょう」


そう言って、俺の腕を掴んだノース。


だが俺は、ショートソードを抜き放ち、構えた。


「だ、駄目です!三対一なんですよ!」


なるほど、ゴブリンでも三対一だと危険なのか。


つまり、三体をあっさり倒した俺はそこそこ強い方なんだろう。


「大丈夫だ」


俺はそう言ってノースを後ろに隠すと、素早く踏み込んだ。


ゴブリンが気付く前に奇襲だ。


『ギ?!』


まずは一人。


『ギャァ!』


そして二人。


三体目が反射的に振り返り、声を上げようとしたところで……。


『ギッ……』


首を斬り飛ばす。


瞬く間に三体のゴブリンを斬り捨てた俺は、残心の後にショートソードを腰に納めた。


「す……、すごい……!」


俺の剣技を見て、ノースは、感服した様子を見せた。


素人目から見ても凄まじい太刀筋だったからだろう。


一瞬のうちにゴブリン三体を斬り伏せ、しかも返り血の一滴もついていないのだから、それに見惚れたのだ。


「他にはもういない、行くぞ」


「は、はいっ!シバさんって、お強いんですね!」




そうして、フィーユ村に辿り着いた俺とノース。


もちろん、ノースは、いきなり知らない男を連れてきたことで、門前の衛兵に事情聴取される。


村は、10feetほどの石壁に覆われた小さな村だ。こうしてみると広そうだが、面積的にはちょっと大きい公園くらいだ。


村なのにこの小ささは、現代日本では考えられないな。


家屋の数から推測できる人口は百人くらいだろうか?


畑などは壁の外にある。


ここは見たところ、人もそう多くはなく、田舎の村であると察せられる。


田舎でもこのような壁が必要なのは、先ほどのようなゴブリンなどの、人類に敵対的な種族が多いからだとも察した。


壁の質は悪く、石はボロボロ。貧乏な村だと言うことも分かった。いや、あるいは、これが平均的な豊かさなのやもしれない。


門前の衛兵は男二人で、ノースから軽く話を聞くと、それだけで簡単に俺を通した。


それほど、しっかりと人を見ていないのか。


それとも対モンスターに特化している?人の悪人なんてこんな辺境の村には来ないから、モンスターだけを警戒しておく、みたいな感じか?それは分からないが、とりあえず村に入れた。


「こっちですよ」


ノースの案内で、『牡馬の蹄亭』と言う宿屋に入る。


宿屋は、一階が食堂で、二階が客室となっているようだ。


「お父さん、ただいま!」


「おお、ノースか。ん?その男は?」


「シバさんだよ。私の命の恩人なの」


「何があったんだ?」


「帰り道にいるゴブリン三体を倒して、助けてくれたの。ものすごい達人さんだよ!行くところがないみたいだから、しばらくうちに泊まってもらっても良いかな?」


「おお、そうだったのか。良いものは出せないが、しばらくうちに置くくらいなら良いだろう。よろしく、シバさん。私はジムだ」


「よろしく、ジムさん」


俺はそう返した。


男NPCだが、無駄に居丈高に接する意味はないだろう。


「ところで、腹は減っていないか?そろそろ昼だし、何か作るよ。生憎、高価なものは出せないが」


「いえ、充分です。ありがとうございます」


ありがたいな、腹が減っていたんだ。


料理が出来上がるのを待つ間、杏をドライフルーツにする作業をやっているノースを手伝った。


待てよ?


《灼熱》の魔法は、水分を抜いて組織を破壊する魔法だよな。


応用すれば乾燥させることもできるんじゃないか?


試してみよう。


「《灼熱》」


おお、できた。


「わあ!凄いですね!魔法ですか?」


「ああ、そうだ。味を見てくれ」


「ぱくっ……、うん!バッチリです!」


「じゃあ、全部乾燥させるぞ」


作業はこうして、魔法で短縮したので、余った時間にノースからこの世界についての話を軽く聞く。


剣と魔法の中世ヨーロッパ的世界であることはよく分かった。生活するのは大変そうだが、今すぐ死ぬことにはならないだろう。


それと、ノースの身の上も少し聞けた。


どうやらこれから、近いうちに近くのボロネスカと言う大きな街へ行き、神官(クレリック)としての修行を始めるようだ。


既に見習い神官としてこの村で修行を積み、神の奇跡を行使できるようになった、とのこと。


魔術というものの存在の他に、神官が使う『神術』というものがある訳だ。


神術はやっぱり、怪我を治したり、アンデッドを退散させたりする術らしい。


それと、この世界の神話の情報も得た。


×××××××××××××××


かつて、世界には、無限に広がる虚無のみが在った。


虚無は、空っぽの自分を顧みて、寂しさを覚えた。


故に、別の世界から、輝きを掬い取った。


輝きは、光の神『オレイヌス』となり、世界に光が齎された。


だが、全てが光では眩し過ぎるので、虚無はまた別の世界から暗がりを掬い取った。


暗がりは、闇の神『アルシノン』となり、世界の半分は闇で満たされた。


オレイヌスは、光の時間を生きる生物として、人間(ヒューマン)、森人(エルフ)、鉱人(ドワーフ)などの人類種を作った。


アルシノンは、闇の時間を生きる生物として、恐ろしき蛮人達を作った。


オレイヌスとアルシノンは、何もない世界を生きる創造物らを哀れんで、海の神と地の神を、始まりの虚無に強請った。


海の神『カシマロス』が息を吹きかけると風が生まれ、カシマロスが涙を流すと雨が降った。海は、カシマロスの涙の塊なのだという。


地の神『ゴルガンナ』が身を削ると陸が生まれ、ゴルガンナが血を流すと命が芽吹いた。命芽吹くこの大地は、全てゴルガンナの血肉なのだという。


しかし、海が生まれ、大陸が生まれ、命が芽吹こうとも、生き物は皆弱々しかった。


それを哀れに思った神々は、新たな神を始まりの虚無に強請った。


それが、力の神『ガデチデン』と技の神『シュババヤ』と魔の神『サメテロイ』である。


それぞれが、自然を生き抜く力と、技術と、魔法を与えた。


かくして、生命は、自然を生きる為の能力を得た。


×××××××××××××××


とまあ、こんな感じ。


他種族が信仰する異教の神や、邪教の信仰する邪神もいるそうだが、その辺はマイナーらしく、この西方世界と呼ばれる地域ではこの多神教がメジャーらしい。


この後、光の神と闇の神が戦争を起こして、闇の神は悪神とされるみたいな話を聞いた。


けど大抵、神話の悪神って、零落したか乏しめられた他宗教の神々だったり、荒ぶるが恵みをもたらすこともある、所謂『荒神』であるケースとかもあるし、参考程度に聞いておいた方がいいだろう。


例えば、インドでは神獣とされるアイラーヴァタと言う巨象がいるのだが、これは、宗教的に折り合いが悪いスリランカにおいては、魔獣ギリメカラと呼ばれている。


立場や文化によって、善悪など簡単に裏返るし、そもそも神を人間の尺度で測ろうとすること自体が間違いだな。


それに、明らかに絶対的な悪は、邪神と呼ばれるはず……。


邪神についての情報を聞こうとしたところで……。


「ほら、できたぞ。好きなだけ食ってくれ」


と、ジムが料理を持ってきた。

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