異世界転生したら、強くなり過ぎて使えなくなった継続探索者に憑依転生しちゃいました

飴と無知@ハードオン

第1話 ルールブック『Argyros of Abyss』

国内外で大人気のTRPG、『深淵のアルギュロス』……。


主人公は探索者として様々なシナリオに挑戦し、ロールプレイとダイスで事件解決を目指す、というものだ。


コズミックホラーな神々から、日本の怪談的な事件まで、様々な存在が全力で殺しにかかってくるので、全力で生き残って、あわよくば事件解決を目指す……、のだが、プレイミスすると割とあっさり死ぬのが特徴か。


まあ、よくある形式のホラーアドベンチャーだ。


だが、ロールプレイとプレイヤー本人の推理力があれば、ダイス運がゴミカスでもリカバリーできるところが俺の性に合っていた。


昔から、何かを考えるのが好きなんだよな。


歴史にも興味があったし、記録が残っていない遠い昔のことを想像するのは楽しいことだ。それが高じて創作物にのめり込むことも多かった。


哲学書や数学、全く知らない専門書なんかも良い頭の体操になるし、知識を得るのはそもそも、根源的な快楽だ。


そんな俺が、物語を作り、ダイスで運命が左右される、TRPGにのめり込むのはおかしな話ではないだろう。


大学のTRPG研で出会った仲間とかれこれ十年間、社会人になった今もオンラインセッションなどを重ねてきた。


もちろん、他のTRPGも嗜んだが、俺達が最もやり込んだのは『深淵のアルギュロス』だった。


それは、思い出補正もあるのだろうが、間違いなく俺の青春の一片でもあった……。


金曜の午後十時。


本屋の店長をしている俺は、仕事を終わらせ、牛丼屋で食事を済ませた後、夜道を歩く。


手元のスマホには、自作のシナリオの設定集が綴られていた。


「よし……、こんなもんでいいか」


シナリオの内容は、例によって異世界に連れてこられた探索者が、お助けキャラの力を借りて謎の異世界から脱出するというストーリー。


異世界と言っても、今流行りのナーロッパではなく、邪神が作ったサイケデリックな超空間での話だ。


そしてそのお助けキャラというのが、俺がこの十年間使い続けてきたキャラクター、戸上榛葉(とがみしば)だ……。


この戸上榛葉は、割と致死率が高い『深淵のアルギュロス』でも、ファインプレーにファインプレーを重ねて生き残り続けたキャラ。


だが、生き残り過ぎて、様々な神話的なアイテムを集め、呪文を覚え、戦闘経験を積み、挙げ句の果てには最大神話の主神の分霊を身体に封印するとかいう少年漫画の主人公みたいなことをして、強過ぎてゲームバランスが崩れるので使用不可となってしまったキャラでもある。


そんな訳で、最近はめっきり、他シナリオでのお助けキャラのNPCとして出演するキャラクターとなっていた。


「うん、まあ、榛葉はやり過ぎだよな。下位神となら真正面から殴り合えるとか、バランスブレイカーだよ」


夜中なのに、スマホを見てニヤつく成人男性の絵面は中々にデンジャラスだよね。


っと、待て待て。


そういや、同棲している腐れ縁のセフレ女から、卵と牛乳を買ってこいと言われてたな。


秋印の牛乳じゃないと文句言うからなあの女。


コンビニ寄ってくか……。


「ふひへははは!!!」


「っおお……?!!!」


おっと……?!!!


振り返ったらいきなり、恐らくは通り魔と推定される奴に刺されたぞー?


いや、笑い事じゃねえな。


ヤバイくらい血が出てる。


うーん、痛いな。


だが、ここまで痛いとかえって冷静になってくる。


「ひ、ひふ、はは、ははははは!社会なんて壊れちまえ!!!」


やめてくれよなー、お前のくだらん破滅願望に俺を巻き込まないでくれよ。


この世界が嫌なら、一人で自死しろよ。


だがまあ……。


「ッア……、う、おおおっ!!!」


俺は、土手っ腹に突き刺さった出刃包丁を引き抜いた。


うーん、俺が生まれつき冷静なのか、それとも、死を目の前として冷静になってしまっているのか、それはわからんが……。


俺は酷く平静を保ったままに、出刃包丁を構えた。


「よく、も……、やって、くれた、な。お前も、死ね……!!!」


「ひっ……?!!な、何で生きて……?!!」


俺は、出刃包丁で通り魔男を滅多刺しにした。


「ぎゃあああああっ!!!!!」


男の断末魔が響く。


いい気味だ。むしろ、俺を殺したんだから、もっと苦しめるべきだったか?まあいい、もう時間切れだ。


で?なんだっけ……?


ああ、そうだ。


「たまご、と、ぎゅう、にゅ、う……」


俺は、数メートル歩いて、歩いて……。




すぐに、目の前が真っ暗になった。




真っ暗な闇の中で声が響く。


俺の声だ。


俺と同じ声だ。


『創造主さんよぉ、こんなところで終わりなのか?』


何を言っている?


誰だ?


『あんたの作った俺は、こっちの世界で神にまでなった。あんたがそうしてくれた。なのに、あんたはそこで終わりだと?』


なんの話だ?


こいつは誰だ?


『気に食わねぇ、認めねぇ。あんたは最高のプレイヤーだ。俺の身体と知識と、持ち物を全部やる。さあ、だから……』


闇の中で……。


『ニューゲームだ!』


光が溢れて……!

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