うんこと僕 番外編その1⟡.·

あヤッピ——

4月6日 ゲームセンターにて

これはある日の土曜日のことである。

ゲームセンターに遊びに来た2人の中学生がいた。


「なぁ、輝斗、これとかどうだ?」

ひとつのクレーンゲームを指さして言った。

中には大きな犬のぬいぐるみがあった。

「これ、取れるのかよ」

「もちろんだ!こう見えて結構得意なんだぜ?」

「そもそも、光これ使うのかよ」

「使わん。とったらあげるわ」

そう言いながら光はクレーンゲームにお金を入れた。

「おい、僕もこの犬いらないぞ」

そう言いながらケースの中の犬を指さす。

ケースの中では既にクレーンが動いていた。

もちろん1発で取れる訳もなく、ぬいぐるみは少し動いただけだった。

「ほら、取れないじゃん」

「いや、これでいい。見てろ、すぐに取れるぞ」


もくもくとやり続ける光。

それを見続ける輝斗。


「まだぁ?」

「あと、もうちょいっ」

「もう、いくら使ってんだよ」

「まだ、1000円も使ってないわ」

「いっとくけど、学生の1000円は高いからな」

最初の頃よりかは出口の穴に近づいてきているが、それでもまだ穴には届かない。

お金が足りなくなり、光がさらにお金を入れる。

「おい、追加するな」

「てもお金入れないと取れないだろ」

「取ったとしても僕もお前も使わないだろ」

「取ることに意味があるんだよ!」

光はクレーンを動かす。

「なぁ、本当に取れるのかよ」

そういった矢先にクレーンが犬の頭を掴んだ。

「よっしゃきた!」

まじか、といった顔でクレーンと光の顔を行き来する輝斗。

クレーンは犬の頭を掴んだまま出口まで運んだ。犬はドサッと音を立てて出口に落ちた。

「よっしゃ!取れた!」

「……マジで取れた……」

「んじゃ、あげる」

そう言ってほぼ無理やり輝斗に犬のぬいぐるみを押し付けた。

「僕もいらないし……」

と言いながら輝斗はしぶしぶぬいぐるみを受け取った。


それから、2人はゲームして、ゲームして、ゲームしてから、光は手ぶらで、輝斗は大きな犬のぬいぐるみを抱えてゲームセンターを出た。


なんだかんだ言いながら、その後数年間輝斗は犬のぬいぐるみを大事にとっておいたのだった。

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