第39話
特に大きなトラブルもなく真希の通夜から火葬までが終わった。葬儀の終わり際に真希の棺桶に花を入れていく時間には多くの涙が流れており、また火葬へ向かう最後の瞬間は形容し難い胸の苦しさが溢れていた。
人が荼毘に付すというのが、どれほどに辛いものなのか。
ただ、悲しみに暮れる暇もなく法事や役所での手続き等とすることが色々あり、意外にも時間はあっという間に過ぎていった。
---
「あの日から玲の笑顔が圧倒的に少なくなった気がする。いや、玲だけではない。玲を気遣っていた亜希の顔からも笑みが少なくなった気がする」
類はそう思っていたが、さすがに一日二日で悲しみが癒えるはずがなく当然と言えば当然であった。
そのため、正直なところ類は出来る限り子どもたちの傍にいてあげたかったが、海外での仕事もあり止むを得ず渡航することに。類が海外での仕事において重要なポジションにいるという事実は、こういったタイミングにおいては複雑と言える。
また、百合は百合で類と同じく海外での仕事が控えてあったので、同じように日本を旅立たなくてはならなかった。
真希が亡くなってからちょうど半年。
「前にも話していたが、再び海外に行く。これからはお母さんがいないけど…亜希、負担を掛けて申し訳ないけど頼む」
事情が事情だけに仕方がないとはいえ、親である類が子どもである亜希に頭を下げた。そして、
「玲もすまない。まだお母さんがいなくなって辛いだろうけど、亜希の言うことを聞いて、これまで通り過ごしてくれ」
と、玲にも頭を下げた。類に出来る子どもたちへの深謝であった。
「ただ、何かあれば連絡はしてくれ。出来るだけのことはするし、事情によっては帰国する」
次の日、類はドイツへ向けて日本を旅立った。
亜希も玲も不安は尽きなかっただろうが、それでも
「玲くん、大丈夫。お母さんは胸の中で生き続けているし、お父さんも何かあれば駆けつけてくれるから」
と少しでも玲の不安、安定を取り戻し切れない心に寄り添った。
その言葉に、玲も言葉は出さずとも小さく頷き亜希の手をぎゅっと握った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます