第36話
当然ながら、人の命というものが永遠ではないことを誰もが知っている。地球という星の歴史から見れば、人の命など泡沫にすぎない。ただ、その現実が傷心という形で目の前に現れることを人は無意識に避けていく。誰だって自分の身に降りかかる悲しみなど味わいたくはないもので、それでも誰かにそんな瞬間が訪れた後は悲壮感を漂わせて生きている。
誰かが「人の死が二回あって、一度目はその人が亡くなるとき、二度目はその人の存在が現世を生きる人の心からも消えるとき」といったような言葉を残している。現代社会において、あらゆる形で生前の記録は残せるわけで、それは有名人であろうとなかろうと線引きされることはない。
真希が亡くなるまでに、いろいろな記録がある。雫が見つけた百合の家に置いてあった写真だって立派な記録だ。これから先、星井家の家系図が続いていくとして、先祖となっていく記録を守り続けさえいれば真希に訪れる二度目の死は永遠に回避することが出来るのかもしれない。
真希が亡くなったため、類と葬儀屋は通夜や葬儀といった準備に取り掛からねばならない。そこで必要となるのが、真希の遺影である。
どれほどの写真を撮ったのだろうと類は思っていたが、探すと色々な写真が出てきた。
遺影に使う写真に関しては、家族で決めることにしていたので、百合や亜希、玲も交えて選んでいく。その中には類と百合が「ハッ」とする一枚があった。
「これ…遺影には合いそうですが…」
「その言い方…類さんも気付いた?」
「ええ。そんな気がします」
背景が水色の、いわゆる証明写真のような一枚が、まるで遺影のために撮られた写真に見えてならなかった。それは言い換えると、真希が誰の知らぬ間のどこかのタイミングで既に死期を悟っていた事を示したようにも見えた…ということである。
真希は自分の死を覚悟し、受け入れて生きていたと。
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