第28話
類の友人が営む洋食店を後にしようと車を走らせようとした時に鳴った着信音。その電話の相手は亜希であった。
「何かあったか」
類がそう訊くと、亜希は珍しく落ち着きを欠いて言葉を紡ぐ。
「お母さんが…」
若干過呼吸なのかという電話口から聞こえる息、そして震える声。
「何があった?」
先ほどのライトな感じとは違い、恐る恐るといったように再度訊く類。
「お母さんが倒れた…急いで戻ってきて!!」
その声は鬼気迫るというか無理矢理絞り出した声のような感じもあり、ましてや今回の目的が真希の検査に関わるだけに緊迫感が一気に押し寄せた。
「わかった。大変だが、とりあえず落ち着け。救急車は呼んだか?」
「これから呼ぼうとしていたところ。先にお父さんに連絡したの」
「そうか、救急車への連絡は俺がする。亜希はお母さんの様子を注視していて。急いで帰る」
「わかった……」
明らかに先ほどの娘の声とは違うわけで、事の重大さは言うまでもない。
急いで救急車を呼び、出来るだけの早さで自宅へ戻った。
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わずかに類の方が先に戻ったようで、程なくして救急車が到着した。
類が救急隊を自宅へ案内する。
担架に載せられて真希が運ばれる。
「いきなり倒れたの」
「そうか。寄り添ってくれてありがとな。玲は、どうした?」
「玲くんは、ずっと不安そうに…」
玲には真希の本当の事は明かしていないため、さぞ驚いたことであろう。病院という言葉を用いて話してはいたものの、真相は明かしていないまま。
「玲、大丈夫か」
類がそう訊くと、玲は涙を含ませた目で類を見る。
「お…お母さんは大丈夫なの?」
「あぁ、大丈夫だ。心配するな。ちょっと疲れたんだろう」
類はそう玲に言ったものの、玲の表情は不安そうなまま。
とりあえず、急いで自分たちも病院へ向かうために簡単に準備を始めることにした。
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雲間から日が差す空模様。晴れか曇りかと言えば、どちらかと言えば曇りという状況。ただ、天気予報では雨は降らないそうで、街を歩く人々も傘を持ってはいない。
病院へ行く車中、亜希は心配でならない玲の横で寄り添って、少しでも不安を取り除こうとしている。
「一体、真希の体で何が起きているというのか。検査入院を控えているだけに、単なる疲労とは思えない。ただ、真希を病が蝕んでいるとも信じたくはないが…」
類はそんなことを考え、不安を抱きながら車を走らせる。
病院は先日真希が来院したところで、類自身も訪れたことは無いが場所や簡単な情報は頭に入っている。
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