第37話 彼女に対する周りの印象は変わっていく
最初は不安だった修学旅行。
けれど行動班に優木が居てくれることで、そこまで悪くないかなと考えていた。
これが他のクラスメイトなら全く会話もなかったんだろうけど、優木がいるならそんなこともないし。
それに……まあ友人である優木と一緒に京都を回るのは楽しいし。
行動班の六人で並んで歩く。
さっきは外国人観光客の人とぶつかるちょっとしたアクシデントが起きたけど、大したことにはならなかった。
それを気にしているのもあるのか、優木は私の隣に立って、車道側を歩いてくれている。
と思ったけど、以前一緒に帰ったときなんかもそうだったかもしれない。
こういうことを自然としているところに彼の優しさが現れているんだろう。
今もチラチラと周りを確認してくれているし。
そんな彼の様子を隣で感じながら、私達はお土産を買うための目的地に到着した。
藤堂君はどちらかというと食べるのが目的みたいだけど。
ここに来るまでにも目にはいるものを結構な確率で食べていたし。
京都の食べ物は美味しいから、気持ちはよく分かるけど。
適当に店を回りながら、京都ならではの品ぞろえに全員で感心する。
東京では見ないお菓子も多くて、見ているだけで楽しめるっていうのはこういうことを言うんだろうなと思った。
「……京都だからなのかもしれないけど、抹茶が多いわね」
「抹茶と言えば京都、みたいなところはあるからね」
委員長と青木君の会話を聞きながら、彼らの横を通り過ぎる。
なかなかに広いこの店で買うことが自然な流れで決まったのか、各々が好きにお土産を選んでいる形だ。
遠くでは藤堂君がああでもない、こうでもないとか一人で呟きながらお土産を選んでいた。
隣に優木の気配を感じながら、店を適当に見て回る。
その中で、気に入ったお土産を見つけた。
これでいいかなと思い、手に取ってみる。
裏を向けてみるとお菓子に関する情報が書いてあったのでそれに目を通していると、優木が口を開いた。
「嵐山さん、それにするの?」
「うん、いいかなって」
私の言葉に優木は置いてある同じお菓子の箱を手に取った。
気に入ったのは小さな箱に入ったお菓子で、一つの箱で一人分。
さらに中は個包装らしく、結構長持ちするみたいだ。
少し迷ったものの、自分を入れた家族四人分のお菓子の箱を手に取ることにした。
その様子を見ていた優木が尋ねてくる。
「家族に?」
「うん、そのつもり」
とはいえ母と父に関してはお姉ちゃん経由になるだろう。
そう考えると、お姉ちゃんには感謝の意味を込めて二つ買っていくべきか? なんてことを考えたとき。
「?」
ふと隣に立つ優木が手にした箱の数が目に入る。
彼は私と同じように四つの箱を手に持っていた。
「……あれ? 優木って、三人家族だよね?」
確か前に兄弟姉妹は居ないと聞いた気がした。
不思議に思って聞いてみると、彼は微笑んで答えた。
「うんそうだよ。でもちょっと多い方が良いかなって」
「……まあ、それはそうだね。私もお姉ちゃんの分一つ多く買っていこう」
もう一つ箱を手に取る。
これでお土産を買うのは完了だ。
明日からは存分に楽しめる……といっても、明日は明日で全体行動なんだけど。
レジに向かい、お土産をおしゃれな紙袋に詰めてもらう。
私達以外にも藤堂君達も気に入ったお土産を買えたみたいで、皆が満足そうにその店を去った。
時間は夕暮れ時で、集合時間まではそこまで時間がない。
後はもう、集合場所に帰るだけだ。
長いと思っていた班別行動もあっという間だったな、なんてことを思ったりした。
「嵐山さん、楽しめた?」
「うん? ……うん、楽しかったよ。まあ、食べ歩きのせいで夕飯が少し心配だけどね」
隣を歩く優木に急に聞かれて驚いたけど、感想を口にした。
食べ歩きの件については優木も同じようなことを思っていたのか、クスクスと笑ってくれる。
「そうだね。少し夕飯は頑張らないとね」
そんな他愛のない話をしながら、私達は修学旅行の二日目を終えていく。
後ろを歩く藤堂君が私達を見ていたけど、話に夢中だった私達はそれには気づかなかった。
◆◆◆
旅館に戻り、入浴を済ませた俺は部屋へと戻ろうとする。
廊下を歩いていると、壁に体を預けている蓮を見つけた。
「蓮?」
「よっ、夜空。まだ少し時間あるだろ? 少し付き合えよ」
「ああ、いいよ」
俺は蓮と一緒に旅館の広間のような場所に向かう。
ゆったりとした椅子やテーブルが配置されていて、何人かの生徒が座って談話していた。
俺達も自販機で飲み物を購入し、奥の方にある場所を選んで、二人して腰を下ろす。
「で、どうかしたのか?」
「ああ、明後日の大阪の件でちょっと相談があってな」
飲み物を一口飲んで尋ねれば、蓮が切り出したのは四日目、最終日のことだった。
この修学旅行は一日目が奈良、二日目三日目が京都、そして最終日が大阪になっている。
最終日の大阪では大規模テーマパークに行くので、ここを一番楽しみにしているクラスメイトも多い。
朝から遊べるものの、帰りの新幹線の都合があるからそこまで長くは滞在できないのが残念な点だけど。
「明後日だけど、二人組のペア行動にしたいんだ。青木と矢島さんを一緒にしてやりたいなって、そう思ってさ」
「青木と矢島さん?」
確かに昨日今日の昼で、二人が一緒にいるところは多かった。
それを思い出しながら聞き返して見ると、蓮は頷いた。
「俺の勘だけど、あの二人はお互いに結構いい雰囲気だ。それに少し後押しをしてやろうと思ってな。特に青木にはお世話になっているし」
「……蓮、お前」
俺は感極まったように呟く。
「お前……いい奴だな」
「……は?」
なにを言っているんだという顔をする蓮。
けれど俺は微笑んで、なんでもない、と言った。
去年からの付き合いだけど、意外と気が回るタイプなのには気づいていたし、それもまた蓮の良いところだ。
「俺は構わないけど、栗原さんや嵐山さんには話したのか?」
「委員長にはこの後か、遅くても明日には話そうと思ってる……嵐山さんは……お前の方から軽く伝えてくれないか?」
「なるほどね。まあいいよ。嵐山さんも話せば分かってくれると思うし、仮に誰かがペアで行動しても文句はないと思うし」
というよりも、彼女は気にしなさそうだ。
話したところで、そうなんだ、いいんじゃない? で終わりそうではある。
そんなことを考えていると、蓮は、ああいや、と言い出した。
「どうせペア組むなら全員組もうかと思っているんだ。夜空と嵐山さん、俺と委員長、そして青木と矢島さんって感じでさ」
「ああ、なるほどね。まあいいんじゃないか? それが自然な流れだろうし、テーマパークならペアでも十分楽しめるだろ」
むしろああいう大型リゾートパークの乗り物は二人横並びが主だった筈だ。
ペアの方が行動しやすいっていうのはあるかもしれない。
そう考えて、賛成の意を伝えた。
「おっけー、じゃあそんな感じで頼むぜ」
「おう」
話が一段落したからか、蓮は飲み物を再び一口。
飲み終わったところで、そういえば、と切り出した。
「昨日今日と一緒に行動してみたけど、嵐山さんってなんて言うか……そこまで怖くないんだなって思ったよ。いや、まだ怖くはあるんだけど、なんて言えばいいのかな……」
「だから言っただろ? 嵐山さんはそんな人じゃないって」
蓮の中でも嵐山さんに対する印象が変わってきたようで、それが嬉しくてつい笑ってしまう。
「……ああ、そうだな。そのうち沙織も含めて学校で四人やそれ以上の人数で話すような日だって来るのかもな」
「それは……楽しいかもな」
もう少し時間はかかるかもしれないけど、そうやって笑い合える日々が来ればいいなと思う。
東川だけじゃなくて、青木や矢島さん、栗原さんとかとも。
「まっ、そのためにはまずは修学旅行を楽しい思い出にしないとな。嵐山さんについては任せたぜ、夜空」
「ああ、栗原さんに関してはよろしく」
そう二人して言い合って、俺達は席を立った。
修学旅行二日目。折り返し地点を越えて、修学旅行は後半へと移っていく。
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