第2話 来訪者の正体

 二人のやり取りを、シェレンは呆れてみていたが、口を挟むことにする。

「バカはそのぐらいで止めておけ。ちゃんと受付係の役割を果たせ」

 シェレンがサクラをたしなめる。

「仕方ない。保険証を出せ」

 サクラはイヤイヤながら業務を始める。まったく病院の受付係らしくない態度である。

 女装男はハンドバックから保険証を取りだし、サクラに渡す。

 するとサクラの眉根を寄せる。

「これは地球の国民健康保険証じゃない。ナカムラ・ケンジさん」

 サクラは呆れ顔で言った。

「ナカムラ・ケンジ言うなあ! 俺の名前は、エリザベスだ」

 女装男は言った。

 サクラはもう一度眉根を寄せる。

 女性の名前で名乗ったりするのは、オカマの行為であり、女装趣味とは違う。

「芸名だが、源氏名だか知らないけど、医療機関では本名を名乗りなさい」

 サクラはあっさり切って捨てた。

 エリザベスことナカムラ・ケンジは歯ぎしりする。

「それと、ここはアルフヘイム星。アルフヘイム星の国民健康保険証じゃないと、医療費全額負担になるけど、支払えるの?」

 サクラは厳しい目つきで聞く。

 アルフヘイム星とは、地球から最も近い人が住む惑星である。地球人によって発見され、開発が始められた惑星で歴史も浅かった。

 地球は地球連合国と言う一つの国を形成している。しかし、アルフヘイムは地球連合国とは別の国として建国されていた。

 その為、健康保険証も全く別組織で運用されている。だから、地球の保険証はここでは使えない。

「いくらぐらいするんだ」

 エリザベスが聞き返す。

「医療行為によるから、いくらとは断定できん」

 サクラはつれない。

「病名は知っている。あとは治せるかどうかなんだ」

「知っていると言う事は、地球の医療機関で診察受けているってこと?」

「当り前だ。地球では治せない不治の病でも、エルフの国アルフヘイムなら治せると言う噂を聞いたからこうしてやって来たのだ」

「それじゃあ、診断書や紹介状とかある?」

「そんな物はない」

 エリザベスの答えにサクラは、少し考え込む。

「治療や検査とか一切しないで、問診と治療方針の話し合いぐらいなら、二万エルフ円ぐらいね」

「単位が全然わからん。バーグか、クレジットで教えろ」

 バーグは銀河帝国通貨、クレジットは地球連合国通貨である。

「一バーグ、百エルフ円ぐらい。缶ジュース一本百二十エルフ円。後は自分で計算して」

 エリザベスは計算する。

「たかー」

「地球の医療機関と変わらないと思うよ。ただし、地球の医療費は三割負担だから高く感じるかも知れないだろうけど」

 三割負担だから地球での医療費の方が安く感じるが、もし十割負担だとして換算すると金額は同じくらいになる。

「金額は地球とあまり変わらないわけだ」

 エリザベスはホッとしている。

「あのね。地球で治せない病気が、一回の治療だけで済まないでしょ。常識的に考えてアルフヘイムの国民健康保険に加入しないと治療費払えないわよ」

「治せるかどうかもわからない内に、健康保険なんかに加入できるか」

 エリザベスの意見ももっともだ。アルフヘイムの国民健康保険に加入する為には、わざわざ帰化する必要まではないが、地球からアルフヘイムに住民票を移動させる必要がある。アルフヘイムに住民票を移動させるには、さらに面倒な手続きの他にかなりお金がかかるからだ。

「そんなこと心配する前に確認することがあるんじゃないか?」

 突然シェレンが口を挟んだ。サクラは首を傾げる。

「この病院はエルフ専門病院だぞ。ノーマルも見れない事はないが、病気の種類によっては、エルフじゃないと治せないぞ」

 シェレンが言った。

 エルフとは、地球人の一種だ。地球人にはノーマル種とエルフ種の二種類ある。ノーマル種はさらに肌の色が、黒色、白色、黄色の三種類いて、エルフ種は黄色のノーマル種とほぼ同じ外見をしていた。

 エルフ種とノーマル種の違いは三つある。

 一つは、エルフ種はノーマル種より、強力な自然治癒力があること。

 一つは、急激な環境変化に対する適応能力が高く、体の特徴を変異させること。

 一つは、強力な自然治癒力や環境適応の為の変異をすると副作用として寿命が延びること。

「それは問題ありません。地球の保険証にエルフと書いてありますし、手加減したとはいえ私のパンチを喰らってこんなに早く立てるノーマルはいません」

 サクラはしれっと言う。

「お前が手加減して殴るなんておかしいと思ったが、何か理由でもあったのか?」

 あれだけ強力な攻撃でも手加減していたのだ。

「殴ろうとした瞬間、不気味な顔に気付いて、少しでも触りたくないと思ってしまい、つい手を引っ込めてしまったのです」

「な、なんだと~」

 エリザベスはワナワナと震える。

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