快刀乱麻の刑事零課

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第1話 秘密の零課

 母は優しかった。

 昔、とある夏の風景に自身と母が映る。 

 「信太しんた!その怪我、またケンカ?」

 母はなんでもお見通しだった。

 「アイツが先に手出したんだ。オレは悪くない。」

 「悪いです!力っていうのは人を守るためにあるんだよ!」

 「守るって何をさ?」

 シンタはふてくされるばかりだった。

 「それは自分で決めな。さ、怪我の手当するからそこ座って。」

 母は...優しかった...



 「行ってきまーす。」

 「いってら。」

 父と挨拶をかわす。

 「行ってきます。」

 母の写真に呟く。

 若い男が神社横の家を出る。鳥居を潜る前にふとあることを思い出した。

 「そういや、今日本部に来るよう言われたっけ。」

 踵を返し、お参りをしに行く。

 (何か変なことが起りませんように。)

 一応おみくじを引く。

 今日の運勢は...末吉...

 (うーん...ビミョー...)

 おみくじをしまい、神社を後にする。いつものバス停で待っている間本部から呼ばれた理由についてモヤモヤしていた。何せこんな経験をしたことがないからだ。スマホを取り出して調べる。

 [上司 呼び出し 刑事...]

 サジェストを見ると

 [... クビ]

 衝撃的な内容に調べる前にバックスペースを長押しした。

 「まだ入って3ヶ月だぞ...」

 そう呟くとバスが来た。

 バスはガラガラで顔見知りの運転手のおじさんがいた。

 「おう。今日はちょっと早いんだね。」

 「色々とありましてね。」

 「まあ。お前さん23才でも刑事なんだから色々ありまくりだろうね。」

軽い会話をして席に座るもモヤモヤは晴れず、気分転換にラジオニュースを聞いた。

 [7/13のニュースです。本日未明、新潟県のとあるアパートの4人が同時刻行方不明になりました。警察庁が現在捜査を行っています。]

 (これで今月4件目か...)

 「そういえば今日また行方不明のやつ出たんだってな。世の中物騒だね。」

 「嫌味なら受け付けてませんよ。」

 「知ってるよ。ガハハ。」

 しかし、実際この事件の捜査に出ることにはなりそうだ。腹を括ってやるしかない。

 運賃を払いバスを降り警察庁に入る。

 いつもの重い警視庁の空気は一段と重く。呼吸が少し辛い。エレベーターで上に行く。正直呼び出しが嫌すぎて、途中降りる人について行きたいくらいだった。

 警視庁長官の部屋に立つ。大きい扉から木の深い香りが漂う。両手で頬を叩き、気合いを入れる。

 定刻。

 3回ノックし、大きい声で

 「失礼します!」

 奥から厳格のある声で呼ばれた。

 ドアを開ける。

 奥の机には正装を着た、いかにもトップな雰囲気の男がいた。

 「確認だけど君は立川たちかわ信太しんた君で合っているね。」

 「はい...」

 今朝の検索のサジェストが頭によぎる。緊張で心臓が押し潰されそうだった。

 「ええと。君を刑事零課に移動させます。」

 「はい...」

 そう言って部屋を出ようとするが、言葉を遅れて理解し、振り返る。

 「...はい?」

 「いや、ほんとごめんね。入れる課間違えちゃったんだ。マジですまん。」

 (ん?それは...どゆことだ?)

 「クビではないってことですか?」

 「ん?ないない。その若さでそんなのしたら、こっちが困っちゃうよ。」

 (ああ。確かに。)

 「でもその零課なんてありましたっけ?」

 「おお。分からないフリ。やっぱり素質があるね。いや、良いんだ。ここでは魔法のことを秘密にしなくて。」

 「えっと?どういう?魔法?」

 警察庁長官が手を叩く。

 後で扉が開く。そこには、同い年くらいの女性が立っていた。

 「移動の支度ができました。すぐに向かいましょう。」

 言われるまま連れて行かれる。

 (零課?秘密?なんのことだ?)

 エレベーターに乗り、扉を閉める。

 その時、女性がどこからともなく30cmくらいの杖を取り出した。

 「あの〜...どこに向かってますか?」

 女性は杖をドアの前で横に薙ぐように振る。その際微かに杖の先が光ったように見えた。

 「先ほど話されていた零課の部屋です。」

 ふとエレベーターの階を見ると目を疑った。

 「0...階⁉︎」

 [0階です。]

 厚い扉が開くと両壁に真空管ランプがずらっと並んだ廊下に出た。暗く遠く、奥が見えない。

 「零課はこの先です。」

 女性が臆さず先導する。靴の音がよく反響し、恐怖心を掻き立てる。

 突き当たりに着くとドアがあった。幼い頃に見た霊安室を思い出す。

 「こちらになります。」

 シンタはドアを開ける。

 そこに広がっていたのは、ごく普通のオフィスだった。

 (ああ、意外と普通の部屋だ。)

 「案内ありがとうございま...」

 振り向くと女性は居なくなっていた。

 「えっ⁉︎どこ行った⁉︎」

 その時後ろから男の人の声がした。

 「や!どうだい?シンタ君。僕の幻影魔法は。」

 「え⁉︎何事?」

 「おっと紹介が先だね。僕は茨玉うばたま隆治たかよし。一応ここで警部をやってる。他の人たちは今捜査に行ってるし、また今度でいいや。それより...」

 「はい...」

 「君...立川先輩の息子さんだろ!期待の新人ってやつだな!」

 「と言いますと?」

 「勿体ぶるなよ!お前の母親だよ!」

 (この人...母さんの後輩なのか。何者なんだ?)

 「...母がなんですか?」

 「あの人は昔に僕のバディでね。最強っていうのは立川先輩のための単語だと思うくらい強かったね。」

 (知らなかった。母が警察の仕事をしていたのは知っていたが、そんな功績があったのか。)

 「話したいことはたくさんあるけど、今日のところはまず、魔術測定だね。」

 「魔術?」

 「おいおい!やめてくれ。ここは零課だぜ?その対応はナンセンスってなもんだ。真面目な話ここに来て魔術知らないやつなんて死刑ものだぞ!」

 (死刑⁉︎マジで⁉︎こっわ⁉︎)

 「まさか...知らないなんて言わないよな?」

 「ええ。知ってますよ魔術...魔術知らない魔術師なんて耳のない食パンですよー。アハハ...」

 白けた。ハッタリはよくなかったか。

 「...うーん」

 (あれ?まずい?俺死ぬ?)

 「耳なくてもサンドイッチにできるし良くね?」

 (あぶねー!ミステイク回避!)

 「そうか!耳があるから食パンってことか!食パンのアイデンティティが耳ってことか!良いセンス!ウバタマポイント10てーん!」

 (凄まじい横文字...って何言ってんだ、この人?おまけに謎ポイントつけられたんだけど...)

 「あはは...で自分は何からやれば?」

 「じゃあとりあえず、魔術射撃から!」

 (終わったー!)

 

 〜魔術射撃場〜

 殺風景な白く広い部屋。どこかゲームのチュートリアルのような空間だ。

 「じゃあこれやるから。魔力こめてあの的狙って。」

 「...ハイ...」

 

 (サンキュー。サヨナラ。俺の人生...)

 魔術なんて全く知らないが射撃の成績は訓練校時代良い方ではあった。気合いでやるしかない。

 肩幅に足開く。脇締める。手添える。狙い定める。

 引き金引く...カチッ!

 「あれ?引き金引けない。」

 「おーい!魔力こめんと撃てないぞー!」

 (魔術使ったことない人はどうすれば良いんですかね!)

 その時全身が冷たく感じた。まるで血が抜かれるような感覚だ。血のようなものの流れ着く先は手先、いや正確には銃だった。

 勘でも流石に分かる。

 (これ撃てるわ。)

 シンタが初めて魔術師になった瞬間だった。

 ゾーンに入ったかのように静かに的を狙う。

 発砲——

 魔力を帯びた銃弾は普通の拳銃よりも大きな衝撃や音を立てて、的に命中した。

 シンタは安堵でいっぱいだった。

 

 「思ったより威力でないね。」

 「え?」

 「これじゃ普通の魔法使い以下じゃない?」

 (え?何この人、急に辛辣...)

 「貸せ。」

 「ああ...はい。」

 手をさし出して来たので銃を渡した。

 「これくらいやってもらわないと。」

 タカヨシは銃を片手で持ち、的に向ける。

 銃口から三つの青白い魔法陣が出た。

 発砲——

 その瞬間的が消えた。遅れて凄まじい衝撃波と爆音がシンタを襲う。思わず尻もちをついてしまった。

 「あーすげーや。大砲かよ。」

 「シンタ。お前警察学校で習わなかったか?魔力には大きく分けて3種類ある。高揚のプラス魔力、安静のマイナス魔力。そして、その二つが均衡しているゼロ魔力。」

 「はあ。か、確認しても良いですか?」

 「いいか?魔力は引き算だ。今のお前はプラス魔力を放出させようとしていたが、マイナス魔力の抑制をしていなかった。

 ただの魔力射撃とかだったらプラス魔力とマイナス魔力の差で大きかった方がその攻撃としての〇〇魔力になる。差が大きければ大きいほど威力は高くなる。」

 「つまり、どんなに強い魔力を出しても差が小さければ威力も小さくなるってことですか?」

 「うん、そんな感じ。先輩の息子って聞いてたからそこら辺得意だと思ったんだけどな。」

 「え?」

 「先輩は片方の魔力を完全に抑制できた初の魔術師だったんだ。さっき僕が出した魔術射撃、マイナスとプラスが4:3ってとこだったんだ。僕の魔力消費以下で4倍近くの威力が出せるってこと。」

 「大砲4発分ってこと⁉︎」

 「まあそんな感じ。」

 母は優しかった。さらに強かったらしい...

 

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