猫ナデシコ

@kitanokaneuo

猫ナデシコ騒動

「金魚さん、また、うちの猫が逃げ出したので探して貰えませんか」と裏のアパートの学生さんが訪ねてきました。

「またですか」とつい言ってしまいました。

「すみません」と謝られても、「猫」探すの大変なんです。

学生さんの「猫」は実は「猫ナデシコ」という」植物なのです。

ナデシコの中に手鞠草と言う種類があって、緑色のボール状の花が珍しい種類です。

その手鞠草の中でも白い綿毛状のタンポポのような形状の物が「猫ナデシコ」です。

受粉が終わるとこのボール状の花がそのまま風に乗ってとんでいってしまうのです。

しかも、手触りがフワフワして猫の毛のような感じなので「猫ナデシコ」と呼ばれてます。

このフワフワ浮いてる状態がまるで猫みたいに気まぐれなところも「猫ナデシコ」と呼ばれる理由なのかもしれません。

アパートとかで猫の飼えない環境でも、猫のいる生活がしたいというので学生さんにこの「猫ナデシコ」を教えたのですけど、どういう分けか良く逃げ出すのです。

しかも逃げ出しておきながら、帰り道が分からなくてどこかでミィーミィーと泣いてるところも猫そのもの。

ナデシコは鳴きませんけど、学生さんのとこのは良く逃げるので、ナデシコ用の風鈴付けてあるのです。

最近ペットショップには、この「猫ナデシコ」用のグッズまで売っているのです。

最近は、猫ナデシコ用の猫じゃらしなる物も売っているのです。

宙に浮かんでいる猫ナデシコの玉に近づけるとよってくると言うのです。なんでも静電気の作用を使っているというのですけど、猫ナデシコが寄ってくると言うのが人気の玩具だそうです。

猫ナデシコは猫のようですけど、遊ぶことはしないと思うのですけど、人気があるそうです。

「それで、どうして逃げ出したのですか」

「昨日、つい喧嘩しまして、出て行けと言ってしまって」

と言うのです。

「あらぁ、出ていけはダメでしょう。どんなに喧嘩しても、出て行けと言っては」

「はい、昨日は期末テストの準備もあって、ちょっと焦っていたのに、パソコンのキーボードに纏わり付いてきていて、あまりにしつこくて、つい言ってしまって」

「猫がパソコンなどを使っていると、纏わり付くことは良くあるでしょう。そんなときは、少し遊んでやると飽きて直ぐいなくなるのに」

「はぁ、そうなるとそれはそれで腹が立つのですけど」

「猫は気まぐれ、だから可愛いのでは」

「はい、さっきスーパーの駐車場の方に行ったら、白いのが駐車場の中をフワフワ浮いてたので、てっきりうちの猫だと追いかけたら、スーパーの袋でした」

「あれはよく似てますからね」

「ところで、風鈴は付けてあるのですか」

「はい、うちの猫だと分かるように三毛と書いてあります」

「お宅のは珍しく、三毛の雄猫ナデシコですからね」

「風に吹かれると、ニャーリンと鳴りますから」

「ニャーリンですね」

それから二人で、河原の方とか、公園の方とか色々探したのですけど見つからないのです。

「いないなぁ、本当に出て行ったのかな」と学生さんはもう泣き出しそうな雰囲気。

こんなにの付き合わされてる私の方が泣きたいくらいなのですけど。

「帰って見ますか」

「金魚さん、諦めたのですか」

「まさか、これだけ探して見つからないのは、そんなに遠くに行ってないのかも知りません。以外と戻っていたりして」

「まさか、猫ナデシコですよ。戻ってくるなんて」

「戻るというか、探すところが間違っていると思うのですよ」

二人でアパートに戻って耳を澄ますと「ニャーリン」と風鈴の音がします。

「近くにいますよ」と言って二人で探したのですけど、見つからないのです。

二人でもう一度、風吹けとと思っていると再び「ニャーリン」と音がしました。

音はソファの下からです。

外に逃げ出していたわけではないのです。

大切な物がなくなったときは、もう一度冷静になって回りを探した方が良いのかも。


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