酔ってる時だけ異世界転移 〜おっさんの説教が世界を救う?最強S級スキル『オヤジノコゴト』で無双する
イヌガミトウマ
第1升 酔っ払い、異世界転移する
――あん? どこだ? ここは。
周りを見渡すと、どうやら居酒屋っぽい感じはするんだが……。何だ? みんな外国人みたいな顔しやがって。夢か……?
たしか……そうだ。たしか、俺はヤケ酒を飲んでて。なんでヤケ酒を飲んでたんだっけな。
まあいいか。考えるのもめんどくせぇや。
「おい、そこのおっさん! 平たい顔した黒髪の……お前」
「あん? 俺のことか?」
「そうだ。悪いがそこ、どいてくれ。今からこいつと殺し合いをするんだ」
ナイフを持った金髪の男が、体躯の良い茶髪の男と対峙している。
「おいおい、穏やかじゃあないねぇ。ちょっと
「どっか行けよ、おっさん。お前には関係ねぇだろ」
「ガタガタうるせぇ! おい、金髪と茶髪! いいから座れ! このスットコドッコイ」
――キュイィィィン
俺の怒号に、金髪と茶髪が大人しく座る。周りの客が魅入るように集まってきた。
「なんだ、体が言うことをきかねぇ。座らなきゃいけないって気持ちが体のを制御しやがる……」
「さて、
金髪が語りだす――。
「1年前に、俺の兄貴がこの茶髪に殺されたんだ。優しくて、強くて……いい兄貴だったのに……。だから、俺がこいつを殺さなきゃ兄貴が浮かばれねぇだろ」
「もとはと言えば、お前の兄貴が、俺の兄貴を殺したからだろ」
茶髪が反論をする。
――やれやれ。
「わかった、わかった。で、おい茶髪の
「……あぁ。2人いる。まだ小さいけどな」
「そうか。じゃぁ、もしも、今日お前さんがこの金髪に殺されちまったら、いつか弟のどっちかが仇を取ってくれるんだろうな。で、さらにその仇をとられて……。いずれ、その憎しみの連鎖がお前ら一族を滅ぼすんだ」
俺の説教に、下を向き深く考える2人。
「なぁ、お前さんらの所で、その憎しみの連鎖、断ち切るってのはどうだい?」
「な! それじゃ俺の兄貴が浮かばれねぇ!」
金髪が興奮する。
「死んだ兄貴が、浮かぶか沈むかなんて知ったこっちゃねぇんだよ! 生きてるのはお前らだろ。」
しばらく沈黙が続く。周りの客も、息を呑みその様子を見つめている。
「たしかに……。そうだな……。わかったよ。仇討ちはやめる」
「はっはっは! よーし。それじゃぁ解決だ! 店員さん酒を3杯持ってきてくれ」
まだ、気まずそうにしている金髪と茶髪の前に酒が運ばれてくる。
「よし! 乾杯だ。それ飲んだら、もう恨みっこなしだぞ!」
2人と俺は酒を酌み交わし、打ち解けたような気がするが、そんなことはどうでもいいほど気持ち悪い。
――おえぇぇぇぇ。
俺は、そのまま酔いつぶれた。
***
――気持ち悪っ……
吐き気と頭痛で目を覚ますと自宅のベッドだった。
なんか、へんな夢を見た気がするな。
争う若者に説教して、和解させる……みたいな感じの夢だ。
まぁ悪い気はしないな。良い夢の類だ。
でも、ダメだ。二日酔いがひどい。今日は午前休を取ろう。俺は会社に電話してその旨を伝えた。
俺は
仕事は大してできない俺が、そこそこのポストについているのは、部下へ説教が上手いからだ。俺に説教された部下は、反省したり、腐った性根を叩き直されたり、モチベーションがあがったり、と。
それは、俺の匙加減ひとつ。
特に、飲みの場での説教には定評がある。俺に説教されたい部下が行列を作る。
おかげで俺の部署は活気に溢れ、好成績。どんどん俺が出世するっていう仕組みだ。そのうち、最年少取締役になっちまうかもしれないな。
――さて、今日の説教部屋は、と。
俺は手帳を開く。
今日は、社内不倫をしている部下と飲みながら説教だ。不倫なんてもんが極刑に値するような風潮だもんな。まぁ、社内不倫は百害あって一利しか無し! だ。
会社を定時で上がると、その部下を連れて小料理屋へ向かう。
席につくと、まずは部下の気持ちをほぐすために、熱燗をキュッと飲ます。
まだだ、もうちょっと飲んでから説教しなきゃ意味がねぇ。
何合か飲み、いいタイミングで、社内不倫をしている部下に説教を始めた。
「なぁ。お前らは恋愛を楽しんでるかもしれねぇけどな。一旦冷静になって考えてみろよ。
結局、結婚してからしばらく感じなかった恋愛感情ごっこなんだよ」
「おっと、酒が無くなったな。おい、女将。こっちに熱燗つけてくんな」
――あれ、飲みすぎたか? 意識が薄れる。
気がついた俺はあたりを見回す。真っ白な空間に噴水が湧いている。
噴水からはいい香りが、ん?これは酒か!
俺は噴水に飛びつき顔を付けて飲み始める。風流に例えれば、水飲み鳥みたいな感じだな。
――うめぇ! 酒が湧き出るなんて、天国みたいなところだな。
「竜次郎。貴方って人間は、どんだけお酒が好きなんですか?」
声の主を探すと、綺麗なねぇちゃんがスケベェな薄い羽衣を着てフカフカの椅子に座っている。
「おう! ねぇちゃん。ホステスさんかい?」
「無礼な人間ね……。一応、神の一柱なんだけど。貴方、昨日のこと、覚えてないのかしら」
「あぁ、昨日は飲みすぎちまってね、記憶は途切れ途切れよ」
「また説明しないといけないのね。はぁ……」
自分を神と名乗る、ねぇちゃんが話始める。
「貴方は昨日、お酒の飲み過ぎで、死んだのよ。予定にない死だったから、神たちの話し合いで、異世界に転生か転移させようという話になったのだけど、貴方のことを担当する神が一柱もいなかったの。死んだ原因がお酒って言う理由だけで、酒の神である、わたくし、オイノスが面倒を見ることになったのよ。災難よ。災難。」
「異世界? 転移? 何言ってるんだねぇちゃん。俺はさっきまで俺の世界にいたじゃあねぇか。」
「それが、不思議なのよ。どうやら、お酒に酔っている時だけ転移するっていう、わけのわからない現象が起きたの」
「そうか。酔いが覚めれば戻れるんだな。じゃぁ、なんにも問題はねぇや! さあ、さっさと異世界に飛ばしてくんな」
「おかしな人間ね。普通は驚いたり、たじろいだりするものよ」
「小せぇ事は気にしねぇ
「昨日説明した神から与えられるスキルのこと覚え……てなさそうね」
「貴方に与えられたスキルは【
「まあ、酔っている間だけの異世界生活になるけど、精々楽しみなさい」
「今回の転移先は王都にある中流家庭よ」
「さぁ、早く行って! お酒臭くてたまらないわ」
「酒の神である私が、お酒臭いって思うなんて、あの人間、一体何者なのかしら……」
***
「あん? ここか? 中流家庭ってのは!」
気がつくと、どっかの家の中。30歳ってところかな、夫婦が言い争いをしている。
「誰ですか? アナタは」
「俺ぁ、竜次郎ってんだ。よろしくな」
「で、お前さんたちはなんか揉めてる雰囲気だけど、何があったんだい?
「ちょっと、ウチから出ていってくださいよ。不法侵入ですよ! 衛兵を呼びますよ?」
いきり立つ奥さんが捲し立てる。
「まぁまぁ、落ち着いて座んなって」
――キュイィィィン
「……はい」
素直に座る夫婦たち。
(なんだこの感覚、これが【
「さあ、
「ウチの旦那が若い女と浮気したんですよ」
「はっはっは! そりゃぁ本当かい!おい、旦那、バレちまったのか」
「バレなきゃいいって話じゃないですよ竜次郎さん」
「はっはっは。違ぇねぇ」
「で、旦那、どこで出会ったんだい? その娘さんとは」
奥さんの視線を気にしながら、旦那が重い口を開く。
「昔、妻とよく行った市場で財布を落として困ってる娘がいたんです。最初は人助けの気持ちで、買い出しの支払いをしてあげただけだったんですけど、一緒に買物をしていると……。妻との若かりし時の、気持ちを思い出してしまって……」
「ははぁん。それでお熱を上げちまったって
「竜次郎さん、何言ってるのですか? よその女なんかに、もう会わないでほしいわ」
「奥さん、そりゃぁダメだ。人間てぇのはけじめってのが大事なんだ」
「それにな、アンタにだって原因はあるんだぜ? しばらく旦那とデートしてねぇだろ」
「……はい」
「だから旦那がよその女と恋愛ごっこしちまうんだよ」
「ほら、旦那! さっさと行ってきな! 安心しな俺ぁお前さんの女房に横恋慕なんて野暮な真似はしねぇからよ」
俺は旦那の尻を叩いて、追ん出してやった。
「じゃぁ、奥さん。解決してやったお礼に一献、付けてくれや」
俺は奥さんに出された酒を飲み干すと、意識が遠のき潰れてしまった。
***
目覚めると自宅のベッドの上。どうやら現実世界に戻ってきたみたいだな。
「っ! 痛てて。今日も二日酔いかよ」
あの夫婦、無事仲直りできたかな。
まぁ、いいか。
会社に行こう。
いや、やっぱり無理だ……。半休取るかな。
酔う度に異世界転移する竜次郎は、異世界の揉め事を次々と解決していくことになる。
そして、それは異世界全体の運命を大きく変えることになることを、竜次郎と女神オイノスはまだ知らない。
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