一条さんには 逆らえない。



 ―――数分後。


「い、一条さん……」


「ん? なーに、ポチ」


「あ、あのですね……」


「だから、なによ?」


「そ、その……そろそろ許していただけないでしょうか……?」


「許す? どうして?」


「いや、だって……もう十分なくらいに罰は受けたと思うんですが……」


「は? なにふざけたこと言ってるの? まだまだ足りないわよ!」


「でも……」


「ほら、無駄口ばかり叩いてないで、さっさと続けなさい」


 一条さんはそう言いながら、早くしろと催促をしてくる。これ以上は意見したところで、聞き入れてもらうことはできないだろう。そう判断した僕は諦めて従うことにした。


「じゃあ、えっと……再開しますね」


「ええ、いいわよ」


 彼女の承諾を得たところで、僕は一条さんの肩の辺りに手を伸ばし、それからそっと彼女の身体に手を触れさせた。


「んっ……」


 すると、一条さんは一瞬だけ身体をビクッと震わせる反応を見せる。そうした反応に僕はドキッとしてしまうけど、煩悩を振り切ってなんとか続きをしていく。


 僕は触れた部分、彼女の肩を手で掴むと……ゆっくりとした動作で揉み始めた。要するにマッサージをしているわけである。恐る恐るといった感じだけれども、継続的に揉んでいく。


「んっ……ふぅっ……」


 彼女の口から僅かに息が漏れてきたのがわかった。くすぐったいような感じなのだろうか。それとも、我慢しているのだろうか。


「ど、どうでしょうか……?」


 マッサージを続けながら、僕は一条さんに力加減について聞いてみた。


「んんっ……そうね……ま、まぁ……悪くないんじゃない……」


「そ、そうですか? ありがとうございます……」


 僕はお礼を言いつつも、手を動かし続ける。すると、彼女はまた小さく声を漏らした。その反応にドキッとしてしまうが、それを悟られないように平静を装う。


「その、それにしても……どうしてこれが、罰ゲームなんですか?」


「なに? んっ……なにか、文句でもあるの?」


「いや、だって……なんかいつもと、違いますよね……?」


「気のせいよ。それに、これはポチが悪いんだから」


「ぼ、僕ですか……?」


「本当はもっと違う罰ゲームを考えていたのに、ポチが変なことをするから、有栖ちゃんは疲れちゃったの」


「は、はぁ……」


「だから、ポチは責任を持ってあたしを癒しなさい。全身くまなく、ね」


「わ、わかりました……」


 僕はそう答えると、一条さんの肩から今度は腕に手を移動させる。そして、そのまま彼女の二の腕辺りを揉みほぐしていく。


「ふぅっ……」


 一条さんは先ほどよりも強い反応を示すようになったが、それでも声は押し殺しているようだった。


 しかし、それが逆に妙に艶めかしさを感じるというか、なんというか……ちょっと勘弁して欲しい。


「んんっ……ねぇ、ポチ……」


「は、はい。なんでしょうか?」


「もう少し強くしても、いいわよ」


「……わかりました」


 僕はそう答えると、マッサージをする手を少しだけ強くしてみた。


「んっ……あっ……」


 一条さんはまた声を漏らしたかと思うと、身体をビクッと震わせる。その反応を見て、僕は止めてしまった。


「も、もしかして、痛かったですか?」


 僕が心配になって問い掛けると、彼女は少し間を空けてから答えた。


「……ううん。大丈夫よ。だから、続けて」


「は、はい……」


 僕はそう言うと、マッサージを続けることにする。ゆっくりとした動作で、彼女の腕を撫でていく。


 ……なんだろう、これ。僕は一体、なにをさせられているのだろうか。


 ちょっとした虚無感に襲われつつも、僕は腕から足に、そして背中にへと場所を移しながらマッサージを続けていった。


 そしてまた数十分が経過して……


「んー、まぁ……これくらいでいいんじゃないかしら」


「そ、そうですか……」


 一条さんはそう言ってようやく僕に対して許しをくれた。僕は安堵すると同時に、どっと疲れが襲ってくるのを感じた。


「はぁ……」


 思わず溜息が出てしまう。そんな僕を見て、一条さんはニヤニヤとした笑みを向けてきた。


「あらぁ? ポチってば、なーに溜息なんて吐いちゃってるのかしら?」


「いえ、別に……」


「せっかく、このあたしの身体に触らせてあげたんだから、感謝しなさいよね」


「は、はぁ……」


 僕は思わず生返事をしてしまう。それに不満を覚えたのか、一条さんはジト目になって僕を睨みつけてきた。


「ちょっと、なによその反応は」


「え? あ、いや……別に他意はないですよ?」


「ふーん」


 僕は慌てて言い訳をするが、彼女は納得していないようだった。そして少ししてから、一条さんは小さくため息をつくと、「まぁいいわ」と言って、僕の手を引っ張ってきた。


「ほら、そろそろ時間だから、早く帰るわよ」


「えっ? いや、まだゆっくりしていたいんですが……」


「はぁ? そんなの、ポチが1人の時にしてなさい。今はあたしがいるんだから、あたしの意見が優先よ」


「そ、そうですか……」


 僕は苦笑いを浮かべながらそう答える。そして一条さんは僕の手を引きつつ、個室から出ていった。


 ……こんな感じに今日も僕は一条さんによって弄ばれるのであった。自業自得と言われようとも、これはやっぱり理不尽だと思うんだ。


 今回はわからせチャンスをものにできなかったけれども、今に見てろよ、一条さん。


 いつかこの生意気なメスガキに一泡吹かせてやるんだからなぁっ! 覚悟しておけよぉおっ!!









 ――――――――――――――――――――――――――


 Q. 有栖ちゃんはどうして怒っていたのでしょう?


 A. ポチが他の女の子と放課後デートをしていたから。


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一条さんには 逆らえない。~絶対的女王様な彼女に絶対服従な奴隷の僕~ 八木崎 @yagisaki717

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