短文集

蛸田 蕩潰

1

空を、飛んでみたかったんだ。

何者にも、縛られたくなかった。鳥のように蝶のように蛾のように、ひらひらと、なぁ、私は飛びたかった。

夕日を背負う鴉に、游と舞う蝶に、くらくらと踊る蛍に、私は憧れたんだよ

思えば誰しもそうだったんだ、きっとそうだ、人間は空を夢見る。狂おしい程に、地から脱却し、引力をねじ伏せるものたちに嫉妬するんだよ。

だから剥製や標本があるのだ。

イカロスのように、この仮初の翼が焼かれども、うん、大丈夫だ、一度だけ、飛んでみようじゃないか?

モルフォにもオオルリにも鷲にも翡翠にもなれずとも、きっと空を飛ぶ私は自由なんだ。


空を舞う。

体が空を切って空気が流れる感覚が恍惚で、空以外の何にも身体が触れていない開放感が、曖昧な憂鬱をかき消す。

あはァ、もっと早くに、こうしておけば良かった。

もう溶けて消えてしまったけれど、飛んだ刹那に、この背には一対の翼が生えていたはずだ、この瞬間のために、私は私を生きながらえさせてきたのだ。

もし次があるのなら、きっとそのときも、私という物語はこう締めくくられるだろう。


ふわりと宙に舞ったその人物の背には、脆い脆い翼が、生えていたようでした。

その翼は、風を一瞬切っただけで、ふぁさりと、煙の流れ去るように崩れ消えますが、彼は本当に、満足気でありました。

けれども地に落ちた鳥は、やはり人間の体をしていました。

ヒトはヒトから、逃れられないのです、しかしてあなたが切に願うなら、世界はほんの刹那でも、奇跡を与え給うやも、しれません。

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